誘うのは、出会いのためとは限らない
「ここは報酬受け取りが、別なんだな。」
受付で、説明を聞いていた引受人が言った。
「この辺では大きいので、窓口を分けています。」
なんかカトリナをジロジロみている。
「たまにいるのよね。
この依頼が終わったら、食事どうって聞いてくるのが。
さっきのは私とリアを見てたわよ。気をつけてね。」
私を見ていた?気のせいじゃないの?
「そう、気をつけた方がいいぞ。
帰ってきて開放的になって、飲みまくり。
実は酒癖悪かった、なんていうのがいるからな。」
お友だちになりたくないです。
「ねぇ、もう仕事が終わるだろ?
食事どうかな?」
カトリナが言ってたのが来た!
「すみません、まっすぐ帰らないといけないので。」
「じゃあ、君はどうかな?」
カトリナがどう断るのか、興味がある。
「婚約者とこの後食事ですから。」
「なんだっ!残念。」
とぼとぼと出ていった。
「いるんだ・・・。」
「何言ってんだ、うそも方便だ。」
ギルドマスターがそう言うので、カトリナを見ると笑っている。
「いてもいなくても、そう言っといたら大体はそれ以上来ないわよ。」
「それは言いにくいわ。うそだもの。」
あれ?なんか引っかかる。
首をかしげて考えても、何も出てこない。
「どうしたの?」
「なんか良い言い訳がないか考えてみたけれども、どれもうそっぽすぎる。
誰かが病気とか、旦那がいるとか子どもがいるとか。」
「婚約者か夫にしとけば?
信ぴょう性があるように、想像しながらな。」
と突然魔法使い氏が言った。
「えー?いない相手を想像しながら言うんですか?」
「あながち間違いではなかろうに。」
「あの子の記憶にはないのだから、仕方がない。」
とギルドマスターは言う。
「でも!めちゃくちゃ言いたい!
そのとんちんかんな記憶を正してやりたい!」
魔法使い氏がそこにこだわって、キーキー言っているのが、レオとギルドマスターには意外であった。
そっちに気が行きすぎたのか、あの人相手じゃなきゃ、正してやるのに!と言っているのは、聞き逃していた。
「はははっ。リアが言うのもっともだけどね。
先輩が言うように、うそでもなんでもいいから自衛しないといけない。
意にそぐわないお誘いは、断るに限るよ。」
「お父様もそう思われますか?」
「裏で考えていることなんてわからないし、一緒にいてもつまらないと思うよ?」
「そうですね。」
カトリナに家でそう言われたと言ったら、
「そうよ。迷惑なんだから、ほいほいついてったらだめよ。
特にリアは。
何回か帰り道、声をかけられていたじゃないの?」
「あれは!・・・告白されていたの。」
ギルドマスターたちに聞こえないように、小さな声で答えた。
「そんなにも頻繁に?」
「たまたま出くわしただけよ。」
にまにまと笑っているカトリナ。
聞くよね?
「付き合ってるの?」
「残念ながら続かないの。
今は誰とも付き合っていないわ。
なんかね、付き合いだすと違和感があって、無理ってなっちゃうの。」
「あー、思っていたのと違うってなるんだ。
わからなくもないけれど。」
カトリナは?と尋ねたら、笑ってごまかされた。
これは付き合っているか、同じかっていうところね、たぶん。
「これとこれが終わりました。」
報告を受けて、依頼書と照らし合わせた。
「24000ゴオンか。
みなさん晩御飯、ご一緒にどうですかね、マスター?」
魔法使い氏以外で行くことになった。
ご飯に誘ってくれた剣士が、ふと私たちに尋ねてきた。
「最近生き物たちが、以前に比べて大きいような気がします。
しかも毒を持っていたり。
何か異変がありましたか?」
「先日、大きなモンスターが出た。本来はここよりも南に生息している。ここには小さいやつしかいなかった。」
とギルドマスターは言った。
「ギルド本部は、魔力が関係していると言っているんじゃないですか?」
「まあね。でも、それだけではないように思うが。」
剣士の目が細くなって、鋭く光っている。
「そう思われますよね?まだ何か隠しているのじゃないかって?
そういう現象は、バッタの大群が通っていく地域ばかりなんですよ。
バッタも原因と思います。」
「どこかで報告は?」
レオさんが聞いたけれども、
「丁寧に記録をつけているのではないから、仮説としても報告できません。
後から気がついたので、わざわざ今まで訪れたギルドを回るには時間がかかりすぎます。
とりあえずは、ここに来る前の二つのギルド分だけ、記録を写させてもらいました。」
と言った。
ギルドマスターは気になったところがあったみたい。
「明日か今から一緒に、ギルドに来てもらえますか?
