プロローグ『クラスE』
新作長編です!
よろしくお願いします!
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ある高校の、ある教室。ガヤガヤと賑わう、ありふれた光景。
二十数名で構成されたこのクラスには、様々な個性を持つ少年少女が在籍している。
ガララと、小気味良い音を立ててスライド式の扉が開かれる。扉を開けたのは、少し癖のある黒髪の少年だった。
「よぉ、奏多!今日もギリギリだな!」
「……朝は弱いんだよ」
奏多、と呼ばれた少年は欠伸をしながら扉を閉める。口々に挨拶をしてくるクラスメイト達に返事をしながら、席についた。
「おはよう、悠」
「………」
奏多は椅子に座る際、後ろの席に座る少女に挨拶をする。悠と呼ばれた白髪の美少女はしかし、返事をしない。
だがそれは分かっていたのか、奏多は気にする様子もなく席についた。
「おは、んぐんぐ、おはよう、奏多君」
「……彩音。食べるか話すかどっちかにしようよ」
「そうだね!」
茶髪の少女、彩音は両手で抱えていた大きなパンを食べ始めた。どうやら、挨拶よりも食事を優先したようだ。
「聞いてくれよ奏多!」
奏多に真っ先に挨拶をした少年が、彼の席までやってきた。茶髪のチャラ男、桐川玲。両耳に三つずつのピアスをつけ、腰にはチェーンがぶら下がっている。
以前、奏多が『何故そんな痛そうな物をつけているのか』と聞いたところ、『付けてみたかったから』と答えた、あらゆることに好奇心旺盛な少年だ。彼の行動原理は、だいたいが好奇心で説明できる。
そんな玲は、奏多の一番の親友だ。
「実は昨日、新作ゲーム買っちゃったんだよな!どうだ?今日、うちに来ねぇ?」
「じゃあ行くよ。て言うか、僕は基本的に暇だって知ってるだろ?」
「ははっ、そうだったな。じゃあ今日の放課後な」
「分かった」
「ねぇねぇ、それ、私も行っていい?」
そんな二人にかかる声が一つ。声をかけたのは黒髪ロングの少女、木嶋栞だった。
このクラスの中で、いや、この学校の中で一番の美少女と言われている、マドンナ的存在だ。
学外にもファンがおり、あらゆる事務所からも声をかけられるほどの人気っぷり。もちろん、告白されるのは日常茶飯事であり、誰もが羨むイケメンやエリートからも言い寄られることも珍しくない。
だが、そんな彼女にはある感情が欠落していた。それは、『恋愛感情』。『人を好きになる』というのが有り得ない彼女にとって、告白というものは理解に苦しむものだった。
『普通にごめんなさい』と、本当に申し訳なさそうに頭を下げる彼女に打ちのめされた男の数は、もはや数えきれないほど。
そんな彼女にも、友達関係の好き嫌いは当然あり、そして奏多と玲は彼女と性格がよく合っていた。
「おう、いいぜ!いいよな、奏多?」
「もちろん」
そして悲しいかな、玲は栞に恋慕を抱いている。もちろん、栞のことはよく知っているので告白はしないが、少しでも一緒にいたいと思うのは男としては仕方がないことだろう。
それを抜きにしても、仲は良いのだが。
「……悠も来るか?」
「………」
奏多は後ろの席にじっと座る悠に声をかける。だがやはり、返事はない。
奏多は彼女の背後に佇む少女に視線を移す。
「……舞さん、悠も一緒にいいかな?」
「悠様もそれを望むでしょう」
「……そうかな」
「ええ、きっと」
悠の使用人兼護衛である三上舞は笑みを浮かべて答えた。奏多も少しだけ微笑んで答える。
「ってことで玲。悠と舞さんもいい?」
「フツー、順番が逆だと思うんだが……まあ、全然いいぜ!」
玲はキラリと歯を光らせた……が、既に奏多はそちらを見ていない。玲はそれに不満を漏らそうとしたが、
「桐山玲ぃ?」
突如、自分を襲ったプレッシャーに口を噤み、冷や汗を流した。
「もうホームルームの時間だが、いつまで喋っているんだぁ?あぁ?」
