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14 廃坑


1回目の勇者調査の報告から1日目。次の報告まで3日。

朝食を済ませて街を出る。

目的の山は街から15分もかからずにその麓がある。だが、山への入り口となる門にはたくさんの人間が立ち往生していた。


「何かあったんでしょうか?」

「そうみたいです」


さながら人身事故でもあったように門は閉められ、衛兵が炭鉱夫たちに問い詰められているのが見える。

アシュレはそこから少し離れて今後を話し合っているような炭鉱夫たちに事情を聞いた。


「橋が崩れたんだとよ。

炭鉱を掘るエールノ山っていうのは実はこの山を越えた一個先にあるんだが、その山と山を繋ぐ大橋が崩れちまったらしい。

迂回するにもこの道具をもって山を登るには2日はかかりそうだ。明日には橋も簡易的に直るかもだな」

「先輩それも分かりません。おそらく橋が崩れたのは自然ではなく、最近山に増えてきた魔王から差し向けられたモンスターたちによって崩された可能性が高そうです」

「せっかくの稼ぎ時に、参るねぇ…」


王道ですね。山が活性化して道が溶岩で進めなくなったりとか、モンスターによって道が封鎖されたりとか。

神殿とかまでにたどり着くまでに困難の一つや二つあるものだろう。

だが、どうするのだろう?

炭鉱夫たちのようにツルハシや荷物が多いわけじゃないとはいえ、迂回するには山は広すぎる…。

空を見上げたが、山の頂上は雲に隠れて見えないほどだ。


アシュレは歩いて行こうとかいいかねないけど、山を登ったのなんて人生で何回あっただろうか…。体力に不安が残る。


「どうしますか、アシュレ」

「………困りましたのです」


アシュレも考えあぐねているようだ。アシュレも私の体力を考えて歩いて行こうという提案はしないのだろうか?


「もしかして…、アシュレ様とアヤ様では…?」


そんなところに歩いてくる男がいた。誰だろう?

アシュレの知り合いならわかるけど、なぜ私の名前までしっているんだろう?

まるで覚えがない。

思わずアシュレを見る。


「その通りですが、あなたはどちら様なのです?」

「失礼…私はナナカの父です。先日は娘と妻からあなた方の事はお聞きしております」


男は先日の迷子の子供の父親だった。それで私の事も知っていたっぽい。

音はそう挨拶するとアシュレに近づく。


「勇者様であると聞いております、山の神殿へ向かわれるのですか?」


男は注目を集めないように配慮したのか、小さな声でアシュレと話を始めた。

聞いた話だと今は使われていない坑道があり、貨車も動くかもしれないということだった。


私たちは男について行くことにした。坑道の入り口はしばらく使われていないのか、土で塞がりかけていたが、発破で開通させるようだ。

土煙が舞う廃坑にはたしかにレールと錆びて古びた貨車なども並んでいる。動くのだろうか?男は貨車を蹴って、土を払う。

貨車にはエンジンのようなものが付いており、レバーを引くとガタガタと壊れそうな音がしたが、どうやら動くようだ。私たちは滑車に乗り込んで坑道を進んでいく。

10分もしない内に坑道を抜け、日が差している。


「ここでも昔は鉱石が取れたらしいんだが、ずいぶん昔に捨てられてしまった」


ぼろぼろで崩れているが小さな小屋や、レールが分かれ坑道がいくつにも分かれている。ひと際大きい坑道を抜けると橋を越えた先のエールノ山へ。そこから神殿への入り口も近いのだという。

男は先の道を少し調べて戻って来る。


「この先は滑車では無理だな…レールがガタガタだ。おそらくモンスターたちのせいだろう。この廃坑を進めばおそらく神殿へは行ける。モンスターはいるが、魔王から差し向けられたような厄介のもほとんど出ないかと。私にできるのはここまでのようです。

あまり勇者様の力になれず、申し訳ない」

「ここまで案内していただけただけでもとても助かったのです」


静かなところだ、本当に長いこと人は立ち入っていないのだろう。アシュレは私が背負っているリュックからランタンを取り出した。


「鉱山の多い山道でしたし、必要になると思って持ってきて正解だったのです」


私たちは廃坑へと入った。ランタンはあるものの、光の入らない洞窟というのはこうも先が見えないものかと思う。掘るための穴ではなく、エールノ山へと続く穴として掘られたためか、思ったよりも道は広いが、逆に何がどこから来るのか分からない。

妙に冷える冷たい風、壁や足元を這う虫たち。なんだか急にそれが怖くなった。おそらく虫系のモンスターやコウモリも出るだろう。分かってはいたが、少しづつ呼吸が乱れる。手が震えるのが、寒さだけではない気がした。


