増えるユニコーン/判定するの?
『清らかな乙女。いまだに人はそれを信じているのか?』
「関わってきた人が、否定も肯定もしないできたからだ。
話ができるのは限られているし。」
森の中でギルドマスターとユニコーンが話している。
『たまたま長い期間話した相手が、未婚の女性だっただけで、そういう話になっているっていうのを先祖が聞いたら、笑い転げるだろうな。』
「いまもそうだからな。
彼女は今日も崇められながら、依頼の手伝いをしている。」
ユニコーンがふとマスターに言った。
『もしかすると仲間がここへ来るかもしれない。
最近騒がれることが多くなっているからな。静かに過ごせるところを探している。
ここは、清らかな乙女もいるし。』
向こうでドタバタやっているリアが見える。
「まっすぐではあるが、な。
増えたら増えたで、教えてくれ。
みんなにも言っておかないとな。
じゃあ、行くぞ。」
ふんっという鼻息が聞こえた。
依頼は終わったけれども、行った場所が悪かったみたい。クモの巣が体のあちらこちらにからまっている。
「もう少しましな方法はないのでしょうか?」
からまっているクモの巣を取り除くのに、普通にほうきでガサガサ体をさすられてる。
しかもそれを魔法使い氏がやっている。
「仕方がないだろ?クモの巣なんて魔力使うほどでもないぞ。」
「大体取れたんじゃない?」
カトリナが、変に固まっているところがないか見てくれている。
「ありがとう。あとは家で見てもらうわ。」
家に帰ると、とびらの内側にクモが巣を張っていたらしい。
「んっ!」
せっかく取ってもらったのに、また取らなきゃ。
「んもーぅ!」
顔に触ったせいで、目がチクチクする。
「見せてごらん。」
ちかっと何かが光ったけれども、
「うん、特に何もないみたいだよ?
気になるなら洗っておいで。」
目を洗って戻ってくると、
「念のためにこれを飲んでね。」
と、また紫色の苦い液体が出てきた。
「お母様、ここに何か加えてはいけませんか?」
「飲みにくい?」
「はい。苦すぎます。」
よほど変な顔をしていたみたいで、向こうでお父様が笑っていた。
「バッタを捕まえていたころ、ギルドで毒消しと魔力の修復、回復に効果のある薬を飲みました。
においは強烈でしたが、味は大丈夫でした。
同じように紫だったんですが。」
「うーん、何を入れるのかしら?」
「作ってくれた人が今いないので、何を入れていたのかわかりません。
聞いておいたらよかったですね。」
でも、お父様は心当たりがあったみたいで、何かを足していた。
しばらくすると強烈な、記憶にあるにおいがしてきた。
「うっ、こんなにおいだったの?」
「そうです、これ!」
できあがったものを、鼻をつまんで飲んだ。うん、味もこれ。
「・・・間違いありません、ごちそうさまでした。」
「ギルドにいた魔法使いは事情をわかっていたのだろうね。優秀だ。
後から足した分で、さらに早く魔力の回復ができるし、味の悪さもごまかせる。」
と父親が分析している。
母親は
「あの子は人に恵まれましたね。」
と言った。
「うん。この地を選んでよかった。そして、ギルドで働くようすすめてくれたことも良かった。
伸び伸びとやっている。」
「そうですね、なんと言っても楽しく過ごしていますから。」
母親は、強烈なにおいを放つ液体が冷めたのを確認して、瓶に詰めていた。
清らかな乙女と行くことを推奨なんていう依頼がなくなったころ、ギルドの前で中に入ろうかどうしようかと迷っている人がいた。
「迷うぐらいなら、入ってはどうですか。
ここのギルドの人は親切ですよ?」
「えっ、えっと・・・」
親切な引受人が、その人の手を取って、連れてきた。
「前で入るのを悩んでそうだったから、連れてきた。
すまないが、後はよろしく!」
行ってきますと言って、その人は依頼をこなしに出かけていってしまった。
一時間ぐらいたつのに、その人は何もしゃべらない。
受付前のいすに座っているのが、レオさんと魔法使い氏とその人だけになって、やっとしゃべった。
「この辺でユニコーンがいると聞いたのですが。」
魔法使い氏はいきなり、
「何頭で来たのか?その格好はもうそろそろ限界だろ?」
と言うので、私やカトリナ、レオさんの三人は驚いた。