ギギギと、錆びたロボットのように振り返る。そこには、どう見ても教師とは思えないチンピラが立っていた。
金髪、咥え煙草、そしてだらしなく着崩したスーツ。ガラの悪いギャルにしか見えないこの南葉月は何の冗談か、紛れもなくこのクラスの担任だった。
「ち……違うんすよ、葉月先生!だって奏多が……!」
「ほう?奏多?奏多ってのは、私の知っている氷室奏多のことか?その奏多は今、真面目に勉強しているように見えるが……?」
その言葉に、玲は勢いよく振り返る。そこには、いつの間に取り出したのか、英語の教科書を読む奏多の姿があった。
「て、てめっ!奏多!」
「玲ぃ?これは、どういうことかなぁ?」
葉月はニッコリと笑う。玲もニッコリ笑った。
そして、玲の頭に拳骨が落とされる。ため息を吐く葉月と呻く玲を見て、クラスメイト達は笑い声をあげた。
そこには、平和な光景が広がっていた。どこにでもある、ありふれた平和。
教室に笑い声が溢れる。それは教室の外にも漏れていた。そして異様にボロボロな校舎をも突き抜け、本校舎にまで届く。
――――ここは、『クラスE』。人格に問題を抱えた生徒が集められた、隔離教室。
◆
『クラスE』。
人格、主に感情面に問題を持つ少年少女が集められた特別クラス。
このクラスに集められた彼らには問題の大小があり、ほとんどの生徒は特に問題なく日常生活を送ることができる。
例えば、木嶋栞。
彼女は確かに『恋愛感情』を持たないが、逆に言えばそれだけ。もう一つ、ある問題を抱えているが、それも大したものではない。この程度のものなら、彼女は普通に社会に適応できるだろう。
ならば、なぜこのクラスに選ばれたのか。その理由は分からない。選定条件も、作られた目的も、全てが謎。それが『クラスE』。
ただ一つ言えることがあるならば、それは『大きな力』が働いているということだろう。
この『クラスE』に選ばれた生徒には、もちろん拒否権があった。自称法治国家であるこの国に住むのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
全てが謎のままの『クラスE』に入れば、世間から好奇の目で見られるのは必然。なのになぜ、彼らは『クラスE』に入ったのか。
それはひとえに、リターンが大きかったからだ。
それは、生涯における衣食住の保証。それは当人だけではなく、その家族にも適応される。
更に、望めば将来の就職先も紹介してもらえる。ある程度の企業にはなるが、それでも決して悪くない就職先だ。
毎月、必要以上の生活費が手に入り、将来も安泰。ある意味、断る理由がない。
―――ただ。
この『クラスE』には、ある噂があった。もしもその噂通りなら、それは噂ではなく事実として広められるはずであろう、ある噂。
―――この『クラスE』は、過去にも何度か作られた。
そんな噂。
だが、それはあり得ない。もしもそれが事実なら、噂ではなく真実として広まるはずだ。
そんな重要な情報が、もはやプライバシーの侵害などという概念が崩れ去ったこの国で漏れないはずがない。マスコミが黙っているはずがない。
ゆえに、この噂はただの噂。誰かが面白半分に作った噂。
そう考えられるようになった。
もしも、この噂が真実ならば。
その情報を消すために、働いた『力』は計り知れない。
国一つの『力』で、この情報を消せるだろうか?
もしもこれが事実ならば、生徒の保護者は黙っていないはずだ。
そもそも、今でも国中が知っている『クラスE』の情報を消すならば、それこそ国民全員に手を回す必要がある。
そんなことが可能なのか?
答えは否だ。
それこそ、魔法でもなければ―――。
こうして、噂はただの噂として流され、『クラスE』の生徒達は編入することを決めた。
彼らがこの選択を後悔するかどうか。
それはまだ、分からない。
今日中にあと二話ほど投稿する予定です。




