継ぐ
「毎日仕事しているわね。」
カトリナがぼそっと言った。
「どうしたの?突然。」
「魔法使い氏が毎日ちょっとずつ依頼を受けているのよ。
今までこんなことがなかったから。
放っておいたらいつまでも残っていそうな、魔法使いが必要なものやややこしいものとか、難しいのをちゃんと選んではいるのだけどね。」
いつも本部から手紙を持ってくる人が、今日は来る日ではないのに慌てた様子で持ってきた。
「緊急で要請です。
SSSランクの方は何人いらっしゃいますか?」
ギルドマスターは考えている。
「3.5人だな。」
なぜ小数?その場にいた人は全員思ったはず。
「0.5人ってどうしてですか?」
「ここに、場合によってはそれ級になるかもというのがいるから。」
と私を指差している。
「カトリナすまんな。」
「全員ちゃんと帰ってきてくださいよ。」
すごく不安そうな表情をしている。
「そこにいる剣士のジョーに、何かあればお願いして。」
「任せとけ。そのためにわざわざ呼んだのだろ?」
ジョーさんは、このギルドに何度も来ているSSランク剣士。
マスターとは三十年の付き合いらしい。ほぼ幼なじみなんじゃ?
「マスター、私じゃなくてジョーさんの方がいいのでは?
あちらの方が慣れているでしょう。」
言われた場所の手前に移動させられ、目的のモンスターがいるところへ歩いて向かっている。
適度に何か話せと言われたので、尋ねた。
「慣れてはいるが、あいつは生き物と話せないんだよ。
しかも魔法に耐性がかなりある。
そういう状態だからやばそうな依頼には連れて行けないんだ。」
今向かっているのはやばいの?
「やばいというか、話して通じればいいんだがな。
しかも気まぐれだから、全員と話せるとは限らない。」
と、魔法使い氏。
「失敗したらこの辺丸焼けか何年と氷づけか?」
とレオさん。
一体どんななの?
そういう話だったから、てっきりドラゴンみたいなのを想像していた。
どう見ても・・・インコ。
ワシぐらいの大きさがありそう。
何かよくわからない言葉で歌っている。
「リア、気持ち悪いとか何か変なことはないか?」
「何も?変な歌を歌っているなあと思っただけですが。」
振り返ると、魔法使い氏がうめいている。
「不快だ。今あいつは、人の悩んでいることを増幅させる魔法を歌にのせている。」
『だって、家の人が探してんのにさー、わざと別人になったり、消えたりを繰り返してんの。
いい加減におさまれよ。』
インコが魔法使い氏に説教?
「うるさい。人には人の事情があるんだよ。」
『そこのお嬢さんに、代わりに継いでもらうかっ、ケッケッケ』
そう言ってバサバサどこかへ飛んでいった。
「落として焼き鳥にしてやればよかった。」
あれから一時間たつのに見つからない。
「何をあれとしゃべってたんだ?」
レオさんには聞こえていないらしい。
「暗に家へ帰れと言われた。」
『そうそう、帰った方がいい。』
魔法使い氏が指から何か放とうとしていた。
「焼き鳥はやめとけ。
捕獲して引き渡せと。討伐禁止になっている。」
とギルドマスターが言ったので
「ちっ!」
魔法使い氏から放たれたそれは、インコみたいなやつすれすれを通り過ぎて行った。
「仕留め損ねた。」
「あれじゃあ、本気で焼いていただろ!」
ケタケタ笑って、私のすぐ近くにある木にとまった。
『不自然なのは長い期間もたないから、自然な形におさまるよ。
あいつもそう、君もそう。』
「私?なんで不自然?」
『しまった。わかるんだったね。
口がすべった!
うああ!』
レオさんが投げた、妙にきらきら光る網に、インコぽいやつは絡まっている。
『本気出せばこんなのすぐに壊せるさ。』
凍って粉々になってしまった。
「あれぐらいじゃ捕まらんか。」
ギルドマスターと二人で残念がっている。
「あれ?インコみたいなのは?」
私たちの周りの木がどんどん倒れてくる。
まるで倒れた木のおりの中にいるみたい。
「おりだな。」
『おりだよ。さて、どれが本物かな?』
インコみたいなのが、何羽もいる。全部が一斉に飛びかかってきた。
「痛い、痛い!」
幻覚ではなく、全部本物のように体に当たれば痛い。
魔法でなんとかしようとしているみたいだけれども、体当たりされてうまくいかない。
殺さずと言われているから、思い切り剣を振れない。
レオさんは、むちを出して振り回しているけれども、落ちたのはしばらくするとまた元どおり飛んでくる。
一羽が私の顔に正面から当たった。
「もー怒った。
一羽ぐらいやってしまってもいいですね!」
「リア!もうやめろ、そいつの羽がなくなる。」
ギルドマスターとレオさんに腕を押さえつけられていた。
あれから、全部振り落として羽をむしっていたらしい。
本部にあれを引き渡す前に、魔法使い氏はあきれていた。
「見事にはげだな。」
自慢の羽だったらしくてしょんぼりしている。
「ごめんなさい。
別にむしりたかったのじゃないの。
気がついたらこうで・・・止められていたの。」
「リア、戻すぞ。」
かごの中にいるあれは、ふわふわの羽が生えてきた。
「一時間もすれば、元通りだ。」
連絡してあったのか、本部の人が回収に来たのは一時間後だった。
「なんか体がピカピカじゃないか?」
と不思議がられたけれども。
「全部を振り落とすのも驚きだが、その後どうして羽をむしってしまったのか?
