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神田の小話『ひじとあごでワープ』

作者: 神田かん

僕は夢を見た。必死にひじとあごをひっつけようとしている。僕の両隣で同じように友達がずらっと並んで、その中の一人の、はるき君がひっつけることに成功した。光に包まれ、その光と共にはるき君は消えた。そういう夢だった。


夢を見た日、はるき君は学校に来なかった。帰り道、僕はひろし君に夢の話をした。ひろし君も同じ夢を見ていた。ひろし君は気になって調べたんだと言った。ひろし君が言うには、夢の中でひじとあごをひっつけると異世界にワープするということだった。


その日の夜、僕は眠れなかった。ひろし君はこのことは二人の内緒で、誰にも言わないこと。ひろし君は相撲の練習があるので、また学校でと、挨拶をして帰った。僕は迷っていた。


一度こんなことがあった。はるき君の机の中にラブレターを見つけて、ケンちゃんが騒ぎ出した。ラブレターは開かれ、ケンちゃんは中身を読んだ。ラブレターを書いたことみちゃんは泣き出した。おまえ、ことみちゃんのこと好きなのかよと、ケンちゃんは言った。はるき君はまっすぐケンちゃんを見て好きだよと言った。はるき君は優しい顔をして、


「僕はことみちゃんのことが好きだし、それに、ケンちゃんのことも好きだ。でも、友達を泣かせるケンちゃんは嫌いだ」


僕ははるき君がかっこいいと思った。それと同時に、僕は泣きたくなった。だって、ケンちゃんにラブレターのことを言ったのは僕だったから。


次の日もはるき君は学校に来なかった。僕は助けにいきたい気持ちが大きくなっていた。帰りにひろし君を誘って、思い切って打ち明けた。残念ながらひろし君は行けないと言ったので、僕は一人で行くことにした。ひろし君の気持ちはよくわかったので笑顔で別れた。ひろし君は待っていると握手してくれた。ものすごく力強い握手だった。僕は勇気が湧いた。


その夜、僕は夢の中でひじとあごをひっつけ始めた。とても届きそうにない。でも、逃げるのはよそうと思った。はるき君に伝えたいことがある。ひろし君が待っている。つながりたいと思える友達がいるだけで、こんなにもパワーが出ることに、僕はびっくりした。そう、何時間も格闘した結果、ひじとあごがひっついたんだ。夢で見たのと同じように僕は光に包まれた。


ほっぺたがヒヤッとした。目を開けると、見たこともない生き物が僕の顔をなめていた。僕は大声をあげて飛び上がり、走って逃げた。目の前に飛び込んでくるのは、見たことがない植物や生き物ばかりだった。ここは異世界なんだ。さっきのは恐竜だろう。とんでもないところに来てしまった。早くはるき君を探さないと。


ずいぶんと走った。喉がとてつもなく乾いたので川を探すことにした。遠くで水の流れる音がする。はるき君の名前を叫びながらだったので、僕はへとへとになっていた。ようやく水の音が近くなってきたので僕は走った。もうすぐ水が飲める。辿り着いたと思ったら、目の前は崖だった。僕はがっかりして他を探そうと振り返ろうとした。すると、向こうの方で崖から今にも落ちそうな子供がいるのが見えた。はるき君だ。すぐに分かった。僕は疲れを忘れて走った。走って走って走った。のどが焼けるように熱かった。それでも走った。


「はるき君!つかまって!」


僕は手を伸ばした。はるき君は一瞬驚いた顔をしたが、うんと言って手を伸ばした。僕とはるき君の手がつながった。やった。しかし、僕は限界まで手を伸ばした状態。いくら引っ張りあげようとしても無理だった。次第にずるずると僕の体も崖の下へと引っ張られていく。


「もういいから!手を離していいからー!」


僕の頭には助けられる方法はもうなかった。それでも絶対に離したくなかった。このまま一緒に落ちる。もうここまでかと思った。と、次の瞬間、ものすごい力が僕の足を引っ張った。びっくりしたが、僕は最後の力を振り絞ってはるき君を両手でつかんで引っ張った。


はぁはぁと息を切らして顔を上げると、そこにはひろし君がいた。へへへと笑うひろし君が太陽に照らされていた。助けに来たと僕が言うと、はるき君はくしゃくしゃな顔をして泣いた。僕はひろし君にしてもらったように力強く握手をしてあげた。


戻る時も同じようにひじとあごをひっつけたら簡単に戻ることができた。でも次同じようなことをしても戻れる保証はないから、このことは三人の秘密にした。それぞれの家に帰る時、僕ははるき君にあの時のことをごめんなさいと謝った。はるき君は代わりにありがとうと言ってくれた。また学校でと、挨拶をして僕らは別れた。

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