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10 魔王と勇者の繰り返された歴史


辿り着いたエルノマハという街はとにかく広かった。

そして人が多く、活気がとてもあった。

勇者は着くなり、街の入り口にいる衛兵に一番良い宿屋を尋ねてそこへ行くと言った。前の宿屋でもそうであったが、部屋は二つだ。


「待ってください、アシュレ!

大変ありがたいのですがさすがに何から何までこうしてお金を出してもらうわけには行きません…!私など部屋の隅の、床とかで十分ですので…!」


もしかしたらアシュレにも見ず知らずの会ったばかりの人間と同室なのは抵抗があったのかもしれない。

私も部屋が一緒の方が勇者の情報をより多く探れる。そんな理由がないこともなかったが、それ以上にこのいれたり尽くせりな状況がどこか居心地が悪かった。

食事に護衛、戦闘指南、宿代。ここまででも相当な恩である。おひとよしにも程があるではないだろうか?


「何を言っているのですか?

それでちゃんとした休息をとれなければ、宿で休む意味がありません」


そう言ってアシュレは私に急に顔を近付けてきた。

思わず目を閉じてしまった。そして耳元で小さく囁く。


「大丈夫です、お金にはかなり余裕があるのですよ」




アシュレはそう言って、別々の部屋を取った。

私はこの街へ来るまでの森など、リュックを背負うことになっていた。

私が戦闘の時は置いていたが、中身はほとんどが高級なポーション、全状態異常の治癒ポーションなど、あまりお金には糸目をつけずに買えるだけ買ったような中身が詰まっていた。

国から勇者に対して多額の援助が出ているのか、実はどこかの国の王女であり…姫騎士?だったりするんだろうか…?

だんだんと今までの行動に失礼はなかったのかと、怖くなって胃がキリキリしてくる。


「どうしたのです?そんなじっと見られているとさすがに気になるのです」

「あっ、いえ…その…」


思わず目をそらす。

美しく、その少し照れたような困ったような顔で笑うアシュレを見ていると…それもあながち間違っていないのでは?と思ってしまう。

部屋に着いて別れ際に、話がしたいと彼女の部屋に入った。


「改まってどうしたのです?」


そう言って机の椅子をひいては私に座るようにいう。


「あの…小さな声で言っていたのであの場では聞かなかったのですが…。

アシュレはもしかして、王女様…だったりしますか?」

「王…女?」


それを聞いたアシュレは呆気にとられたように私のことを見た。

そして納得がいったように手をパンッと合わせた。そして私を指さして。


「え、お金持ってるから…ってことですか?」


私はコクリと頷く。それだけの理由ではないけれど。

彼女はそうすると口を抑えて声を出さないように顔を反らして笑った。彼女がそんな風に笑うのは初めてみた。本気で笑いを堪えているのだろう。


「まさかまさかなのです、アヤも妙な冗談をいうのですね?」

「そうは言いますが、あまり物に糸目をつけずに大量購入、私のような者に惜しみなくポーションを与え、装備を与え、あまつさえ食事と宿代を提供。

その上品な立ち振る舞い、洗礼された剣技、美少女という他ないその可憐な容姿…!」

「美少…?」

「美しいって意味です!」


彼女は今度こそは耐えきれないといった感じに声を出して笑った。少し涙が出るほどだったようだ。

アシュレは鎧が重かったのか装備を外しながら答え始めた。


「違うのです。

私の父はこのエグニア大陸の国家騎士団の総司令。私とラスウェル兄さんはその元で生まれ、剣術を学んでいたのです。

家は確かに裕福だったと思うけど、私が出しているお金は家とは関係ないのです」

「では勇者になったときに国から援助が?」

「それもあったのです。ですが、最初の装備を揃えれる程度のものだったと思うです。

もう少し出してくれてもいいのにって思ったような記憶がありますね」

「では…?」


アシュレはベットに腰を下ろし少しの間、空を見上げた。


「私が勇者になってから稼いだお金なのです」


勇者はそう言って微笑んだ。

どうやって?と聞く間もなくアシュレは続ける。


「私は勇者なのです。

神殿に行けばモンスターと戦いますし、色々な素材が手に入るのです。神殿に隠された貴重な装備やアイテムなどを売っていく。ただそれだけなのです。

ホントにお金に関しては気にしなくて大丈夫なのです。

あまり大きな声では言いたくないのですが、この旅でもう困ることはないくらい実は余裕があるのです」


そういってアシュレは私に袋を投げ渡した。ジャラジャラと細かい何かが大量に入った袋。


「ですので、これも持っておくとよいのです。

だいたい10万Gくらいは入っていますので、よっぽど使い込まない限り何かあっても対応できると思います」

「いや、でも…!」


10万G??ってどのくらいの価値…?

