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喧嘩と後始末

もう感想をいただけてびっくりしてます。

ぼっけんさん、ありがとうございます。


リデルが駆け出した方向を見て、私は思わず叫ぶ。


「シャル姉っ」


シャル姉はロロを連れて芋を持って行くところだった。

おもいっきりぶつかってきたリデルによって細いシャル姉の体が傾ぐ。

ひとつ結びの綺麗な銀髪も、一緒に作った服も泥に塗れるのを見て目の前が怒りに赤く染まるのを感じた。


一方、リデルは仄暗い達成感に満ち満ちていた。同い年であるというのに先輩風を吹かせて世話を焼いてくるアリアをうっとおしく感じていた。新人だから心細いかと思い焼いていたアリアのおせっかいは、この歳ですっかりひねくれてしまっているリデルにとっては余計なものだったのだ。

アリアが芋をたくさんとったことも、弱っちい女にできたことが自分にできなかったことも、チビたちに笑われたことも何もかもが気に障った。

ちょっとした意趣返しが成功した今となっては許せることだな、とリデルがシャルーアの手袋を奪い取ろうと屈むと、


「っなにすんのよ!!」


アリアが、ニヤニヤとシャルーアを見下していたリデルを突き飛ばし、思い切り馬乗りになってきたのだ。

その勢いのまま手のひらを翻し、パチンとリデルの頬をたたいた。

しかし、アリアは女の子で、しかも激弱だった。優しい神父様に育てられ、人に手を挙げたのなんてこれが初めてだった。周囲も幼いから目立ってはいないが、普通の女の子の攻撃力が10だとすると、アリアは-50といえるほど筋力がない。それどころか、昔から体が弱く、季節の変わり目でしゅっちゅう体調を崩すような、激弱だった。


叩かれたリデルはしばし呆然とし、次に怒りで顔を染め上げた。彼にとってもぶたれたのは生まれて初めての経験だったのだ。たとえ蚊に刺されたかな?程度の刺激だったとしても、これは許すまいと、即座に激弱アリアをひっくり返し、マウントポジションをとった。

確かな敵意をもって睨んでくるアリアの抵抗をものともせず、首を絞める。


苦しげに歪むアリアの顔に勝利を確信し、


「やめなさい!!!!」


と叫ぶ声で、二人の喧嘩はぴたりと止まった。


殺伐とした空気を裂き、凛と声を張ったのはシャルーアだった。

一緒に転んでしまい、痛みに泣きそうになっているロロをなだめつつ、シャルーアは二人をたしなめる。


「リデル。こんな小さい子を泣かせて恥ずかしくないの?怪我をしたら痛いのは今一番あなたがわかっているはずでしょう。アリア、あなたも。私のために怒ってくれようとしたのは嬉しいけれど、女の子が暴力に走るのはよくない。反省しなさい!」


腰に手を当てて懇々と説くシャルーアに、リデルは思わずアリアの首をしめていた手を緩める。

アリアは苦しさから抜け出せたことで安堵しながらも、反省した。久しぶりにシャル姉に怒られた・・・。

隣に座り込んだリデルが小さく舌打ちする。怒られたのはこいつのせいだけどな!!!アリアはシャル姉にばれないようにリデルをこっそりと睨んでおいた。


「シャルの言う通りだ。ムカついたから殴っていいなんて理屈は社会で通らないよ。これはもちろん二人だけでなくみんなにも言えることだね。」


場をとりなすように神父様がいう。子供たちは神父様の言葉に神妙にうなづき芋掘りに戻っていった。

シャル姉は神父様に子供の喧嘩で腰が引けてるようではうんぬんかんぬんと笑顔で諫言している。年々神父様の頼りなさに反比例してシャル姉がしっかりしていってる気がするな、と思っていると


「ちっ」


とまたもや今度はでっかい舌打ちが聞こえた。怒らない怒らないと心の中で唱えてからリデルを笑顔で振り向く。


「リデル、いくらあんたにイラついたからって叩いたのは悪かったわ。」


顔引きつらせながらも、なんとか笑みを形作る。お互い様だとはおもうけど、ここは精神的に大人な私が謝ってあげなきゃね。リデルは数秒私の顔を気持ち悪そうに見つめると、


「あんなん叩いたうちに入んねーよ。せいぜいクジュケジュが這ったくらいだ」


と言ってみんながいる方へ歩いていった。

クジュケジュとは畑からたまに出てくる、全身に生やした繊毛で移動する気持ち悪い虫のことだ。

つまり私はクジュケジュだと、そう言いたいわけかな?

