リベンジ
「ギルド本部が騒がしいみたいだな。」
「おう、どうした?」
「認定が甘いとか、偽装が多いとかいう話だ。
騎士の方へ、判定に人を貸せるようなら貸してほしいという要請が来ているんだと。
あ!指導筆頭、おはようございます。」
「おはようございます。どうされましたか?」
騎士のみんなが話していたことを伝えていると、後からやってきた小隊長が、
「正式にはまだだが。ギルド本部では、認定自体もやり直すかもしれないと大騒ぎらしいな。」
「そうなったら、おまえたちも行くか?」
後ろから来た隊長が、指導筆頭と小隊長の肩をポンとたたいた。
「いえ、それほど経験がありませんので、人をランク付けできませんよ。」
指導筆頭はぽつんと言った。
「謙虚だなおまえは。だからこそ貸し出してもいいかと思うのだが。
まあ、どうしようもなければお願いするというぐらいだから、貸し出さずに済むかもな。」
「ギルド本部は大騒ぎだとな。騎士の方でも話題になるぐらいだからよほどだな。」
ギルドマスターは手紙を見て、レオさんに話している。
「最近リアが手伝っている依頼だが、捕獲も増えてきたな。」
「今のところは、そんな殺気立って真剣にやらないといけないというものはないですよ。」
大丈夫そうでも気になるので、レオか魔法使い氏がこっそり後をつけている。
「もうそろそろ、もう少し難易度の高いものを手伝ってもいいかと思うが。」
「この依頼がいいかな。リア、この依頼を受ける人たちが承諾してくれれば、行っておいで。」
「これ、かなり難しいのでは?」
今までとは違う内容。捕獲とあるけれども、場合によっては討伐って。
しばらくして、依頼を受ける人が現れた。
四人組だ。剣士、魔法使い、サブの魔法使いでヒーラー・回復系、弓使いの剣士。
しかも全員S。この依頼を受けるには、理想的な組み合わせという。
「その依頼に、勉強も兼ねて連れて行ってやってほしい。」
「いいですよ。」
妙ににっこり、さわやかなのが引っかかりますよ?
やっぱりそうだった。
「ふーん、Aランクの剣士ね。でも、剣を持っていないよ?」
そういう人に会ったことがないのだろうか。
「体にしまっているので、必要な時に取り出せます。」
「ははっ、だから連れて行ってくれなんだ。
手が遅くなるもんな。」
弓使いの剣士がリーダーなんだろうか。偉そうにしている。
「ねえ、連れて行ってやるんだから、出しゃばらないでね。
身の安全は自分で守ってね。僕たちベテランの足手まといでしかないからさ。」
「そうそう、報酬は取らないでもらえます?
あなたを連れて行っている手間賃でいただきますから。」
全員非常にいやそうな目で私を見ている。
さっきのさわやかさはかけらもない。
ため息をついた。
既視感、いやいや、経験済みです。
全員やられちゃってる。
恐ろしく大きいのと、私ぐらいの大きさのとに挟まれている。
どうしよう、どうする?
小さい方が私に飛び掛かってきて、剣を出して払うと、毛が飛び散り、赤い液体も飛んできた。
「がっ!」
怒っちゃったみたい。
小さい方が再び飛び掛かり、大きい方も走ってきた。
「うっ!」
気が付くと、小さい方が白目をむいて倒れている。
大きい方は態勢を立て直し、もう一度飛びつこうとしていた。
あら?
大きい方がひっくり返ってじたばたしている。
私が切りつけたらしい傷のせいで、立てないみたい。
教えてもらったくくり方で、大きい方をくくった。
「はあ・・・。」
小さい方もくくって、とりあえずギルドに戻る。
私の顔を見るなり、魔法使い氏がすっと消えた。
裏で、ドサッという音がした。
「両方とも捕獲か。うまくくくれたね。
けがなく無事でよかった。」
レオさんやギルドマスターにほめられたり、安心されたり、忙しい。
ギルドマスターに、
「リアがやったところの報告を書いてごらん。」
と言われたが、記憶がまだらにしかない。
「・・・マスター?