さすがに報告書には書けないな。」
ギルドマスターは困っていた。
「申し訳ありません。」
今まで相手に向かっていて必死になりすぎるとその記憶がないということが多々あったけれども、今回はわけがわからない。
「面白かったな。羽をむしっただけだから、ちゃんと生えるし。」
レオさん、慰めになっていません。
でも、とギルドマスターは言った。
「やつは機嫌が悪かったり、バカにされたりすると思いもよらない動きをする。
それの一番ひどかったのは、火をはいてその辺一帯を燃やしてしまう、あるいは凍らせてしまうというもの。
だからモンスター扱いされる。
呪いはしないみたいだけれども、何日も眠らされたり、まひさせられるぐらいはまあまああるようだ。」
「面倒な相手だったのですね。」
「だから羽ぐらいむしってやっても問題ないさ。」
でもあと少しでツルツルになるところだったのを見ると、よほど私は腹が立ったのだろうと思う・・・けど、そうかな?
あのインコみたいなのが運ばれた先は王宮だった。
「?羽がきれいになっている気がするな。」
王子たちが見ている。
ある時森で見つけたそれを気に入って、捕まえてきたのが十年前。
これまで王宮内で暮らしてきたのだが、急にへそを曲げて脱走。
でも、わかるように魔力を出していたらしい。
場所だけは把握していたので、ギルドに頼んだのだった。
『気じゃない。強制的に生え変わらされた。
外の方が危険だ。』
「どうされたのかは、まあそのうちに聞くから。」
ぶすっとしてしているインコみたいなやつをなだめていた。
『おまえらの一族は嫌いだ!』
「はいはい。」
ギルド本部経由で依頼してきた側からお礼があったとの手紙。
「ギルドの運営費の一部にしてほしいと、100万ゴオンをいただいただと。
必要な時にその都度もらえばいいから、今はためておく。」
レオさんが驚いている。
「そんなに依頼にお金をかけるということは、よほど大切だったんだな。
それを・・・」
私を見ないでください。そうですとも、私、むしりましたとも!
こそこそと仕事をした。
「えええ!そうだったんですか?」
周りの動きが止まるぐらい、大きな声をカトリナはあげた。
「なんだ?」
「ああ、今日の依頼で最後にして、家に戻るって言っただけだ。」
魔法使い氏は頭をかいて、言った。
依頼を終えて帰ってきた魔法使い氏は、カトリナや私にあいさつをしてくれた。
「そのままこの世からいなくなるわけてはないし、そんな顔をしなくても、な。」
どうやらカトリナはこの世の終わりみたいな顔をしていたらしい。
帰る時間になったので片づけていると、魔法使い氏が呼んでいる。
奥の部屋にギルドマスターとレオさんがいた。
カトリナは用事があるらしく、魔法使い氏としばらく話をして、帰っていった。
部屋のつくえやいすは、端に片づけられてあった。
「・・・知り合いの前でするというのはあまり良くないかもしれないが。
リアはそこに立って。」
三人で魔法使い氏を囲むような形になっている。
足元に魔法陣が浮かんだ。
?
なんでお父様のような人の姿が見えるの?すっと浮かんですぐに消えた。
「終わったよ?」
レオさんに揺さぶられた。
「今のは何だったのですか?私の父のような人が浮かびましたよ?」
「先代の記憶の引継ぎだから、たまたまお会いしたことがあるのかもな。
見えた中でも引っ掛かりがあるから覚えているのだろう。」
すっきりしない。
「先代の記憶を引き継いで何を?」
「これで、完全に家を引き継いだ。名実ともに。
一つ面倒も引き継ぐんだが。こっちの方が嫌かな。」
「いつまでも拒否するわけにはいかないのだろ?」
ギルドマスターに諭されるような言われ方をしている。
どんな面倒なものを引き継ぐのかわからないけれども、重要なものみたい。
帰ろうとしたところ、魔法使い氏に肩をポンとたたかれた。
「まあ落ち着いたら、また来るさ。」
「はい。・・・お元気で。」
家で今日の出来事を言った。
「そうか。そんなにお世話になったんだね。
でも、また何かで会えるよ、きっと。」
お父様に気休め程度かもしれないけれども、そう言われた。
また来ると言ってたし。期待せずに待ってみよう。
「まさかモレアの当主の引き継ぎにリアが付き合わされるなんて思いもしなかったね。」
魔法陣が現れて消えたという話。
そういう形で行われると聞いたことがある。
「先代に、最後にお会いして何年でしょう。
リアの名前の話をしたのは、最後ではなかったと思いますが?」
しばらく考えた。
「十八年近いか。
あの時に、どういう状況になっても縁は深いって言われたけれども、こういうことだったんだ。
それと、当代から言いませんとわざわざ、リアの体にメッセージをくっつけてよこされた。
言わずにはいられないかな?
影響力は全くないのにね。」