笑顔で固まったまま、私は心の中で唱える。


怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない怒らない。


ふう。


「アリア姉ちゃん、だいじょうぶ?痛いの飛んでけ、する?」


駆け足で近寄ってきたネルがこてんと首をかしげ心配してくれる。そんなネルを思わず抱きしめ癒されながら、考える。ネルの爪の垢を煎じてリデルの口に突っ込みたいと。







次の日。いつも通り、洗濯、掃除、ご飯を終えて午後。

神父様にお客様がいらっしゃったみたいで、授業は自由時間へと切り替わった。


多くの子供たちは外で遊んでいる。私は、シャル姉が昨日転んだ拍子に破れてしまった洋服を直す横で、自分の服を新調していた。馬鹿リデルのせいで洗濯しても汚れが落ちなかったこともあるけど、そもそも私は成長期なのだ。身長が伸びるせいで裾の長さが足りなくなっていた。


私たちの服は基本的にいらなくなった布でつぎはぎをして作られている。カーテンにしてもそうだ。綺麗なのは布団くらい。体洗って寝るときくらい清潔にしとかないと、子供はすぐ風邪ひいちゃって余計にお金がかかるみたい。

だから新調といっても裾に布を継ぎ足す程度。

服としてもカーテンとしても使えないくらい汚れきってしまった布は切り裂いて雑巾にする。隣ではルルが最近習ったばかりの波縫いで一所懸命雑巾を量産していた。


「それにしても、いきなり自由時間になるなんて珍しいよね。」


作業の終わりが見えて、ひと休みついでに疑問を投げかける。

よくくるお客様は前もって予定を伝えてくれるからどの日が自由時間なのかわかるのだ。


「そうね。神父様に急ぎの用事かな?」


シャル姉は一番裁縫が上手。今も手元を見ずにすいすいと縫いながら答えている。

月に一回、仕立て屋さんがやってきて女の子に裁縫を教えてくれる。この場に男の子がいないのは裁縫ができないから。私たちが裁縫を習っている間彼らは鍛冶の見学に行っているらしい。

裁縫を仕事にする男の子も、鍛冶を仕事にする女の子もいないからだって。


「ルル、見た!おっきい男の人と、ルルみたいにちっちゃい男の子!」


裁縫に飽きてしまったルルが投げ出した雑巾の仕上げを引き継ぐ。

ルルは年齢より体の成長が遅いからなあ、2、3歳くらいの男の子かな?


「ね、ルル他には?どんな男の人だった?」

「綺麗なお洋服きてた!」


そういった後ルルは自分たちの服を見て眉を下げてしまった。比べちゃったみたいね。

しかし、綺麗な服を着た男の人なんて、心当たりが全くない。仕立て屋さんは女の人だし、定期的に食べ物を持ってきてくれる農家のおじさんも、新品のシーツを持ってきてくれる人も、綺麗な服、とは言い難い。

しかも子連れなんて。あ、もしかして。


「新しい孤児かな?」


ぱっと思い浮かんだ可能性は姉によって否定される。


「ん〜ありえなくはないけれど、綺麗な服を買えるような人が自分の子供を捨てるかな?」


確かに。子供を捨てる理由の大半は、お金がない家が食い扶持を減らすためだ。大人になっても労働力になりづらい女の子は特に孤児になりやすい。この孤児院も7割が女の子だ。

金持ちっぽいし、男の子だっていうし捨てる可能性は低そう。


「まあ、孤児なんて増えない方がいいわね」


シャル姉はそう呟き、いつの間にか完成していた服を着た。



主人公はわりと口より手が出る短気やんちゃ系です。激弱なので姉ちゃんがいなかったらこの話で死んでるけど。


姉ちゃんはおっとりにみせかけたしっかり系。

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