納得いかない
ギルトマスターに、二人が報告している。
練習場にやってきたカトリナが
「すごい!一人でやったの?」
と言ってきた。
「一人でやったんじゃないってば。先に三人がやっていたのを引き継いだだけよ。」
ギルドに戻ると、大騒ぎになってしまった。
みんながわらわらと裏の練習場に行って、倒れているモンスターを見て帰ってくる。
「もう、裏方やめて討伐に行ってきたら?」
「もったいないよ。これだけできるのなら討伐でも捕獲でもいけるよ。」
いろいろ言われる。
でも、私はおまけで最後に剣を振り回していると、倒せていたというだけ。
「いや、みなさんがさんざんやって、それのとどめだったからですよ!まぐれ!」
そう、まぐれなはず。
やっともともとの引受人三人が目を覚ました時には、周りが暗くなっていた。
「お疲れさん。リアと行ってくれてありがとう。
勉強になったと言っていたよ。」
「?そ、そうでしたか。それは良かった、はははは。」
「モンスターを最後どうやったのか、実は記憶にない。」
「リアが最後突いたら、倒れたそうだよ。
リアが助けを求めて、それをうちの剣士とたまたまいた魔法使いとで、回収の手伝いをしただけだ。」
ギルドマスターは細かいことを言わず、大筋だけを伝えた。
「はあ。」
「記憶のある部分までを報告書に書いてくれ。それを提出でいいから。」
「火のついたところへ飛ばされて、熱いと思ったところまでは記憶にある。」
「そう、二人と自分が燃えてはいけないので、火を消した。」
と魔法使い。
「それ以上は記憶がない。覚えがない。」
何度考えてもここ止まり。
そのとおりに報告書を書き、ギルドマスターに渡した。
「なんかよくわからないが・・・。」
そう言いながら三人は帰っていった。
「だろうな。そして、リアの記憶がないのもな。
ありがとう、二人とも。」
「いや、下手に記憶があっても困るだろう。最後、実はモンスターの体液まみれでしたっていうのはな。魔法使いがいてよかったよ。」
「・・・すごかったからな、においも。」
ギルドマスターは、二人からの報告書を足したが、その部分は閲覧不可にした。
「そういうことができるのか?」
魔法使い氏が、不思議そうな顔をして聞いてきた。
「条件付きでな。あの子の魔力を解放するならば閲覧できるようにするつもりだが、そういう日がくるのかは不明だ。」
「そのまま閲覧不可の方がいいかもな。
意識が吹っ飛んだ状態で、体が勝手に反応して戦うっていうのを知ったら、狙われるかもしれない。」
魔法使い氏の言うことはもっともである。
「閲覧する者がまともだとは限らないからな。」
「本部から、昨日の報酬は提示の三分の二といわれたよ。
だから、申し訳ない、六万だ。」
昨日連れて行ってくれた三人が、ギルトマスターを相手に、むすっとしている。
「途中で倒れてしまったからか?」
「まあたぶんな。それと最後、ギルドから人を出して、引受人も回収したからな。」
ちぇっとか言ってる。
「今日はこれだ。行ってくる。」
引受書を出して、三人は出ていった。
「リアはついて行かないの?」
「誘われてないし、マスターも何も言わないし、行かないよ。」
レオさんが、
「昨日初めて行ってきたんだ。
しかもベテランが全員倒れてしまっての最後をやったんだから、疲れただろう?
行くことないさ。」
と、行かなくていい理由を足してくれた。
昨日のは、なんかふに落ちない。
三人がやっていたけれども、あの後どのぐらい私がやったのかわからない。
かなりやらないと倒せなかったんじゃないかと思うのに、レオさんたちは
「簡単にグサグサ刺して、終わりだったよ。」
「手伝うことなしだ。
大したもんだな。」
と言う。
「どこから見てたんですか?」
二人とも照れくさそうに答えた。
「ずっと後をつけていた。
だから初めから見ていたよ。」
「レオがあまりにも気にしてたからな。
何かあっても困るし。」
そんな人たちが言うのだから、そうなのかな。
向こうでリアの様子を見ている二人。
「疑っていそうだな。」
「時間は短いが、剣さばきは異様だったからな。
動きをさばいてしのぎ、集中して一点で急所を突く。
そうしろとは一言も言っていないし、させてなかったのに。」
剣士であるレオの発言を聞いた魔法使い氏の顔色が、あまり良くない。
「どうした?」
「いや、別に。」
言えんよな、父親とやり方が一緒って。
心の中でつぶやいた。
なかなかあの三人が帰ってこない。
「どんな依頼を受けたのか?」
依頼はSランク。
SSランク魔法使いを含む、三人以上で。
捕獲のみ。
「ンギアロルカって、普段姿をその辺の景色と同調させていて、興奮状態の時だけ姿を見せるのでしたっけ?」
カトリナがそう言うと、ギルドマスターがため息をついた。
「逆だよ、カトリナ。
興奮状態、つまり怒らせると姿が見えなくなるから非常に厄介だ。
だから、魔法使いにそいつを落ち着かせるか、見つかっていないうちに動きと意識を止めさせるとかするんだよ。」
「時間がかかっているということは、見つけられていないか、間違って怒らせたかだな。」
とレオさん。
戻ってきた他の人たちが、
「誰かさんたちはヤケクソ状態だから、興奮させてしまったようだよ。森の中を走り回っている。」
「森の結界を強めてきた。
入り口にあった、緊急用魔法陣を稼働させておいた。」
魔法使い氏が、
「行った方がいいか?」
と言うのだから、緊急事態なの?
