17 火山の神殿
やけに今日は急いでいるように見える。
今までが優しすぎたのかもしれないが、耐熱ポーションも飲む前に説明や、ダンジョンに入る前に確認などして一緒に行動していたことが多かったが今回はアシュレがほとんど先導するように先へと進んでいく。
遺跡の中は小さな部屋のような空間がぽつりとあるだけでその先へと続く道がなかったが、
地面に魔方陣が回転しゆっくりと光を帯びていた。
アシュレにここから入るのか聞こうと歩み寄ると、そのままアシュレはアヤの腕を掴んでそれに足を踏み入れた。
全身が引っ張られるような感覚の、直後。
視界が鈍く歪むような熱気を帯びた溶岩が流れる岩場へと立っていた。
息をしただけで肺が焼かれかねないのではと恐れるような火の粉や黒い灰だか煤だかが宙を漂っていたが
先ほど飲んだ薬のせいか、むしろ冷たすぎると感じていた感覚は少し暑いといった程度へと変わっていた。
「ここでの戦闘は極力避けます。
モンスターが出ても相手しないでください。
合わせますので私のあとをなるべく着いてきてです。
ポーションを飲みながらでいいので、エアルマも発動した状態でお願いします…です」
そう言うとアシュレはアヤの返事も待たずにダンジョンを進み始めた。
驚く間も無くアヤもそのあとを追いかけようと走り出した。
「エアルマ!」
強化をかけつつ距離を詰めるとアシュレはだんだんと速度を上げていき、気を抜くと置いていかれそうな勢いだった。
そうはならないように時折アヤがついてこれているか確認はしているようだが、だいぶ慣れてきた強化状態のアヤの走りでもまだ身体能力には差があるようだ。
さらには時折襲いかかってくるモンスターをも一撃で切り捨てるか、遠くへと吹き飛ばして相手にせずに走り抜けつつで追い付けないのだから驚く。
だが今までのアシュレからは考えにくい、慎重さに欠けたダンジョンの進みに戸惑いつつも理由を考えてみる。
一つ目は実は暑い場所が苦手、もしくは身体を冷やす薬に制限時間がある場合。
しかしアシュレのことだ。薬も数を揃えているだろうし、苦手だからという理由で慎重さを犠牲にするような性格ではなかったように思う。
二つ目は危険な場所だから戦闘を避ける。
遺物が眠るダンジョンというだけあり、魔王の手の強力なモンスターが待ち構えているので、なるべく体力を温存して進みたい。
アシュレならそう考えて今回のように駆け足で進むというのは十分にありえると思う。
そして三つ目は、先日のアヤの負傷のせい。
命を落としかけたことで戦闘を任すことはできないと心変わりした…ということも。
だが、アシュレがもしそう思ったならそもそもダンジョンに着いてくることを改めて拒まれていた気がする。
二つ目と三つ目、どちらかというよりはどちらも…といった心境の変化なのだろうか?
考えながら進むとやっとアシュレに追い付いた。というよりもアシュレが立ち止まっていた。
「ポーションを飲んでください」
だいぶエアルマで視界が赤くなるのにも慣れてきたのはいいが、逆に考えると体力消耗による危機感が薄れているのかも知れない。
アヤが言われた通りにポーションを飲むと、アシュレはアヤを抱き上げた。
「え?」
「じっとしてです」
それもかなり強い力で抱き締めてくるので、妙に恥ずかしい…と思う間も無くアシュレはそのまま溶岩の川が流れる足を滑らせたら死にかねない危険な岩場を走り出した。
気分はさながらジェットコースターであり、心臓は一瞬にして縮み上がってアヤは下を見るのをやめた。
アシュレの後ろを見ると、足場にして跳んだ溶岩から少し浮いていた岩場が崩れているところもある。アヤは目を閉じることにした。
溶岩の川を越えると大きな石盤が一つ。二つの窪みがあり、左右に二つの道がある場所に出た。
こういうゲームみたいなギミックもあるのかと思っているとアシュレはその石盤から何かを呟きながら歩き始めた。
立ち止まるとポーチから爆弾を取り出してその場に投げ捨てた。
そしてアヤの方へと戻ってくると火の玉を爆弾の方へと飛ばして轟音と共に岩の崩れる音が聞こえる。
「私は右の通路の方に行ってくるからアヤはそっちから丸いメダルだけ取ってここに戻ってきて」
何かを聞く間もなくアシュレはまた片方の通路の先へと走り出した。
ここに来て急な単独行動ではあるが、まさかと思いつつ爆弾で開いた空洞の先には台座の上にメダルが浮いているのが見えた。
