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ギルドの食堂で働く少女のつぶやき ①

イモールside


 バルトさんを初めて見かけたのは、私が10歳のとき。

 

 今の私は16歳で、バルトさんが26歳だから、その頃のバルトさんは20歳ほどだったはず……だけど、今とあまり変わらない気がする。




 ――銀の髪が綺麗な姉と違い、自分の(くせ)のある何処(どこ)にでもいる赤茶色の髪が嫌いだった。

 姉のお()がりの可愛らしい服も私には似合わなかったし、動作が遅くて何をするにも時間がかかってしまう私は、悪い意味で目立っていたのだと思う。

 姉と比べられて、からかわれたり仲間外れにされたりした。

 悔しかったけれど、姉のようにはっきり気持ちを言葉にできなかった私は、唇を噛みしめ(うつむ)いて涙を(かく)すほかなかった。


 そんな毎日だったのに、あるときから嫌がらせをしてくる子が少なくなっていたことに気付く。

 不思議に思っていると「お前、あの怖い(ひと)と知り合いなのか?」と、男の子たちのリーダー的存在の子に聞かれたことがあった。


 その怖い(ひと)というのが、バルトさんだったのだけれど……


 私は、ちょっと見かけたことがあるだけで、口も聞いたことがなかった人のことを、なぜそんな風に尋ねられたのかわからず、驚いて首を横に振る。

 しかし、私に何かしようとするとその人に(にら)まれ、大きな身体で威嚇(いかく)されるらしい。

 気のせいでは? と思っていたのだけれど、注意して見ると確かにそうなのかもしれないと思う場面に出くわすことがあった。


 そんなことが続いたからか、私をからかい馬鹿にする子はいなくなっていた。

 反対に、それまで意地悪をしてきた男の子たちが気にかけてくれるようになり、仲良く一緒に遊べるようにもなった。


 あの怖い人のお陰かもしれないと気にしつつも、知らない大人の男の人に自分から声をかける勇気は持てない。

 一度だけ、はっきりと目が合ったことがある。

 そのとき、その人は私を見て微笑(ほほえ)んでくれたように見えたのだけれど、私は驚いて何も言えず逃げ帰ってしまった。


 もしあのとき、ユーチ(あの子)のように笑顔でお礼を伝えることができていたら、私もバルトさんともっと親しくなることができたのかもしれないと思うと、残念でならない。



 嫌なことが起こらなくなると、いつの間にかバルトさん(その人)は姿をみせなくなり、いつしか忘れてしまっていた。


 ♢


 15歳になった私は、冒険者ギルドの受付をしている姉――アネスの紹介で、ギルドにある食堂で働きはじめる。


 夜になるとお酒の注文があるから、酔っ払いの相手をしなければならないかと不安に思っていたけれど、常連の冒険者は皆、ギルドの受付をしている姉の知り合いだったからか、酔っぱらった客がおかしなことをしでかす前に、誰かが止めてくれていた。なので嫌な思いをせずにすんでいる。


 そんな冒険者の中に、見覚えのある容姿の男性がいた。

 その体格のいい厳つい顔の男の人は、苛められていた私を助けてくれた人だと気付く。


 私は勇気を出してその男性――バルトさんにお礼を伝えたのだけれど、バルトさんはなんのことかわからなかったようで、不思議そうに首に傾げられてしまった。


 5年も前のことだから、忘れていても仕方がない。

 そう思ったのだけれど〝あのときのあの人は、絶対にバルトさんだった!〟という、よくわからない確信があったから、どうしても思い出して欲しくて当時のことを詳しく話した。


「あの時のチビか? 大きくなったな」


 そう言って、嬉しそうに笑ってくれたバルトさんの顔が忘れられない。思い出すと頬が緩んでくる。


 ちゃんとお礼を伝えられたからか、それまで胸につかえていた何かがストンと落ちたように、気持ちが軽くなった。 


 バルトさんに当時のことを尋ねると、嫌そうに眉間(みけん)(しわ)を寄せられてしまったけれど、渋々話してくれた。

 それにより、あれは偶然ではなく、(いじ)められていた私に気付き動いてくれていたのだとわかって嬉しかった。

 正義の味方のように、悪い奴をカッコよくやっつけてくれたわけじゃないけれど、自分の容姿が子供に怖がられることを利用して、いじめっ子に(にら)みを()かせるために、子供が集まる遊び場や、私たちをよく見かけた場所にわざわざ足を運んでくれていたのだと知り、くすぐったい気持ちになる。


「やんちゃ過ぎるガキどもだったが、俺みたいな奴に(にら)まれ威嚇(いかく)されて、災難だったろう。下手すりゃ俺の方がいじめっ子だったわ」


 バルトさんからすると、大人の自分が子供を苛めているように感じ、気が重かったらしい。

 だから、私がその子たちと仲良くなって、一緒に遊んでいる姿を見たときはホッとしたのだと、照れたように笑った。


 確かに、バルトさんのようにガッチリした体格の知らない男の人に、怖い顔で(にら)まれた子たちは、きっと恐ろしかったに違いない。


 わざわざ自分がいじめっ子になって、私を助けようとしてくれたバルトさんの、わかりにくい優しさがおかしくて、クスクスと笑ってしまった。




 それから、バルトさんの姿を見かけると、進んで挨拶をするようになった。

 少しずつだけれど、自然に会話もできるようになってきたと思う。


 今は食堂の仕事をしながら、仲間とお酒を飲んで騒いでいるバルトさんの、飾らない姿を眺めて一人で頬を緩ませたり、店に来るお客さんからあがるバルトさんの話題に耳を傾けたりしている。

 仕事中に手を止めてしまうこともあるけれど、それまで知らなかったバルトさんの一面に触れられる機会は見逃せない。



 その日もバルトさんに会えるのを楽しみに仕事をしていた。


 3日前の、日が暮れてからのこと――






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