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本格的

いつものように、暇な時間に体を動かしている。

「始めのころと比べて、ずいぶん動くようになったな。」

「はい、おかげさまで。」

ギルドマスターとギルド付き剣士が、何か話し合っている。

「今日からやろうか?本格的に。

自分の身は自分で守れないとな。」

「いつまでも、物を拾ってくるだけじゃつまらないだろ?」

「ええ、まあ・・・。」


「リア?大丈夫?」

「もうだめ、無理。」

今日の仕事分の作業は終わったけれども、眠くて眠くて・・・。

資料を取りに来たカトリナに、心配されるぐらいよれよれみたい。

「寝ないように掃除でもするか?」

「そうします・・・。」

レオさんと掃除当番を交代した。


家に着くとそのまま布団に潜り込み、目が覚めたら朝だった。

「おはようございます。」

「一食食べていないけれども、おなか大丈夫?食べられる?」

聞かれると、おなかがすいていたことを思い出した。

「食べます。おなかの調子は悪くないし、ただ寝てしまっただけなのでので、大丈夫のはず。」



ギルドに着くと、ギルドマスターとレオさんが安堵の表情で、

「今日からは、昼前と夕方近くに少しずつやろう。

まとめてやったから疲れたんだよ。」

「あそこまで疲れていたら、ほかのことができないからな。

気分転換程度がいいと思う。」

と言ってきた。

「昨日はご飯も食べずに寝てしまいました。

おかけで朝からいっぱい食べちゃいました。」

「元気そうだな。今日はほどほどに。」

そういう調子で二週間やってみた。


「物足りなさそうだな?」

「慣れました。物足りないっていうほどじゃないですよ?」

剣の代わりの棒を、相変わらず振り回している。

「時々模擬の剣を使ってみるか?」

刃がついていないから切れないけれども、棒に比べたらはるかに振りやすい。

「うわ!そんなに振ったらだめだ!」

「すみません。思ったよりも軽くて振りやすかったので。」



「リア、最近楽しそうね。」

本格的に剣術をやるようになって、早三カ月。カトリナが休憩がてら、裏の練習場にやってきた。

「少しは自分の身を守れるようにって、本格的に稽古させてもらっているの。

気分転換も兼ねてって。」

カトリナは、一緒に体操をしていた時以来、ここへ来ていない。

ずいぶんと動くようになっているのを見て、驚いている。

「意外ね。ラウルが女の子をとっかえひっかえしているとか、町を急に出ていくとかと同じぐらいね。」

何を突然言い出すの!

「あれと一緒にしないで。」

そういえばラウルって、突然この町に育ての親と引っ越してきて、出ていくのも同じく突然だったな、っとどうでもいいことを思い出した。



「今日は手伝ってきます。」

「いってらっしゃい。」

簡単なはずの依頼。谷を流れる川岸に咲く花をとってきてほしいというもの。

・・・谷。

川ってどれよ?どう見ても水がしみている程度。

もともと依頼を受けた人が、時折地面を触ってうろうろしている。

「どうやら、今年は水量が少ないみたいだね。

もっと下流に行ってみよう。」

かなり歩いて、やっと水がはっきりと流れているところに着いた。

しかし、花がない。

「水がなかったから、あまり咲いていないのかもね。」


やっと見つけた。

依頼は三本だから、あと二本いる。

しばらく行くと、まとまって二本咲いているところがあった。

歩いて行けそうにない。

でも近くの木の枝からぶら下がればいけるかも?

依頼を受けた人が木の幹にロープを結んで枝で待機。

そこから私がぶら下がって取るという作戦。

「取れました。」

ゆっくり引き上げてくれて枝に戻り、幹の方に移動したところ

”グルグルグルグル・・・”


熊みたいだけれども熊じゃない。熊じゃないというのは、口が予想外に大きくあくから!

「げ!うそだっ!幹をかじっている!」

依頼を受けた人は、ロープをほかの木に投げて、さっと移って行ってしまった。

”かじられる!”

