春
「小説がかけない」
そう呟いて、学習机の前で椅子にもたれかかった。
思えば、ここ数年読書らしい読書もままならなくなっていた。夢を追いかけて理系の道に進んだが最後、数学が苦手な私は、落ちこぼれていった。難解な理系科目は私の趣味の時間を奪った。大学の講義に出るのはいいが、理解できずに苦しむ。親に高い学費を出してもらっているのに、挙句寝てしまう始末。安らぎを求めて、今私は、ノートPCに向かい合って、最初の一文を書こうとしていた。
なのに。
心地よい春風が白いカーテンを揺らしている。こんなにも穏やかな春の日なのに。
ふと、最近音楽を聞いていないな、と音楽プレイヤーを探すも、忙しい毎日で片付かない部屋では、見つからない。
ああ、私は。どこかで間違えたのだろうか。
虚無感を覚えた私は、米を洗おうと台所にたった。
今さら戻れない。