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12 異世界交流


私はそれなりに恵まれた人間だったと思う。

小学校に入ってすぐ、もちろん年齢を加味されたこともあっただろうが、描いた絵がその年の学校文集の表紙に使われることになった。

中学では文化祭の展示物がデザイナーの人の目に留まり、後日朝礼で呼ばれ、賞と文具セット一式を贈呈された。


「だがそれは数百人ほどの中から選ばれただけの賞だろう?」


喜々として親に報告した私にそう答えたのは画家だった父親。何千、何万という作品がある絵画から選ばれ、それでお金を得て生活する本物だった。勉強もクラスで3番目くらいには出来たし、中学の陸上部では長距離マラソンを得意とし、中学1年で1年~3年が全て参加可能な大規模なマラソンで20位くらいまでに食い込んだ。


そんな私だったからかもしれない。

父は私が自分が特別な存在だと思いあがらないように戒めようとしたのかもしれない。中学2年、同学年だけの長距離走でも出る度になんらかのメダルを貰うことが多かった。だんだんと増えていくトロフィー。だが金が取れたのは"本物"がいないときだけだ。上には上がいて、どんなに頑張っても届かない人がいて…追いつこうとすればするほど辛くて、身体が動かなくなった。

私は特別ではない。分かっている。理解している。ずっと父にそう言われてきた。


そんなある日に妹が学校で表彰された。文化祭の演劇が評価された際に代表して賞を受けたのだという。父は私がすぐ横にいたにも関わらず「やっぱりカナはすごいな」と言った。

まだ子供だったと思う。父親の顔が見れなかった。涙も出なかった。悔しさもなかった。あの時の感情は上手く言葉にできない。おそらく父は私に言った言葉を覚えてすらいないだろう。それほどまでに自然に出た言葉だ。

ただ単純に、私が嫌いだったか。それとも画家として若くして美術で評価される私が疎ましかったのか。父の真意は分からない。だって聞いても()()()()()()のだから。







「アヤは飲み込みが早いのですね」


アシュレと夜に戦闘訓練をしていた。嫌な記憶を思い出していた。

アシュレの言葉でふっと我に返る。こうして褒められるというのは久しぶりな気がした。運動は出来た方だ。成績で言うならいつも5段階なら5だ。剣道とかはしたことないから剣の扱いは分からないけど。

特訓の内容はスキルを教えてもらうことになった。森でそういえば教えると言っていたので楽しみにしていたが、思っていたのとは違うものだった。


アシュレが言ったのは全力で踏み込んで力強く蹴りを押し込む、という()()()()()()だった。

これがスキル?なのだろうか?と私も不思議に思ったが。

今度はその動きを心でイメージしつつ、目を閉じて、名前を唱えるのだといった。

名前?

え、私が決めるの?

じゃあダッシュ…何にしよう?キック?


身体が急に動いた気がした。


慌てて目を開けると、さっきと同じ行動を自動で行ったようだった。自分をアイテムと見立ててスキルを発動する。エラルマと同じだ。なんとなくアシュレの言うことが分かってきた気がした。

アシュレはそれを剣でガードして後ろに飛ぶようにダメージを軽減する。アシュレはこう解説した。


「剣を振れば斬撃が発生するです。斬撃は相手にダメージを与えるのに長けているのですが、相手が硬い敵だったらどうするです?

また、相手が魔法使いであり、詠唱をしていることが分かった時はどうするです?」

「詠唱は止めれるなら阻止したいですね」

「その通りです。

ですが斬撃では斬った後に倒しきれなかったら詠唱を止めれないかもしれないのです。そんな時に役に立つのが相手をノックバックさせる攻撃なのです。

地味かと思うかもしれませんが重要なことなのです。魔法はスキルを使うのと行程は似ていますが詠唱と魔法陣の構築が必要になります。

つまり準備に時間と集中力が必要になるのです。

だから()()()()()()()()()()()()を受けると魔法攻撃は中断せざる負えないのです」


アシュレはそう言って、剣を掲げて、魔法陣を出した。


「これから攻撃の合間に魔法を発動しようとしますので、それをキックで妨害してください。

いいですか?キックでダメージを与えるんじゃなくて、キックが当たる瞬間に()()()()()()()ことが重要なのです」


そう言われ、訓練を始めたが、スキルの発動はあんまり上手くいかなかった。

まだダッシュキックのイメージをするのに時間がかかるのだ。これだったら直接スキルとしてじゃなくて、詠唱を始めてから飛び込んでキックした方が早く対処できる。

そう思っていたが繰り返すうちにより良く押し出すキックという感覚が掴めてきた。同時にイメージをするのが容易くなってきた。


面白い。

これは色々な使い方ができそうな気がする。


「うんうん。だいぶいい動きになって来たと思うのです。今日はこのくらいにしようと思います」


だんだん楽しくなってきたところだが、確かに疲労も溜まって来ていたし、夜もだいぶ更けてきていた。


「何かアヤの方で気付いたことと、聞きたいことはあるですか?」

「…アシュレが強い」


良くなってきたというが、終盤のアシュレはこっちの動きに合わせてダッシュキックをジャストガードしてきた。そして即時、魔法詠唱をする。

色んなパターンの動きや、柔軟に動けるように対応して動いてくれる。こっちは全力なのに、そのくらいの余裕があるということだ。


「私は勇者なのですよ?これでも一応世界を救うことを目指しているのですから当然なのです」

「今は特訓だから詠唱してましたよね?

