子供と俺①
バルトジャンside
ユーチに出会ったときのことを思い出す。
あれは依頼で向かった森の中だった。
――ギルドの依頼を受け、街から走って1時間ほどにある森に来ていた。
今回の獲物はイノシン3頭。納期は3日後だ。
運が悪いときは2日掛かりの仕事になるんだが、その日の俺は幸運だったらしい。
森に入ってそれほど経たないうちに、イノシンが4頭も揃っているところに出くわした。
だが、それで少しばかり浮かれていたのかもしれねえ。
調子に乗ってミスっちまうとは……
4頭まとめて仕留めてやろうと勢いで攻撃した結果、1頭に傷を負わせたまま逃げられることになったのだ。
無事仕留めた3頭を急いで収納袋に収め、逃げたイノシンを追う。
手負いの獣は凶暴になる。誤って他者に怪我をさせることになったら、寝覚めが悪い。
なんとしても見つけ出し止めを刺さないと。
見つけた!
森の中を走り、逃がしたイノシンを視界に捉えたが、最悪なことにイノシンは子供に向かって突っ込んで行くところだった。
何でこんなところに子供がいるんだ?
不審に思うも、今はそれどころじゃない。後回しだ。
子供はイノシンの怒気に当てられ、恐怖で動けなくなったのか、逃げる様子がない。
「くそっ!」
思わず叫びながら、風の魔法を子供に向けて飛ばす。
子供が傷つかないように、一瞬で細心の注意を払った渾身の一撃だ。
シュッヴァン
ズサッ
子供はイノシンの突進からは逃れられたが、俺の風によって飛ばされ、地面に転がった。
守れていると思うが。
子供のことは気になったが、先に俺が手負いにしちまった奴と決着をつけねえと。
俺はイノシンに剣を向け、向き合う。
「無駄に苦しめて悪かった」と心の中で謝罪し、気合を込めた一撃で確実に仕留める。
――ふぅ~
誰かが被害を受ける前に、止めを刺すことができて良かった。ホッと息を吐くも、倒れている子供に視線をやり眉間に皺が寄る。
――間に合ったよな⁉
守れたと思うのだが、倒れたまま動かない子供に焦りを覚える。
無事を確認するため軽く頬を叩き、声を掛けた。
「おい! 坊主。大丈夫か?」
「――痛いです」
おっ、なんか、可愛い口で文句を言いながら起き上がろうとするじゃねえか。
俺はニヤリと笑い、子供の背中を叩き労う。
「だから、痛いですって」
ちょっと力が強かったのか、そいつは、また文句を口にした。
フッ、小さくて弱っちいのに、動けて文句が言えりゃあ心配いらねえな。
不満げに俺の顔を見上げる子供と目が合った。
黒くて奇麗な目だ。
涙で潤んでいるからか、引きつけられるように、ついまじまじと視線を向けてしまう。
子供が驚いたように目を見開くのがわかった。
「あ、悪い」
俺の顔が怖くてビビらせちまったのかと思って、無理やり笑顔を作ったが、大概の子供はそれでも怖がる。
半ば諦めたように溜息を吐き、その子のようすを遠慮がちに窺うと、なんと俺の腕にガシッと縋り付いてきたかと思ったら、俺に向けて嬉しそうに笑うじゃねえか。
俺は何が起きているのかわからず狼狽え、身体が硬直するのを感じた。
おい、まさか頭を打ってたりしてないよな?
――ほんと、あの時は焦ったわ。
まさか初対面の俺に対して、子供があんな態度を示すとは思わなかったからな。
その後、ユーチに怪我がなく、頭も打ちどころが悪かったわけじゃないことがわかって安堵したんだが、ユーチの事情がわからなかったから、不躾にいろいろ聞いちまったんだよな……