あれ?確か鎧が1万G越えなかったような?

えっとだから…つまり?

そんなことを考えていると突き返されかねないとアシュレは判断したのか、いつのまにか窓の方へと身を乗り出していた。


「それでは、また夜にです。

ご飯も一緒出来るか分からないからそのお金で済ませておいてくださいね」


そう言ってアシュレは窓からジャンプして街へと文字通り飛び出していってしまった。

上品で可憐かと思った少女は思ったよりも活発で向こう見ずなところがあるようだ。


というか…ここはアシュレの部屋で、ほとんどの装備や荷物も置きっぱなしなわけで…。信頼されているやら、警戒心がなさすぎるというか…。


私が悪い人間だったら…。

そう思った時にメレディスの言葉が思い返される。

まさか、盗んだりするわけがない。

やっと得られた信用だ。

この立場を失うわけにはいかない。

私はあなたの情報を調べ続けて、それを魔王へと報告する敵なのだから…。


私もやるべきことをしなければいけない。


私は自分の部屋に戻り、外へと出る支度をする。

私は表向きはこの街で妹を探すということになっている。実際は魔王城にいることを知っているのだから、何をしても見つかる訳はないのだけど…。

それでも何か”探しているのだという行動”をとらなければ不自然に思われそうだ。

…本当に妹と異界の地に飛ばされていて探すことになったとしたら…ギルドに依頼のクエストを出す、のがいいだろうか?。

うん、それがいいかな。行く当てとやることが決まった。




『カナという人間を探しています』


私はギルドに向かいクエスト掲示板に妹を探すクエストの紙を貼りだすことにした。報酬は30000G。

私のお金ではないが、このくらいならアシュレから頂いたお金で払えるだろう。いや、そもそも見つかるはずがないのだけど。


街を歩いて分かったことは屋台などで売っている料理の一品は20~50Gくらいであり、料亭のメニューを見ると80~200Gといった感じだった。

つまりは1G=5~15円くらい…のレートなんだろうか?


10万Gを簡単に渡してきたけどこれって50万~150万円くらいの…ってことだよね。どんだけお金を持っていたらこんなに簡単に見ず知らずの人に渡せるんだろ…?


アシュレの金銭感覚のことは置いておいて。

本気で妹を探すならまだ街を歩いたりするのだろうが、それは無意味だし、探しているという最低限の行動はしたのだからコレでよいだろう。

残りの時間はこの世界の事を調べることに時間を使おう。


明日は一度、魔王城へと帰らないといけない。早朝にこっそり宿を出て人気のないところで転移する。

だけど、その今後はどう情報を集めていく?

今回の得た情報はそれなりにあるはずだ。アシュレは一人で神殿へと向かうようだが、私は本当にその間宿で帰りを待っているだけでいいのだろうか?

もし一緒についていけるのであれば、さらに得る情報は増えるだろう。


…ダメ元で、夜に同行できないか提案してみよう。さすがに断られそうだけどね。

さすがにくっつき過ぎたら怪しまれるかもしれないし、今は信頼を築く、それが最優先。


そう考えていると掲示板のとこでガヤガヤと人が集まり始めた。

どうやら新しいクエストが多く張り出されているっぽい。

広い街のギルドなせいか前のギルドよりもクエスト内容が充実している気がする。特に近隣の山へ行くようなクエストは報酬がとてもいい。

私は受付でそれに関して聞いてみることにした。


「ここエルノマハの山には鉱山があって採掘場としても有名な雄大な山脈と共に栄えた街なのです。その山にはドラゴンも棲み、我々の生活を見守ってくださっています。

ですが、魔王復活からモンスターが山に大量に送られているようでして危険な場所になっています。

そのためモンスターの討伐や資源の確保、様々なクエストが高額で発生しているのです。あそこにはダンジョンもありますし、鉱石の素材も採れないとなると困ってしまいます。

ですが、問題ありません。遠方からの実力ある冒険者たちが集まって活気がでていますからね」

「活気…?」


受付のお姉さんはそう言って微笑んだ。

たしかに騒がしいくらいに冒険者たちはクエストを見ながら話したり、メモを取ったりして、

「見ろよこの報酬金!」などと笑いながら賑やかにしているように見える。


「でもそれってかなり危ない状態なんじゃ?」

「そうですね、魔王の手の強力なモンスターが侵略に来ないとも限りません。

しかし強い冒険者が集まるのは街の防衛にも心強く、実力ある者は報酬や名声、ランクアップを目指して奮闘しているのですよ。それのサポートをするために駆け出し冒険者向けクエストもありますし」