「私を含めて三頭です。魔法で人の姿をしていますが、もう無理です。」
「さっさと言えばいいのに。」
ぐったりしているユニコーンに、ギルドマスターはあきれている。
『だって、ここじゃなかったら、また旅だし、さまよっていると捕まえられそうになるし。
そう思うと慎重にならざるを得ない。』
ギルドマスターは手におけと紫色の液体が入った瓶を持っている。
「それってユニコーンにも効くのですか?」
「まあな。」
そう、うちで作った薬の残り。
さっさと飲まないと捨てるだけになるから、誰か疲れた人にあげたらと言われて持たされた。
『がっ!なんだこのにおいは!飲めるの?効果あるの?』
「人なら鼻をつまむのだが、ちょっと息をがまんして飲んでみて。」
『においで死ぬかと思った。
一応効いたみたいだけど。』
お仲間の二頭と合流して、森の奥に行く。
向こうで、ひなたぼっこをしているのが見える。
『よさそうな場所だな。』
その声に気が付いたらしい。
『三頭も?急だな。』
四頭であーでもない、こーでもないと言いながら散策している。
「お互いの角が当たらないようにするのって大変そう。」
「持っていればそういうものとして、動くだけだよ。」
ギルドマスターは声をかけた。
「やっていけそうか?」
『まあなんとかな。しばらく試行錯誤だな。』
『大丈夫だろう。』
そう言うので、それぞれにお任せすることにした。
久しぶりに、剣士のギルド判定をやっている。
「腕が鈍ったのか?判定ランクを下げざるを得ない。Bに格下げだ。」
ギルドマスターが険しい表情で、おじさんを見ている。
「私だけではなく、ギルドマスターも言ってるし、他のA以上も全員一致している。
決定だよ。」
とレオさん。
その中年男性はランクを下げられてしまった。
「抗議しても言い訳しても無駄だ。
おまえさん、昔のけががとか、昨日は飲みすぎたとか言おうとしているが、体は見たぞ。問題箇所なしだ。
単に鍛練不足と老化だな。」
「貴様!魔法使いだからって言いたい放題言いやがって!」
突っかかろうとしているのを、ギルドマスターが止めた。
「やめておけ。モレアに勝てる魔法を使えるなら別だが。」
「モレア?モレアの魔法具がなんだ!力づくで壊せばいいだけじゃないか!」
モレアの魔法具を使っていると勘違いしている。
レオさんやギルドマスター、それに本人まで笑い出してしまった。
「何言ってんだ!本人だよ、本人。
道具じゃなくて、作る側だ。」
こんなの知らない。
気配が一気に変わり、周り全員に、緊張感が漂う。
時折、空気が鳴る。
「ぐっ、モレアって伝説で道具のことじゃないのか?」
「代々継いでるんだよ。必要に応じて魔法具を作った。それがたまたま丈夫で性能がよく、今まで残ってきたというだけだ。
金を積まれれば作ったこともあったようだが。」
魔力をひものようにして、それで相手をしばった。
「まあ、金で作らされたものはせいぜい依頼主が生きている間しか持たないようにしたみたいだ。
これでよし。」
「おい、どうすんだよ!」
中年男性は叫んだ。
ギルドマスターが困った表情で答えた。
「そうだな、本部に送って、”判定に不服、判定人を侮辱したため公平な判断を仰ぐ”とでも報告するか。」
男性をしばったままで、私の稽古が始まった。
急に思いもよらない方向から、剣が突き出されて、足で蹴って避けた。
「なかなか判断の難しいところで、よく避けたな。
仮で判定をやってみるか?」
目の前で判定するのを見た後だから、たぶん無理。
「判定がつくほどの腕はないと思いますよ?
判定するには、まだ早いでしょう。
だって剣士の人たちってもっとさっさと動いてませんか?」
「Bであれだよ。今のリアならあれぐらいになると思うんだが?」
「リアがんばって!」
「がんばれー!」
判定をすることになってしまった。面白がって、依頼を中断して戻ってきた人もいる。
ギルドマスターがいない。
「レオさん、マスターは?」
「もうそろそろ来るかな?」
ギルドマスターは二人の人を連れてやってきた。
「待たせたね。
知っている人だと公正ではないととられるかもしれないから、本部から来てもらった。」
そこまでされたら、引くに引けなくなってしまった。




