面接
○県S市で俺はカジノディーラーをやっていました。
結末を言ってしまうと検挙されてお店は潰れたのだけれど
出来る限り当時の事を思い出して書き出してみました。
実話なので固有名詞は仮名です。
童貞を捨てるのが遅かった俺は、漠然としたコンプレックスから、女にモテる事が男として価値の証明だと思っていた。
安定性とか世間体とかそんな事はどうでも良いと思っていた。怖いもの知らずだった。
とにかくモテそうなバイトを探していた。
コンビニで買った求人情報誌で目に止まったのが
『アミューズメント カジノBARエルドラド:ホール、フロア、アルバイト募集』
カジノってカッコいいカモ
深い事は全く考えていなかった。
夜の世界に飛び込む事は勇気が必要だったが、当時気になっていたギャル系の女の子の気を引きたくて、自分なりに頑張った。
S市繁華街、雑居ビルの3F
真っ黒な扉にゴールドの装飾。中に入ると、ミラーとシルバーが基本のメタリックな内装。グリーンのラシャが敷かれたゲーム台にチップの山、キラキラ光ってクルクル回るルーレット。
映画で見たような、まさにカジノって感じの店だった。
面接してくれたのは2人、ディーラー長の高梨さんと韓国人マネージャーの朴さんだった。
高梨さんは32才、ディーラー達のリーダーで、ニコニコした昭和のハンサムと言った感じ、スーツだけどやたらムキムキだった。毎日3000円のユンケルを飲んでるらしい。
朴さんは店のマネージャーで、色は浅黒、猿のような感じ、高そうなスーツのアラフィフのオジサンだった。
携帯の着信音はライディーンだった。
求人情報誌を見て来た事、バーテンかウエイター希望である事を伝えたところ
「すまないねー、今、ウエイターとバーテンは募集してないダヨ」
朴さんは典型的なアジア系外国人の日本語で説明を始めた。
「今はディーラーを募集してるダヨ、どうするネ?」
「ディーラーっていうのは職人芸だから、一度身につけば他のお店でも働けるよ!」
ニコニコしながらハキハキしゃべるムキムキの高梨さんからもディーラーを勧められた。
ディーラーってトランプを配ったり、ルーレットで玉を投げたりするアレだよな
ウエイターなんかより楽そうだしカッコいいカモ
逆に有り難い話だと思った。
俺は次の日からエルドラドで働くことになった。
アルバイト初日、今思えば、相当に暇な、客の来ない日だった。
俺はあまり使われる事の少ない中バカラのテーブルで、ベテランディーラーの吉田さんにトランプの切り方を教わった。カジノでは「カードのシャッフル」というらしい。
スジがイイと褒められた事と、それしか教わらなかった事、練習が仕事であると認識した事で、俺は開店のPM6時から閉店のAM3時までシャッフルし続けた。
休憩もなく、食事もなく、ひたすらシャッフルした。
させられた。今考えるとヒドイと思う。
次の日はシャッフルしながらだけれども、やっと周りが見えてきた。
お店のメンバーは基本、イケメンや美女が多かった。
ディーラーは10人
バーテン2人
チャイナドレスのウェイトレス4人
厨房に3人
キャッシャー
マネージャー
店長
そして社長
営業時間はPM6時からAM3時まで
ゲームの種類はルーレットとバカラ
飲食はすべて無料
無料!?
おかしいと思ってたら、なんか現金が飛び交ってるし。
どうやら、借りたチップは現金に交換出来るようだった。
コンビニの求人情報誌で見つけた、只のアルバイトだと自分に言い聞かせ、取り敢えず受け入れる事にした。
ディーラーってカッコいいし、時給もいいし。
当時の俺は、怖いものが無かったし、知らなかった。
シャッフルはマスターした。