魔法使いは皆くせもの?
ギルドは前よりも人が来て、にぎわっている。
特にA、Sランクは取り合いをしているぐらい。
「こらっ!中でも外でも、依頼を実力行使で取り合うのは禁止だ!」
けが人が横たわっている。
「依頼を受ける前から大変ですね。」
と、朝から忙しく仲裁しているギルドマスターに言うと、
「力自慢対決をしたいのか?それは大会でやれよ、もう!
S級は最近少なくなってきているから、取り合いするのは分からなくもないが。」
「そうなのですね。
・・・これでよし。」
今日は魔法を使える人がいないようなので、普通に薬を傷口に塗ってあげた。
「理由はな、騎士が最近急激に強くなって、統制が取れているからなんだ。
今までは、言ってはいけないのだが、ばらばらで、集中して攻撃しても弱かった。
だから、S級は攻めきれなくて、ギルドに回ってきていた。
騎士って五人で班を組んでいるが、その一つの班がものすごく強いらしい。
一つ強い班が出てきたら、当然それを中心にほかの班も見習ってやっていくから、全体が強くなったというわけ。」
「そういうものなのでしょうか?
普通は考えません?
これまで、何とか強くなろうとか、まとまろうとか思っていなかったということですか?」
リアの言うことはもっともだ。
しかし、ここで言われても、彼らがどうしていたのかなんてわからない。
「まあ、そうだったんだろうな。
強い班の誰かか全員が、考えて実行しているのだろう。」
”魔法使い必須。”
”魔法AからSランク必須”
魔法使いが必要な依頼だけが残っている。
「今までなら、これだけたまると、あいつが全部だまって片づけていたな。」
「そう、こっそりはがして、しかも一日で全部。」
さみしいのは、みんな同じみたい。
ばん!
扉を力任せに開けた人がいる。
「来てやったぞ!喜べ!
魔法必須の依頼は全部片づけてやる。」
依頼ボードのところに来ると、全部をはがして、さっさと引受書を書いていた。
「・・・あの、念のためランクを確認させてください。」
胸を張って、見せている。
「文句なかろうが!」
「わかりました。よろしくお願いいたします。」
ギルドに置いてあったガイドマップを持って、さっそうと出て行った。
「なんか変なのが来ましたよ?」
「SSSでした。ランクの高い魔法使いって、変なのが多いのですか?」
カトリナも私もそうじゃないのかと思っていた。
「たまたま・・・と言いたいところだが、結構そうかも。」
これまでここにいた魔法使いさんと同様、業務が終わる三十分ぐらい前に戻ってきた。
「全部終わった。報告書を書くのが今は面倒だから、明日書く。
それでいいか?」
「ええ、構いませんよ。
念のためお知らせしますが、報酬は合計で・・・50200ゴオンです。」
「五万か、まずまずだな。じゃあ、明日。」
と言って出ていった。
「どうして金額を言ったの?」
私の質問に、カトリナは困った顔をして答えた。
「中にはね、報酬を当て込んで飲み食いしたり遊んだりする人がいるのよ。
この辺の店は、そういう人相手に、結構つけが通るの。
後で迷惑を受けるのはうちで、場合によっては本部が肩代わりすることになるから、あやしい場合は金額を伝えておくことにしているの。」
その心配は大当たりだった。
「ギルドマスター、おはようございます。」
「あれ?こんな時間にめずらしい。」
近所の飲み屋のおやじさん。昼もやっているから、時々食べに行っている。
「実は昨日の客、三軒はしごして、合計三万分つけで飲み食い。
で、おそらく宿代もつけにしているだろうから、先におさえにきました。」
「ね、いるでしょう?」
カトリナの思っていたとおりになっている。
名前を聞いて、
「間違いないので、支払いますね。」
とさっさと払って、三枚の領収証を預かっている。
「しかし、三万分って何を飲み食いしたのでしょうか?
大酒飲み?」
よく、酒代が払えないって聞くけれど。
「お嬢ちゃん、酒だけがお金かかるんじゃないよ?