私、必死すぎたのか、記憶がところどころありません。」
「いいよ、覚えている範囲で。」
レオさんは、裏で捕獲した二頭の記録をつけていた。
私は覚えている範囲を報告書に書いて提出したところ、ギルドマスターはレオさんが書いた紙と合わせていた。
ギルドマスターは金庫から報酬を出していた。
「え?全額じゃないですか?
私は後半をやっただけですよ。」
「引受人が付けた傷が一つもない。だからやつらはなしだよ。
回収費と回復費を本来はもらわないといけないが、それを請求していないだけよしとしてもらわないとな。」
「間違っている。あいつにそういう力があるとは思えない。」
「ギルドマスター、他の依頼をもう一度行かせてください。」
と四人が文句を言ってきた。
「仕方がない。リア、明日かあさってでよさそうなものがあれば、行ってきてくれるか?」
「はい。」
四人の無言の圧力で、はいと言うしかなかった。
また、彼らは倒れて動けなくなっている。
残された私がやったら、今日のは討伐してしまっていた。
一生懸命すぎるのか、記憶にない。
「おかしい。」
とギルドに戻って魔法使い氏に言うと、
「おかしいじゃなくて、実力でしょ?」
「どう対処したのかがわからないんだから、こちらで魔物の傷と現場を見て記録したものをつけておく。」
また、全額が私に支払われた。
「まぐれとか間違っているって言えんよな。おまえら。」
再び森で倒れていた四人に、ギルドマスターは説教をしている。
「・・・はい。」
「それと、リア、もうこのレベルに達しているんだよ。
いつでも行けるようにしておこう。」
「え?」
強制的に登録させられて、人数が足りない時の調整の人となってしまった。
「二件とも見ていてすごかった。
前と同じ。一点集中で弱点をつく、斬りつける。
意識が飛んでいるのか、見てなかったことにしてしまっているのか?
いろいろ聞いてみたが、覚えていないと真顔で答えるから、そのとおりなのだろうな。」
「見てくれていたおかげで、どうやったのかの経緯も記録できているが、もう少し状況を覚えててほしいな。今後の課題だな。」
レオとギルドマスターは、今後のリアを考えると頭が痛かった。
「もう報告はいいか。
自分を守れる程度の剣術を身につけているって言っときゃ。
あまりいろいろ書いて、心配させてもなあ。
関係のない私たちですら、交代で後をつけているぐらいなのに。」
独り言を言いながら、ギルドマスターは手紙を書いている。
リアのがんばり様もすごいが、手紙の相手の方もすごい。
騎士になって半年で班長はめったにいない。
それだけでなく、二年足らずで全騎士の指導官の長である指導筆頭。これは前代未聞だろう。
家の方が騎士を継げと言ったにしても、こんなにさっさと進むことは簡単ではない。
意地か。
もうあとは何になるつもりか?
指導筆頭は、通常隊長と呼ばれている大隊長に次ぐ。そして、小隊長と同等かその上だから・・・?
「ほぼ上り詰めたってところじゃないか!」
思わず声が出て、魔法使い氏が驚いている。
「なんだ?手紙書きながら、さっきから独り言を言ってたが、とうとうでかい声になっているって?
そんなに驚くことでも?」
「ああ、すまない。
思わずな。
・・・次はどこを目指すんだ?」
また声が出ている。
「それだけ能力があれば、心配しなくても、次のために周りが勝手に用意するさ。
彼は魔法が使えるからな。」
「えっ?」
ギルドマスターが魔法使い氏を、穴が開きそうなぐらい見ている。
「何か?」
「予知できるのか?」
この、能力だけはある、うさんくさい魔法使いなら、予知ができても驚かない。
「そんなわけなかろう。
城の連中が考えそうなことを言ったまでだよ。」
よかったとギルドマスターはつぶやいた。
いつになく悩みながら、やっと手紙を書き終えた。




