しょっちゅうは行きません
「リアさん、お借りしまーす。」
「え!またですか?」
こういう調子で、今週三回目の捕獲依頼の手伝い。
先週から手伝うとの貼り紙をして、先週は二回行った。
やっている間の記憶が曖昧だから、どうやって倒せたのかわからないけれども、ピンチになったところから後を引き継いで、全部を終えていた。
味を占めた人と、話を聞きつけた人に今週は連れて行かれたんだけれども、私にあまり報酬を分けないで、楽しているだけに見える。
先週味を占めて、再び今日行った人たちは、レオさんから見てもひどかったみたい。
「報告書を見ると、あなたたちのやった部分はほとんどない。
これで報酬をもらおうっていうのは、虫がよすぎる。
支払えない。」
「ちゃんと、リアさんには安全なところでやってもらって、無事帰しましたよ。」
ギルドマスターもやってきた。
「・・・ひどい。
先週のは・・・これもほとんどやってないぞ。
やる気がなくて、報酬だけもらっていくなんて!出入り禁止だ。」
そうマスターが言った途端、彼らのギルドカードが浮かびあがり、カードのふちが赤くなった。
「ええ!そんな!」
「俺たちはがんばった。ただ自身のランクよりも難しかっただけだ!」
と言うと、カード自体が黒くなった。
「あ・・・言っちゃった。」
ランク偽装がばれて、活動停止になったのだった。
「しっかりしたルールがいるな。
ここまでひどいとは。」
ギルドマスターとレオさんがあれこれって、案を出してきた。
”討伐、捕獲はあくまで補助。人数合わせ。
その他は相談に乗る。
ギルドマスターの許可なしでは出せない。”
「こんなところか。」
この内容で、貼ることになった。
「手伝ってもらったらすごかったんだよ!
隙がないっていうんかね。こう、ずばっと!」
なんか脚色されている。
「まっすぐに突き進むの!一撃だよ。」
それも違うから!
否定したり訂正しても手遅れで、話だけどんどんあることないことを混ぜ合わせて広まっていく。
「なんか、達人みたいな扱いになってるよ?」
「違うのにぃー。」
貼ってあった紙を外した。
行きたい人は相談に来るし、結局は受付で聞いてくるから、しばらくはおとなしくなるはず。
そのとおり、採取の依頼がメインで、しかも週に一回行くかどうかの割に戻った。よかった。
相変わらず私はどたばた。
「またか?ドロドロじゃないか!」
魔法使い氏が、目でレオさんに抗議している。
「これでもユニコーンに手伝ってもらったんですけど!」
私も聞きたい。どうやったらこうなったのか。
「足を滑らせて、じたばたしているとくわえられたのですが。
それ以前に落ちた場所が悪かったみたいです。
ユニコーンにも笑われました。」
でも肝心のものは取ってきた。
「割が合わんな、毎回毎回ドロドロだったり、ずぶぬれだったり。」
「私たちの心労も考えてほしいもんだね。」
レオさんも魔法使い氏も苦情を言っている。
家に帰るとお母様に気づかれてしまった。
「リア、髪の毛のくくりかたが変わっている。そんな器用なくくり方しているのを見たことないわ。何かしたわね?」
「ええっと、一度どろどろになりました。
洗ったのでこういうことに・・・。」
カトリナが結び直してくれたのだけど、なんか違うと思ったら凝ったことになっていたのね。
事情を話すと、お父様はそんなに笑ったことがないだろうと思うぐらいに笑っていた。
「誰に似たのかしら?
周りを見ずにまっすぐ進んじゃうのって?」
「・・・耳が痛いなあ。」
「リア、久しぶりに大物捕獲の手伝いだよ。」
ギルドマスターに呼ばれて行くと、眼光鋭い剣士と風が吹いたら飛ばされそうなぐらい細くて存在感のなさそうな魔法使い、がっしりとした体格だけど手ぶらの人が待っていた。
大物捕獲ということは、みんなそれなりの人のはず。魔法使いさん、大丈夫なのだろうか?
「申し訳ない。三人より四人の方が取り囲みやすいので、お願いします。」
とがっしりとした人が言う。
「わかりました。」
ユニコーンがいる森と反対側にある森。木の生え方がすかすかで、地面にもしっかり日が当たる。
林という方が正しいと思うんだけど。
こんなところにいるの?
