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魔法使い氏の疑問

食欲がない日が続く。

カトリナも同じ。

お昼なのに、薬草入りのお茶をすすること三日目。

「新手のダイエット?」

とレオさんに聞かれた。

「胃がなんとなくもたれているだけです。」

「二人そろって?」

怪しまれている。

「たまたまそうだから、薬草入りのお茶を大量に買って、分けています。」

「ふーん。お茶ばかり飲んでいても治らんよ?

もう少し食べなきゃ。」

「はい。」


ギルドマスターにはバレていた。

「大食いの、魔法使いの食いっぷりなんか見るからだよ。

結構そうなるよ。

まあ、そのにおいのお茶なら調子が戻っても、なくなるまで飲んでいればいいさ。」

「・・・はい。」


魔法使い氏は毎日来ては、依頼を二つ以上引き受けていた。

ここへ来るようになって、十日過ぎていますよ?

案の定、報酬をおさえにやってきた人がいる。

「オースティンさん、お宿も経営していましたっけ?」

「いいや。汚い魔法使いの報酬を借家代としておさえにきたんだよ。」

その場にいた全員が振り返った。

「よくまあ、あの魔法使いに貸そうとしたな。」

「あいつは格好が汚いけれども、能力はずば抜けているからな。」

「それよりもそのままあいつがここに留まるっていうのが、驚きだな。」

そういう周りの声を聞いて、苦笑いしているが、きちんと書類を作っている。

魔法使いの今日の依頼分の報酬をおさえていった。

「全部にすると、あいつが野垂れ死にするからな。

分割にしてやるよ。」

残りの金額も書いて、帰っていった。


「げ!持っていきやがった。

まだ時間があるから、もう一つ行ってくる!」

そうして速攻行って戻ってきた。

「ご飯分だけは何とかなった!」

もぎ取るようにして、報酬を持っていった。

ご飯優先なんですね。

「もう見に行くなよ?」

とギルドマスターに言われた。

「二度と行きませんよ。」

とカトリナがボソッと。



カトリナが風邪をひいて、熱を出したらしい。

「医者に行く前にここへ手紙を差し込んだみたいだ。

ちょっと行ってくる。」

とギルドマスターが出かけていった。

まだ依頼があまりなくて、居残っていた魔法使い氏が私に向かって、

「おまえさんは面白いな。」

と言ってきた。

「え?どういう?」

「言葉のとおりだ。私からすると非常に興味深い。」

突然言われて、もう少し聞きたかったのに、依頼の申し込みに人が来たから、それきりになってしまった。


「カトリナには、今週残りを休めって言ってある。

その分やってみよう。」

戻ってきたマスターに、次から次へと受付側の仕事を回され、任され、忙しくなった。

さすがに三日続くと慣れてきたけれど、疲れはどうしようもなかった。

「おーい、食いながら寝るな!」

お昼の休みに、そういう状態だったので、今日はさっさと帰ろう。



魔法使い氏が帰らずにギルドにいる。

「どうしましたか?」

とレオが尋ねた。

「あの子は面白い状態になっているな。

いつから魔力を封印されてい・・・ずっとだな。

そういう必要がなぜある?

さらにそこへ別で記憶を書き換えられているし、守るようにようにしてある。

なんでこう、いろいろ手を加えられているのだ?

本来の自分が出ないのではないか?」

ギルドマスターがやってきて言った。

「魔力の方はいつからなのか私は知らない。

ただ、ここで計測したとき、おそらくだがあの状態でSSSと同じ数値を出していた。

・・・しばらくここにいるようだから、私たちの知る範囲の話はした方がいいか。」

ギルドマスターはかなりまとめて話したつもりだが、気づくと外は真っ暗になっていた。


「ふーん。家の方もだが、その呪いの坊ちゃんのことも調べた方がいいな。

気が向いたら調べてやろう。」

「彼女の家の方は、協定で調べてはいけないことになっている。

その条件でこの町が受け入れているからな。」

「私の好奇心だ。ギルドや町とは関係ないから問題ないだろう。

どうしても知らさねばならないことなら教える。そうじゃないのなら、何も言わない。

それでいいだろう?」



「カトリナー!待ってたよーっ!」

週が明けて、やっと戻ってきた。

「そんなに必死にならなくても!」

「だって、たった三日だけれどもさみしいし、仕事は慣れないし、相談したい時にかぎってマスターに聞けないし!」

仕事に慣れる慣れないは、カトリナに言っても仕方がないのだけれども。

「もう少し手伝ってもらうようにするわ。そうすれば慣れてくるでしょ?」

「うえぇーーん。」

そんなやり取りを横目で見ていた魔法使い氏。

今日はいつもと違って、高額のものばかり持っていきましたよ?

「何かまた、食べすぎたんじゃないの?