おそらくは先程の石盤で窪みに設置するメダルだろう。
ダンジョンに入ってからのアシュレの行動は不可解だった。まるでダンジョンの構造を分かっているかのように躊躇なく進んでいる。
アヤは空洞の先へと進みつつ思考する。おそらくはスキルか特性か。なにか知り得ない力があるのだろう。知っている元の世界の知識を思い返す。たとえば鑑定や、宝箱の位置が分かるようなスキルがある。
だが、アシュレの行動は今だけではなくここまでの道筋もおそらくは最短距離かモンスターとの遭遇を避けれるルートを選び、メダルのある部屋を的確に爆弾で道を作るなどはその力だけでは不可能だろう。
おそらくは透視、空間把握、ダンジョンオートマッピング。それに関連したなんかしらのスキルか、そういったスキルの複合か。
だが、それにも疑問は残る。空間の構造を解析するようなスキルがあるなら、グリフォンに襲われかけるようなことはなかったはずだから、おそらくはダンジョン限定のスキルなのか、常時発動しているわけじゃなくてグリフォンの時は気付けなかったのか…。
いくつかの仮定を考えておくしかない。今後の行動でそれを絞るか、次に魔王城に戻った時にそういう力があるのか聞いた方が早そうだ。
実際のゲームだとバランスの問題とかあるからあんまりスキルが30個とか50個とかあるような作品は多くはないけど、そのくらいあるとどんな力が作用してるかなんて見てるだけじゃ判断できない。
あー…でもインフレを重ねていく数年続いたオンラインゲームとかだと割と数十個のスキルが常時発動とかもみかけないことはないかな?
ああいうのやってる人たちって本当に自分に今どんなスキル付いてるとか自分で把握できてるのだろうか?慣れなんだろうか?
などと考えながらメダルを手にする。台座の裏には何か紋様があるが、おそらくは裏から来たのが私なのであって本来はこっちが表になるはずだったのだろう。
ダンジョンを逆走しているような妙な後ろめたさを感じつつアヤはメダルを持って石盤のところへと戻った。
ここまでのダンジョンでの行動を見ているとあまり心配するまでもなさそうだけど、アシュレは一人で進んで大丈夫なのかと思っていると3分も過ぎないうちにアシュレは右の通路からメダルを持って戻って来た。
石盤にメダルを嵌め込むと地面に下る階段が作られてアヤたちは進む。そのあともパズルのようなものをアシュレが難なく解いて、この溶岩は幻だからといい、溶岩の滝にてを伸ばして何ともないことをアヤに見せつつダンジョンを進んでいった。
正直なところ、本当にアシュレが勇者なのかと疑問に思うこともあった。少し剣と魔法に長けただけの冒険者とどこが違うのか不思議に思っていただけに自分の相手の力量を計ることへの自信が薄れていく。
他のゲームのように鑑定とかでレベルやステータスが分かればもうちょっと楽なはずなのにと思っていると、目の前にいかにもというような装飾が派手な大きな扉が立ち塞がっていた。
おそらくはダンジョンの最深部ということだろう。アシュレもそこで一度足を止めて深呼吸しているようだった。
そしてポーションを取り出してアヤに渡した。回復用と、入口で飲んだ身体が冷えるポーションだ。
「この先には強いモンスターがいるのです」
アシュレがそう言ってアヤを見た。
ボスがいる、ということだろう。おそらくはイフリートか、ゴーレムか、もしくは両方か。その情報は出せない。だが…。
「アシュレはそういうのも分かるんですか?」
探りを入れてみる。おそらくボスがいるのはアヤにも想像に難しくはないが、こうまでも断言するには何か確信を得る方法があるからだろう。
「…分かります」
どういった方法で、それが分かっているのか…そこまで踏み込んで聞くのは怪しまれないかなど躊躇っているとアシュレが続けた。
「爆弾を貰うのです」
アシュレは私のカバンから爆弾を取り出して自分のポーチいっぱいに詰め込んでいく。それでもまだ半分は残ったままだろう。
「アヤは基本的に戦わなくていいのです。自分の身を第一に、タイミングがあったら爆弾をモンスターに投げてほしいです」
それだけ指示するとアシュレは前進して扉に手を置いた。
「行きます」
だいぶ間が空きました…。もう少しまた安定して継続できればいいのですが、20話くらいまでは週一で更新できると思います。そのあとはまた少し遅れてしまうかもしれません