とっさに枝を折って熊じゃないやつの顔をはたき、こちらに投げてもらったロープを持って、やっと移動した。

「一か八かやるか。」

依頼を受けた人は、何かをつぶやくと、目を開けられないぐらいの光に包まれた。


「もういいよ。」

「熊じゃないのって?」

複雑にしばられている大きな毛の生えた塊。

「回収に来るって。ごめんね、力使い果たしちゃった、動けないや。」

しばらくして、魔法使い氏がギルドマスターに連れられてやってきた。

「でっか!こんなのがここにはいるのか?」

「いや、ここまでの大物は初めてなのだが?」

周りの様子をマスターは調べて、

「もういいよ。」

と言ったと同時に、景色が練習場に変わっていた。



「リアに問題なし。でも、どういうものなのか聞いておかないとな。」

奥の部屋の扉を閉めて、依頼を受けた人に尋ねている。

「私自身の魔力は少ないので、ほかの人の魔力を借りて魔法を使ったのです。

借りた相手が予想外だったので、ちょっとコントロールしそこねました。

追っ払うつもりが、倒してしまったので。」

「ふーん、ヤドリギ体質のやつに会うのは、初めてだ。

それでは普段不便だろ?」

と魔法使い氏が気の毒がっている。

「そういうものとして付き合うだけです。

ただ、相手や周りに左右されるから、一定じゃない点が不便ですね。」

「まあ、そういうなら気をつけて、能力と付き合うんだな。」

はい、と言って引受人はその部屋から出た。


「魔法使いから見て、どう思う?」

ギルドマスターは尋ねた。

「本人がそういうものとして捉えているのなら、無理に能力を広げてやる必要はないさ。

困っているなら金をためて、魔法具を買って補っているだろうしな。

外からいじるのは問題がある。だから、リアはよく保っているなと思うんだよ。

たまたま、術者がうまい、相性が合う、そういったところだ。」

まだ何か考えている。

「そうそう、リアの身に何かあれば自動的に身を守る魔法が働き、それで足りなければ魔力が解放されるようだ。

その時本人に自覚も記憶もない。

さっきのヤドリギは魔法の方の魔力を拝借したようだが、それでも結構強かったんだな。」



「助かりました。ありがとうございました。

リアさんも、ありがとう。」

「なんかいろいろ、ごちそうさまです。」

報酬の半分以上を渡そうとしてきたから、三分の一で十分だと言った。

すると、ケーキを買ってきて、みんなで食べてと渡された。

「じゃあ、私はこれで。」


「さてと、リアはケーキの前に運動だな。」

「え!」

「五分だけ。できれば毎日やる方がいい。」

戻ってくると、カトリナが

「待ちくたびれたよ。

お茶、三杯目よ。おなかの中がちゃぷちゃぷいってる。」

やり出したらきりが悪くなって、三十分ぐらいやっていたみたい。

カトリナに謝って、運動後のおやつをありがたく、おいしく食べた。


食べ終えた頃、依頼主が走って入ってきた。

「花を三本とってきてほしいという依頼は終わっているかね?

まだなら取り下げようと思って。」

「午前中に終わりましたよ。

花は頼まれた形で保管してあります。」

花を見て驚いている。

「今年は谷に水がほとんどないって聞いて、大急ぎで依頼を取り下げに来たのだが、あったのだな。

この花は少なくとも小雨程度の水分が、毎日与えられていないと枯れてしまう。

しかも、これ!

見たこともないぐらい、状態がいい。」

よろこんで何度も礼を言って、帰られた。

「まさか、花三本、モンスター付きって言えんわな。」

隣にいつの間にか立っていた魔法使い氏が言った。

「・・・そうですね。」

今、裏の練習場で、本部から来た人と町の鑑定屋さんが調べている。

そもそもは、この辺りでほとんど見ないモンスターだから、本部の方も驚いて調査に来たみたい。


「この一年ぐらいで、魔力が大量に放出されたことが何回かあったからかもしれない。」

「そうですね、調査官。

本格的に調べますか?」

「まだいいだろう。次に同様のケースがあれば派遣しよう。

これで終わりだ。

地元での処分を許可する。」

それを聞いた鑑定屋さんは、熊じゃないそれを持っていった。

「ギルドマスター、協力に感謝いたします。

次に同じケースがあれば、本格的に調査しますので、あらかじめ、魔力の大量放出のあった日時がわかれば記録していただけるとありがたいです。」

「・・・わかりました。」



「マスター、あまりきっちりと記録すると、リアにつながってしまいますよ?」

今年一年の記録をひっくり返して見ていると、魔力の大放出があった日には、リアが関係している。

「そこなんだな。それに気が付かれると困る。

どうしたものだか。

変なのが出ないことを祈るしかないか。」

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