こうしてスキルや魔法の発動方法を聞くと、森でアシュレが戦ってた時はほぼノータイムで魔法を使っていたように見えました。

アレ程までにスムーズにスキルを駆使するようになれるまでどれほどかかるか…。

それに魔法は…()()()っていうやつですか?」

「本当によく見てるのですね」

「いえ…」


やば…。強くなりたくて観察していた、の方が無難だったかも。つい否定してしまった。


「何言ってるのです、感心しています。良く見るということはとても大事なのです。

相手が何をしようとしているのか、仲間が何をしようとしているのか、その上で自分がどう動くべきなのか。どれも欠けたらダメなものなのです」

「たしかに…今の詠唱中断もそうでしたね」

「その通りです。それと、魔法の同時攻撃の話でしたね。

それは簡単です。私の炎攻撃は魔法ではないから、ということなのです。

この剣の力なのです。ドラゴンが封じてあります。炎を司るので、私の攻撃に合わせて剣が炎を発現するのです。それによって私は炎系魔法は詠唱なしで撃てるということなのです」

「そんなことができるんですね…」


アシュレは、私の事をじっと見た。


「私も聞きたいのですが、()()()とはなんなのですか?」

「え…っと?なんていうか本来詠唱が必要な魔法の詠唱を、省略して発動する…テクニック?」

「そんなものがあるのですか!?」


アシュレが驚いていた。どうやらこの世界にそういうのはないらしい。


「あ、でも…リリアがそんな話をしていたような…うーん?あなたの世界だとその無詠唱ができる人がいたのですか?」

「…え?」

「え?」


いや、そうか。

確かに無詠唱という単語を出したのは私だった。

失言だったのかも…。どう説明すればいいんだろ。

この話をちゃんと話すとこの世界はゲームで、現実ではないというところにまで飛躍しそうな気がした。


「えっと、ごめんね。私の世界にはそもそも魔法って言うのがないんだ」

「……そうなのですか?」


アシュレは考えてもみなかったという顔でそれを聞いて考え込んだ。


「そういえば、アヤのいた元の世界がどんなところなのかはほとんど聞いていないのです」

「こことは全然違うね。

魔法がないのもそうだし、モンスターもいないし、魔王という存在も居ない。

だからほとんどの人が戦う必要すらない世界です」


魔法がないのになんで無詠唱なんて単語が出てきたんだろう?

とか深く追及されることを危惧したけど、アシュレはそれを聞いてとても驚き、質問を続けた。


「それは…すごいのです。

魔王がいなくなりモンスターがいない世界。

それはこの世界の人が望む、至高の楽園ではありませんか?」

「まあ…人と人との争いはあるんだけどね。

それでも、私が住んでいた国はだいぶ平和だったかも。

武器を手にすることすらほとんどなかった」

「そこまで違っていたのですね…」


世界はまるで違ったけど、ゲームで慣れ親しんでる世界ではある。

ゲームと言っても伝わらない気はするけど、この世界にも本はあるんだしこういう世界の本を読んだことがあるくらいなら言っても大丈夫だろうか?


「アヤはどう思うですか?

モンスターが蔓延り、人が武器を持って戦うこの世界の事を…」

「怖いですね…。

こういう世界を本で読んで少しだけ憧れがあったんです。

平和な世界で多くの人に埋もれ何をするでもない生き方よりも

剣と魔法がある世界でモンスターを倒して、ダンジョンへ潜って、仲間を作って、ともに喜んだり町や世界を救って…」

「実際に来て、違ったのですか?」

「やっぱり、戦うというのは怖いです。

魔法も使えないし、どんな敵と戦っても命がけで、

知らない人ばかりで、頼れる人もいないし

一緒に巻き込まれた妹がそんな世界でどこに居るのかも分からない。

不安と恐怖しかなかったです…」


本当に怖かったんだ。

まだゲーム感覚だった初めの頃はまだしも、ゴブリンに殺されかけた時からずっと。

でも…。


「でも今は少しだけ安心してこの世界と向き合えます」

「そうなのですか?」


今は不思議とあの時ほどの不安はない。

私はじっとアシュレを見た。


「きっとアシュレが居てくれるからですね」


なんて歯の浮くような台詞だろうか。

嘘臭くて、わざとらしい…。


「こうして話せる相手が居て、支えてくれる人が居て…、

優しいアシュレに会えて本当に良かった」


だが、本心だった。

本心だったがゆえに、その言葉を口にして胸がズキズキと痛みが滲んだ。

頭を下げたまま、彼女の顔が見れなかった。


「うぅ…?」


アシュレは妙な声を出したので思わず顔を上げる。

彼女も後ろの方を向いてこちらを見ていなかった。

そんな反応をされるとこっちも少し恥ずかしくなってしまう。


「いや、その…本当に、もう心細くて…!

この世界で生きていくことだけで精いっぱいで、妹を探すどころでもなくて…!」


私があたふたとしていると、アシュレは手をかざす。

そしてゆっくり息を吸って吐いた。


「大丈夫なのです、気にしないでください。

何か辛かったりしたら私を頼ってください、アヤは私が守るのです」


アシュレはそういうと、私を優しく抱きしめた。

本当に救われていたのだ。

出そうになった涙をこらえる。


ダメなんだ…。


その涙は嬉しくて、安心して出たものだったのか。

そんな彼女を偽り、魔王軍に情報を流そうとしている罪悪感から出たものなのか。


どちらだったのだろうか?


次の日の朝。

魔王城に転移して、勇者のことを報告する日が来た。



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