「大丈夫ですか?」


アシュレが私の変化に気付いたのか、心配そうにのぞき込んだ。

私がついて来たいとお願いした。妹を助けるためにもアシュレのそばにいなくてはならない。暗闇や虫程度で恐れている場合ではない。私はコクリと頷く。

だがアシュレは察したのか、私の手を握って坑道を進み始めた。

震える手にアシュレの手の頼もしさが伝わる。少しだけ怖さが減った気がした。


アシュレの足が止まる。灯りに照らされたのは虫のような…1メートル近くある蟹だった。

通せんぼするように横から歩いてくる。アシュレはランタンを私に渡して斬りかかった。だが一撃では倒れず、蟹は毒を放射した。

アシュレはそれを跳んで避けると、そのまま剣を突き立てるようにして踏み潰した。


「硬いのです」


アシュレが一撃で仕留めれないのは初めて見た。アシュレが難しいなら私ではもっと難しいだろう。


「私の剣は防御に長けていると言ってましたが、硬いモンスターを相手にするのはどうしたらいいですか?」

「外皮が硬いモンスターには鎚や大剣とか、斬撃よりも重打撃があるといいのですが、私たちの剣では少し難しいのです。

兄が得意としていたのは連撃です。足りない火力を攻撃を重ねることで補います。私もできないわけではありませんが、兄に比べるとまだまだなのです」


アシュレが五つの斬撃を重ねるのは見ている。だが、メレディスと対峙したときにラスウェルが空に放った斬撃はたしかにそれ以上かつ、その一撃一撃が、アシュレよりも重そうだった。

アレは…真似できないかな…。

そもそもどうやったら斬撃が飛ぶのか?


ふと、ジャストアタックで斬撃が炸裂したのを思い出す。あの炸裂する感覚を空で出す?

私は集中して空をモンスターだと思い込みながら剣を振った。だが、ジャストアタックの虚の瞬間は認識できなかった。

まあ、簡単にできることではないか…。


「何してるのです?」

「斬撃を飛ばせないか、試したのですが…上手くいきませんでしたね」

「剣を握ったのは本当に最近なのですよね?アヤは技術ではなく、性能の上げ方を考える方がいいかもしれないです」

「ほむ?」

「私が今、この蟹を攻撃するのに自分の体重を乗せたみたいにです。技術はあとあと身に付くので、今は工夫をするとよいのです」


細いけれど丈夫な剣だということだし、多少無茶な扱いをしても刃がこぼれたりもしないのであれば、たしかに思い切り跳んだ推進力でそのまま剣を突いた方がダメージは乗りそうだ。


その後も蝙蝠やモグラ、ゴブリン…ムカデのモンスターなんかが出たが、倒しながら進んでいく。


「待ってください、アシュレ!」

「なんですか?」

「その先は落盤しています」


アシュレが床のない場所を平然と進もうとしているので、焦った。ランタンを下にして足元を確認する。こんな廃坑だ、地面が抜けているところもあるだろう。


「気付きませんでした、ありがとうです」

「いえいえ」

「暗いとこでも目がいいのですね」

「そうですね…むしろ明る過ぎたりするとすぐ目が疲れてしまいますね。

あと、音の反響からでもここが少し広い空間だと把握ができますよ」

「…すごいのです」

「んーでも、他人には聞こえないような高い音が聞こえて頭痛くなったり、小さい音でも拾えるのに、逆に方向が分からなかったりするんですよね…急に大きい音がしても異常に反応しちゃったり…便利なのかと言われるとなんともです」


子供の頃から周囲に気を払わなければいけなかったせいなのだろうか?

耳や目がいいのとは別であった。むしろ、他の音が邪魔して上手く聞き取れなかったり、眩しさに当てられて他が白く霞んだり、耳は悪いと言われることの方が多かったように思う。

電話が特に苦手であった。


だからこそ、警戒してしまう。こういう音がこもる空間で虫の這うような音が聞こえるとすぐ近くに何かがいるような気配がするのだ。

私はまたアシュレの手を握った。


「外が近そうですね、もうすぐなのです」


今にも崩れ落ちそうな看板にはエールノ山出口と書かれていた。やっとこの坑道から出ることができそうだ。

喜んだのも束の間、私はアシュレの手を引いて足を止める。


「何かいます」


広めの直線の坑道、まだ出口の見えないその空間にランタンの光を反射させる2つの目が煌めいた。


アヤに少し特異な力があるような描写がありますが少し感覚過敏です。

アクリスのように探知に長けた者は音を聞いてその位置や何の音であるかの判断ができますがアヤの場合は拾える音が多いです。これは実際無駄な音も一緒に拾っているだけで重要な音が逆に聞こえにくくなっていたり、不必要に聴覚(本来聞こえないような高音も聞こえる)や視覚(強い光に弱い)を使うので、ゲーム的に言うとスキルや、特性といったほどの力であるとかそういうことはないかと。ちなみに辛い食べ物が苦手だったり(味覚過敏)、特定の匂いや感触が苦手だったりもします。


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