確認したいことがあります。」
「いいですよ。今からでも。」
私とカトリナはそのまま家に帰ったけれども、三人はギルドへ戻っていった。
受付前にあるテーブルのところへ行くと、
「座っていてもらえますか、駆除隊の視察官殿。」
とギルドマスターは言った。
そういうと、その剣士はマスターの放った魔法でそのままいすに座らされていた。
「え?」
レオが驚いている。
「どういうことだ?」
「そういうことだよ、レオ。
熊じゃないがああいう感じの大きなモンスターが出た時、報告書の署名に続いて、わかる人にしかわからないように、追調査と理由を書いておいた。
一介の剣士がギルドにお願いして、記録を写すことなんてできないよ?」
「はははは、隊長が言ったとおり、鋭い人ですね。」
ギルドマスターは、記録を洗い出してまとめていたものを出してきた。
「この部分は写しても大丈夫なのですね。」
「ここはね。」
魔法をかけた途端、ぼんやりと文字が浮き上がり、剣士の持っているノートに吸い込まれた。
「さてと、ちょっとお待ちください。」
床に手を当てて、魔法陣を出した。
「こんばんは。申し訳ありません、お付き合いくださってありがとうございます。」
見覚えのある、獣人がいた。
ノートを見て、
「お手数ですが、ここからここまでのリアの様子を教えていただけますか?」
ギルドの記録をレオが見て言った。
「全部リアが外に行って、手伝っています。
モンスターや動物、虫に追っかけられたり、落ちそうになったりしたみたいですね。」
小さい獣人は、うんうんうなっている。
「・・・魔法の方のせいか、本人の魔力なのか。うーん、本人を守るためのものが、外に影響するのは問題ですね。
そういや前にいたSSSランクの魔法使いさんは?」
「どこかへ行ってしまった。
その代わりみたいに、モレアの御当主がいる。」
レオがそう言うと、駆除隊長はニヤッと笑った。
「それだ。二、三日借りていっても問題ないですよね?」
「また魔法使いさん、来ないね。」
小汚いとか大食いとか、放蕩魔法使いとか、みんなに散々な言われようだけれども、いないとなるとなんか気になる。
そう言っていると、やってきた。何日か前に、一緒に夕飯を食べた剣士さんに引きずられるようにして。
そしてそのまま奥の部屋に連れていかれた。
「なんかまた、どこかで食べ過ぎて、払えなかったんじゃない?」
カトリナ、そればかりってことはないんじゃないの?
「二度と会いたくない相手に会わなきゃならんかったし、借りを無理やり返さなきゃならんかったし、踏んだり蹴ったりだ。」
「すまないな。生態系がおかしくなったり、空間がゆがんでも困るからな。」
ギルドマスターはそう言って、魔法使い氏が差し出した剣を見ている。
「リアを守っているやつの魔力と私の魔力を練り合わせた結晶を使ってあるから、それでだめならがまんしてくれ。」
「普段はどうしましょうか、それ?
剣士でもないのに、腰からぶら下げたり、背負ったりするのはじゃまですよ。」
剣士が、マスターを見て言った。
「あの子なら、それぐらい体に収まるさ。
使いたい時にだけ、念じたらいいんだよ。」
と何でもないように、魔法使い氏は言う。
「収まるのか?普通なら無理だ。
やたらびりびりする。
普通の魔法具と違う。」
触った感想を、ギルドマスターは素直に言った。
普通の魔法具なら身につけたり、魔法使い氏の言うように体の魔力の一部として入れておけばいい。
でも、高性能なものや普通じゃないものは、持つ人を選ぶという。
「そういうのも含めて、リアに合わせてあるんだよ。
レオから渡しておいてくれればいいさ。」
「じゃあ、私は渡すところまで見てから戻りますね。」
剣士、正しくは駆除隊の視察官は真っ先に部屋を出ていった。
いつもの稽古のはずが、どうしてこんなに見られるの?
ギルドマスターはいいけれど、魔法使い氏とあの剣士さんまでいる。
「なかなかにいい筋してますね。」
「ここに魔法が乗っかると、無敵になりそうだが?」
いや、私魔力なしです。魔法使いなのに、何を言ってんの?
「そうだな。」
ギルドマスターが苦笑していますよ?
「ここしばらく大食い魔法使いがいなかったのは、リア用の剣を作ってくれていたからなんだよ。」
とレオさんから、一本の剣が差し出された。
「大食いは余計だ!
これはおまえさん用だから、しまっておきな。
念じるだけで、出し入れができる。」
!
二度、消したり出したり。
「大丈夫そうだな。」
「ありがとうございます。」
だから何人もが練習場にいたのね。
「じゃあ、試し斬りを。」
え?
いきなり剣士さんが斬りつけてきた。
とっさに出した剣で受け流して、払って前に出ると、何かにあたった感覚があった。
「よく切れそうですね。」
おなかに一本赤い筋。
「うわーああ!ごめんなさい!
切っちゃった!」
あん?
バチバチいっているだけで、それ以上は何もない。
「この剣は、本人に危機が迫っていなければ切れないようになっていますよ。
言ってなくてすみません。」
「心臓に悪いです・・・。」
そのまま、そこにペタンと座ってしまった。
「じゃあ、これで。」
剣士さんは行ってしまった。
何日かいた人が去っていくのは、いつ見てもさみしくて慣れない。
「そういうもんだよ。また来ることもあるし。」
「はい。」