「すまない、カトリナとリアは私たちが戻るまで留守番していてくれ。」
ギルドマスターと魔法使い氏はレオさんを呼んで、森に向かった。
三人が行って十分ぐらいたったころ、ドーンという大きな音と突き上げるような地響きがあった。
それっきりだから地震ではなさそう。
急に腕をつかまれ、
「リアを借りてくぞ!」
「えっ?はい!」
何あれ?
引き受けて、やっているはずの三人が、クモの糸のようなものでぐるぐるまきにされて、二人は木の枝からぶら下げられ、一人は地面に放ってあった。
何かが背中に当たって、前に飛ばされた。
「イテテテテ」
あまりの痛さに四つんばいになってじっとしていた。
どれぐらいじっとしていたのか、気がつくと、目の前に何かの生き物の脚が見えた。
『今日は人間がうるさいな。』
起き上がって見てみる。
大きなヤギのようなシカのようなのがいる。
でもそれらとは違うのが、風をまとっているところ。
『あのバカどもはくくりつけておくに限る。』
「はあ。」
『で、後から来たやつに話せるのがいるっていうから待っていたのだが、こいつか?』
生き物としゃべられるということ?
「話せるには話せますが・・・何でしょうか?」
『捕まえてこいと言われたのだろう?』
「依頼されたのです。事情はわかりません。
条件が生け捕りってなっていました。」
こういう時に限ってギルドマスターたちがいない。
『そういうことをお願いするのは、だいたい年寄りだよ。
大昔を思い出して、懐かしい相手に会いたくなるって。
でも、人はもういないからって代わりに呼ばれる。
この十年ぐらいそういうのを繰り返しているからな。
で、依頼主はどこの誰だ?』
「キリルのレミリアと言えばわかると相手は言っている。」
とギルドマスターが言う。
いつの間に?
『確かに懐かしい名だな。行こうか。』
「えっちょっと!」
ンギアロルカにくわえられ、本来の引受人をほったらかして、どこかへ転移した。
広い部屋。
どうみても普通の家じゃない。
「ギルドマスター、悪かったね。
ルカはへそ曲がりだから、会えないかもしれないって思っていたから。」
話してきたおばあさんの服装は、どこかの貴族らしい。
『前に会ったのは結婚すぐの時だったか?』
「そうね。あの時は王様が許してくれたから会えたけれども。」
私たちは別の部屋に通されて、お茶とお菓子が出てきた。
「ここは、キリルの王宮だ。」
どうして王宮?
「依頼してきたのは、前国王の奥さんだよ。
とあるところの領主の娘と結婚したんだが、当時ンギアロルカはそこの森にいたらしい。
子どもだからンギアロルカに対して何も抵抗なく、犬とかと同じように接していたようだ。」
懐かしいペットや友だちに会う感覚?
「ごくたまに予言をする。」
「はぁ?」
レオさんと私が思わず声をあげた。
魔法使い氏はさっきから全く話さない。
「予言って言ってもあたるの?」
「まあ、少なくとも前国王の奥さんはそのとおりだったのだが。」
「レミリア様が皆さんをお呼びです。」
呼ばれたのでみんなで元の部屋に移動した。
「ありがとう。心残りがこれでなくなりました。」
『また呼べばいいじゃないか。この子を経由すれば簡単だ。』
なんで私を経由というの?
私よりギルドマスターに伝えた方が早いと思うのに、変なの。
「そうね。またお願いするわ。
今日はありがとう、皆さん。」
機嫌よく帰ってきたけれども、何かわすれていませんか、私たち?