でも合計で十万って、選びすぎでしょ?」


また次の日も、そのまた次の日も、金額が高額になるものばかり。

「・・・三日間で二十七万ってひどすぎます。

明日からしばらくは、高額依頼をやらないでもらえますか?」

「はっはっはっ」

無理に笑っているみたい。



「ねえ、リア?魔法使いさんを見た?」

「そういや昨日は来ませんでしたね。」

「今日ももう夕方っていうのに来ないよ?」

心配になってギルドマスターに報告した。

「カトリナのように風邪でも引いたってことは?」

「リアは優しいな。あいつは一体何だったかな?」

にやっと笑って私を見ている。

「魔法使い・・・あっ!」

「そうだろ?勝手に治すさ。

そうじゃなければ、遊んでいるかしているよ。」



「魔法使い必須がたまりましたね。しかも高ランクの。」

魔法使いがいないだけでこんなにたまるのかと思う。

「・・・これで、六つ目ね。」

前にいた魔法使いさんがいなくなった時もさみしかったけれども、それを埋めるように現れた魔法使い氏。

二人ともやる時はやるというタイプ。そのうちにふらっと戻ってきて、さっさと片づけてくれるのだろうと思いたい。

「リア、危ないよ?」

「うわ!ごめんなさい。」

すぶりしていた棒が抜けて、後ろの木に刺さっている。

「考え事をするようじゃ、今日は終わりだね。集中してやらないと、自分も相手もけがをしちゃうよ?」

レオさんにやんわりと怒られた。


部屋に戻ると、いすを三つもくっつけて横になっている人がいた。

「・・・戻ってきたのね。」

「リアがいなくなってすぐぐらいに、来たわよ?」

今日は、ギルドマスターが町の集まりに出かけているから夕方までいない。

「いつ起きるのかわからないし、閉めるころにはマスターも帰ってくるだろうから、いいよ、そのままにしておいて。」

レオさんは大いびきをかいている魔法使い氏を、放っておくことにしたみたい。

誰もいないかのように、掃き掃除をしている。



「戻ってきたのか?」

やっと町の集まりが終わって戻ってきたマスターは、いすの上に乗っているぼろぎれの塊のようなものを見て言った。

寝ぼけまなこの魔法使い氏は、面倒くさそうにゆっくりと体を起こした。

「ああ、気が済んだからな。

リアの家については、いろいろな事情で無理だったが、呪いの坊ちゃんの方はわかった。」

「何の呪いかわかったか?」

「受け入れたのに、そんなことも知らなかったのか?」

うそだろっと言われても、知らないことは知らないのである。

「ギルドと町の方には、女性が本人に触れると、呪いのせいで死んでしまうから、女性を近づけないようにすることと言われただけだ。」

「解けた呪いの話をしても、どうってことはないだろうから説明すると・・・

子どもの時に、ヨースナーの森に入って、そこにある湖で魚をとっていた。

子どものことだから、釣りざおで釣るのが面倒になって、魔法で湖の水をいったん引き上げて、魚だけ拾っていたんだと。

その中に、大きく魔力を持った魚が混じっていた。それを主食としていた大魔法師が次に食べようとしていた分がない、勝手に持っていかれたと言って、怒りを買っただと。」

ギルドマスターたちは納得がいかなかった。

「一回ぐらいなら怒らないだろう?」

「複数回で、十何匹だったらしい。その湖のことを考えるとそれぐらいが急にいなくなれば、その魚が枯渇する、取れなくなる。っていうことで、怒っていたらしい。

それで、例の呪い。実際にそれで乳母が死んだんだと。

それ以上死人が出ると、家族だけでなく、一族にも影響がある。

そのための隔離だったそうな。その間、その父親がなんとか別の場所で魚を増やして、怒りを静めてもらっただと。」

魔法使いの食い物の呪いは恐ろしい・・・とのど元まで出かかったが、ギルドマスターとギルド付きの剣士はがんばって耐えた。

「問題は、魔法だ。その坊ちゃん、大魔法師も驚くぐらいの魔力があったらしい。

魔法で呪いを解かれても困るからといって、魔力を封じられた。

それが、怒りに任せてかけてしまったから、複雑になりすぎて、今や大魔法師自身の力で解けないだと。

間抜けなやつめ!大魔法師のくせに。鼻で笑ってしまうわっ!」

ふんっ!と本当に鼻で笑っている。

「そういう言い方をするということは、呪いをかけた大魔法師に、会ったということだな。」

「そのとおり。そっちは問題なかったが、呪いの坊ちゃんと接触するのに、ちょっと痛い目にあってしまった。」

「「ん?」」

”しまった!”と言って、魔法使い氏は痛い目にあったという発言を、二人の記憶から消した。


「リアが、記憶が書き換えられていて、幸せなのかどうかと言われるとわからんな。

事情を知ったから、無理にそれを解消しなくてもいいとは思うが。

私の結論は、解消するかどうかは、魔法をかけている術者次第。

外野は知っていても、手を出さない。これまでどおりということに行きついた。

すまないな。結局は少し惑わせただけで。」

「いや、呪いの部分がわかっただけ、その分すっきりした。

ありがとう。」



「なんでこんな変なのばかり残ってんだ?

魔法使いは誰も来なかったのか?」

ギルドは朝からやかましい。

「いえ、来るには来ましたが、レベルが低くて受けられない、内容を見て無理って言われまして。」

「よかったじゃないか!どれも高額だぞ?」

剣士が勝手に残り物をはがして、魔法使い氏に渡している。

「一日じゃなくていいから少しずつ行ってきてください。

期待して待っていますから。」

「き、期待?」

「そう、いらっしゃらない間、ギルドのみんながさみしがっていましたよ?

活躍ぶりを待ってます。」

カトリナが満面の笑みでそう言うのを聞いて、

「しょうがねーなー。」

とまんざらでもないといった表情で、引受書を書いて出かけていった。

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