ゲームなどではよくみる状況な気がした。

神殿やダンジョン近辺の街は魔王によって環境や町が荒らされるなどの影響が出ていて、だからこそ勇者が来ると助けを求める者や、協力してくれる者が居て。

仲間が増えたり本来進めない場所に進めるようになったりするものだ。

だが、この街の様子はそういった危機感というものはなくむしろ活気があった。実際街にまで影響は出ていないようだし、とても賑わっているという印象しかなかった。


受付のお姉さんもまるで他国の戦争の話をするようにどこか他人事のように淡々と説明をする姿にどこか妙な感じがした。

まるでお祭りごとのように…。


「ふふっ…」


私があまりに深刻そうに考え込んでいたせいか、それを見てお姉さんはにっこりと笑った。


「そんなに心配いりません。大丈夫ですよ、だって()()()()()()()んですもの」


…え?

なんで知って…?

冒険者ギルドにはそういう情報も入るの?


「勇者がこの街へ来るか、魔王を倒すまでの辛抱です」


受付のお姉さんはそう続けた。

いや、知らない。

この人は今この街に勇者が来ていることは知らない。


勇者が誕生した。ただそれだけの理由で人々は勝利を確信している。

妙な違和感の正体はこれだ…。


人々は”慣れている”。


そうまるでいつものことと言わんばかりに。誰も今のこの世界の状況を"異常である"とは思っていない。

魔王が再び出現する。勇者が選ばれる。そして倒される。


繰り返されてきたこと。

それが当たり前のことになっているのだ。

魔王が復活した時にどうすれば稼げて、どうすれば盛り上がるのかを彼らは知っているのだ。


「勇者というのはそんなにもすごいのですか?もし魔王に勝てなかったら…?」

「あなたも心配性ですね。今回で魔王の復活は4回目ですもの。

たしかに最初に魔王を倒す勇者が現れるまではかなり厳しい状況だったと聞いています。それこそ人類が根絶やしにされかねなかったほどだと。ですが今は勇者の存在を確立しているのです」


お姉さんは、そう言いながら何かを思い出したように、頷いて微笑んだ。


「なるほど…確かに100年前の魔王が復活した時はドラゴンたちを支配しようとし、ゾンビと化したドラゴンが世界を襲った時はかなりの被害が出たようです。

あの時ばかりは少し皆がパニックになりましたが、そのドラゴンも今や人間の味方をしてくれているのです。何も心配はいりませんよ」


受付のお姉さんはおそらく本心で語っているのだろう。

おそらくこの街の人間。世界の人間のほとんどがそう思っているのだろう。


「そう…ですね。きっと勇者が世界を平和にしてくれます」


周期的に復活する魔王を3度倒し、4回目となれば、そういう感覚になってしまうのだろうか?

変に怯えるよりも恒例のものとしてこの気に世界の変化を利用する者や、稼ぐ者がいるのだろう。そういうものなのだろうか?


みんな勇者が誕生したことを知っている。

だけど、顔もどんな人間なのかすらも知らないようだった。だからなのだろうか?


実際に一緒に行動している身としてはそれが実感できていなかった。

アシュレは確かに強い。

速いし、剣技は兄とも劣らない技術で魔法を扱う万能で柔軟で、そして勇敢だ。


だが…その力は本当にあの魔王や…ましてやラスウェルを倒したメレディスに届くほどの力なのだろうか?

それこそ冒険者SSランクのパーティーが3人いても勝てなかったのだ。勇者と彼らに本当にそこまでの差があるだろうか?

あのまだ若き少女に一体どれほどの期待と責務が乗っているのだろう…?


アシュレはこんな世界をどんな思いで魔王と戦うのだろうか…?


ぼちぼち最初の3日目が来て、魔王城に報告のために戻ります。

読んでいただいた方の中で気になった世界のシステムや、解説が欲しい部分があれば、今後のあとがきや、本文でメレディスに聞いたりするかもしれません。

あえて伏せて小出しにしている設定などもありますが、そうではなく、ここは説明が足りなかったかもしれないというのは読んでいる方でないと気付けないこともあると思いますので、よければお気軽に感想(?)などで指摘いただければと思います。よろしくお願いします。

今回で10話目。ここまでお目通し戴き、ありがとうございます。今後も続けて参ります

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