やつは大食い、しかもグルメな大食い。
魔法使いは大きく二つに分かれる。大食いと食べない。
やつはやせの大食いでグルメだから、一番たちが悪い。」
じゃあと言って、おやじさんは去っていった。
「もう来たか。
よほど信頼がないのだな。」
と報告書を書きながら、思案している。
「はい。これ。」
残っている報酬と領収証をもらっている。
「宿代を稼ぎに行くか・・・。」
そう言って、また二つをはがして書くと、出かけていってしまった。
「あのー、昨日ぐらいにソロの魔法使いが来たと思うんですが。」
町に二軒しかない宿屋のおかみさんが来た。
「今しがた、依頼を引き受けて出ましたよ。」
「しまった!遅かったわ!
じゃあ、この紙置いていきますから、報酬が出たら取っておいてもらえますか?」
「はい。」
「宿代全部持っていっただと?」
十日泊予定としてあったので、全部を一気におさえられてあった。
「の、残りが1200ってほとんど食えん。
今日は断食だな。」
そう言って、わずかになってしまった報酬を受け取って、とぼどぼと出ていった。
「まとめて持っていかれたことって私はなかったが。」
「あの風体だからな。
魔法使いというより、家なし金なし仕事もなしっていうやつにしかみえない。」
その時ギルドにいた人たちからは散々な意見が聞こえてきた。
しかし、ギルドマスターは報告書を見て、
「名前を聞いたらみんな飛び上がるだろう。
前ここにいたやつといい、あいつといい、どうして伝説級が来るのだろうな。」
そこにはラルゴ・モレアという名前が書いてあった。
お茶を飲んでいるギルドマスターに
「さっきの魔法使いさんって、そんなにすごい人なのですか?」
こっそり聞いてみた。
急に目つきが鋭くなって、防音の魔法を展開したらしい。
『ちょっとな。今音が聞こえないようにしたから言うけれども。
モレアっていうのは、魔法使いの中でも尋常じゃない魔力を持つ家だ。
計測値はSSSが最大になっているからそう書いてあるが、もしかすると軽く当ててそれか、計測器が振り切れたかしたんじゃないかとも言われている。
魔法具を作らせると、神がかっているというようなものを作るらしい。』
マスターの口が動いていない。
あまり人に聞かれちゃだめみたい。
「見た目は、みなさんが言うように、やることなく、さまよっている人と違わないような。」
と正直に言った。
『ふだんはそういう状態だからな。
全く服装に無頓着なんだろう。
世の中に大魔法師が何人かいる。
本来ならそこに入っているはずなんだが、しばられるのは嫌だと言って拒否しているとか。
あれなら納得できるな。』
今までの妙な圧がなくなり、魔法を解除したよと言われた。
次の日はギルドが開く前に、あの魔法使いは待っていた。
「今日はなりふり構わずやらないと飯がない。
野宿より飯なしの方がつらいからな。」
と言って、ランク無視で八つむしっていった。
「一応は、ほかのやつのことも考えて遠慮したみたいだな。
まんべんなく残してある。」
と、ギルドマスターは残っている依頼を見て言った。
「気が利くんだか、よくわかりませんね。」
と言いつつ、剣士は何か資料を見ている。
「これ?」
冊子の表紙を見せてくれた。
そこには、大魔法師と書いてある。
「あの魔法使いの父は大魔法師だったようだが、いろいろな面で父親を上回るのに、絶対嫌だと言って拒否しているらしい。
大魔法師の方では、お尋ね者扱いになっている。
突き出しますか?」
「大魔法師とギルドは、別につながってはないから、無視してていいだろう。
そういう扱いになっているというのも、その資料を見なければ知らなかったのだからな。」
また今日もみんなが戻ってくる頃に、ちゃんと戻ってきていた。
「今日はつけがないから、思う存分食うぞ!」
「そんなに食べるのですか?」
カトリナが驚いて尋ねた。
「魔法使いは、魔力を使ったら当然その分、エネルギーが減る。
私の場合は腹が減るから、それを補うのだ。
だから大量に食べることになる。
質も問われるからな!
じゃっ!」
そそくさと去っていった。
「そんなものなのですか?」
「私はそこまで減ったことがないから、わからん。」
この後こっそり魔法使いさんが食べているところへ、カトリナと見に行ったことは内緒です・・・。