「移動してきたみたいですよ。
同じような依頼をマナタのギルドで見たことがありますから。
一年ぐらい前ですかね。」
細い魔法使いが言った。
「あの時は他の人が追っていて、捕獲しそこね、どこへ行ったのかわからなくなっていました。
そもそもこういう所には住んでいないのですが、目撃される所は薄日の差すところや日当たりのよいところが多いですよ。」
とがっしりとした人。
そして、ボソッと
「私が言うのですから間違いない。」
?
どういう意味かしら?聞きたかったけれども、剣士さんににらまれて、何も言えなかった。
手ぶらの人は、だんだんきびしい目つきになり、毛が逆立っていた。毛深い人だなと思うぐらいだったが獣人だという。
目標が近くにいるらしく、耳が立ち、急に地面にへばりついたかと思うと、駆け出していた。
向こうでグルグルガウガウ言っている。
私はいらないんじゃないですか?
すぐに身構えられるようにしてとは言われたけれども。
魔法使いさんと獣人さんで、剣士さんの方へ追い込んで、それを剣士さんがたたく。
一度だけ私の方へ来たけれども、大したことなく。
でも、
「やばい!」
剣士さんと獣人さんで、モンスターの腕の動きを止めて、魔法使いさんが捕獲の器具をセットしていたのに、急に獣人さんが言うと三人は飛びのいた。
「え?」
当然私に突進してきた。
「あれ?」
まただ。記憶にない。
剣でモンスターのおなかを軽く切りつけたみたいで、今はのど元につきつけている。
モンスターが私をみておびえている。
さっさと魔法使いさんたちが捕獲して完了した。
「リアさん、ご協力ありがとうございました。」
私はさっぱり覚えがないけれども、ほかの三人は見ていたので、彼らが報告書を書いて終わった。
だからどういう風になっていたのかわからない。
三人はギルドマスターにまだ言うことがあるらしく、奥の部屋に通されていた。
「隊長からリアさんを借りてみてはとの助言がありました。
そのとおりお借りしたわけだったんですが、あの動きはなんでしょうか?
急激に殺気を帯びて、突進してくる相手に向かっていました。
魔力や魔法が発せられたのでもないのに。
まるで・・・いや、いいです。私の憶測ですから。」
ギルドマスターは駆除隊だったかと納得した。
「リアは元貴族の子女です。
ここへその貴族の方が来られた時、全員魔力なしの状態でした。
取り決めで、彼女の一家について詮索しないこととなっているので、詳しいことはわかりません。」
獣人の顔色がさらに悪くなった。
「大丈夫ですか斑長?」
「大丈夫だ。・・・私の憶測はもらしませんので、気になさらぬよう。」
練習場の一角に、捕獲した物を入れておくおりがある。
さっきのには、ちゃんとエサと水が用意されてあった。
「レオさん、いつもエサが置かれているのではないのに、今日は用意してあるんですね。」
「しばらく追いかけられていたからな。
それに、保護対象だからだよ。」
「保護?」
「魔物、暴れることが多いからモンスターと言われるやつらは、ひどくて人や環境に影響を与えるなら駆除や討伐なんだが、全部をつぶしてしまうといけないものがいくつかある。
そいつはそういう類の一つだ。
保護区に送られて、ある程度数が増えるか、専門家がいいと言えば決められた場所に放す。
おりに入れるわけじゃないから。」
おなかは空いていたみたいで、飲み食いした跡があった。
依頼に一緒に行った三人がやってきた。
「リアさん、必死なのは良いのですが、もう少し力抜きましょう。
あなたの実力では、記憶がなくなるほど一生懸命出なくて十分ですよ。」
と剣士さんに優しく言われた。
そして、おりに近づいて、
「じゃあこれで。」
と言うと、おりの中身と三人は消えた。
「?」
「駆除隊は、文字通り駆除もするが、保護もする。
今回はリアを借りたかったから、ああいう形を取ったそうだよ。
こっちはそんなことを知らされていなかったから、後で言われてちょっと驚いたけれどな。」
知らないうちに有名?