もしもこの世が夢ならば
初投稿です。
つたない部分も多いと思います。
日々精進して参りますので、何卒ご了承下さい。
20XX年
世界中が不景気に見舞われた「世界大恐慌」から3年
日本もその例外では無かった……
高校3年生になった山田太郎も壮絶な高校生活を送っていた。
入学したての頃は、普通に教科書を買って勉強して、放課後には友達とカラオケに行く、というようなごく普通の生活をしていた。
しかし、高校入学2か月後に「それ」が起こり生活が一変した。
国際関係が悪化し世界中で多くの戦争が毎日のように起こっていた。
電車は6時間に一本しか出ていないのにほとんど乗る人も居ない。
学校に行っても、勉強を教えてくれる先生も居ない。
町で唯一残っているスーパーマーケットでも、物価の上昇が続き、福沢が描かれている紙切れを10枚程持っていっても人参が一本買えるかどうか。
水道も止まり、電気なんて高くて使えないし、親も仕事を探しに荒廃し、かつての輝きを失った大都会「東京」に出掛けると言ったまま帰ってこない。
かつての友達も、今の世界に絶望して何人か自殺してしまった。
時々、クラスメイトが家にやって来るのだが、自分の家に来るときの目的と言ったら、盗みしか考えられない。
家は、ある程度壊しておかないと盗みに入られる可能性が高くなるため、町中どこを見てもまっすぐ建っている家なんて見受けられない。
食料は国から1日にさつまいも1本と水500mlが配給される。
そんな世界を山田は今日も暮らしていた。
山田は配給される食料をいつも早めに取りに行く。
家に帰るといつもだいたい午前7時位になる。
山田は2年前から、家の床が抜け落ちて地面が見えているところで家庭菜園を始めた。
種は母が家にいたときに家で家庭菜園を行っていて、その時に買ってあった種を勝手に使っている。
最近では自分で抜け落ちているところの周りを壊して、自分の畑を広げている。
山田の生き甲斐のようなものはたった2つしかなかった。
1つは家庭菜園、もう1つは昔のアルバムを見ることであった。
アルバムを見ていると昔の幸せな生活を思い出せる。
幼稚園の運動会のかけっこで1番になったこと。
小学生4年生のとき、テストで100点をとって母に褒められたこと。
小学校を卒業するときに、家族3人で海外へ旅行に行ったこと。
中学生のときにしていたバスケットボールで地区1位になったこと。
そして1番新しいのでいえば、高校に合格したこと。
いろんな辛いこともあったと思うけど、なぜか幸せな記憶しか蘇ってこない。
アルバムを見ることで未来に希望がある。となぜか思えてくる。
しかし、それと同時に生きることで精一杯な今の生活に嫌気がさしてくることも多々あった。
神でも仏でも何でもいいから助けて欲しかった。
ーー
午前5時 天井の穴からじっとりとした光が垂れ込んできていた。
また今日も1日が始まる。靴を履き3km先の配給所に行く準備をしていた。向かいの道のわきにいる猫もまだ夢の中だ。
今日は気分転換のためにいつもと違う道を通り、近所の昔よく遊んでいた川を見てから配給所にいこうと山田は考えていた。
「よしっ」と言いながら立ち、玄関の壊れた扉をガタゴトと強引に閉めて足を踏み出した。寝ていた猫もいつの間にか姿を消していた。自分の声で起こしてしまったかもしれないと少し後ろめたく思った。
ここから川までは歩いて20~30分位の距離である。
そういえばここ2ヶ月位、誰とも会話をしていなかった。
最後に話したのは配給所で偶然出会ったかつての同級生だったと思う。
でも、ほとんど話したことがなく名前もぼんやりとしかわからなかった。
いつの間にか日が登り、真っ直ぐな光が辺りに降り注いでいた。
いつの日か見た景色が、目の前で宝石のように輝いている。
河川敷には沢山のごみの山があったが、そこには昔と変わらない水の流れがあった。
決して立派な川ではないが、煌めく水面は流れ星のように見えた。
この川を見ているとあの日のことを思い出す。
ーー
20XV年 6月13日 突然世界中の主要機関が攻撃を受けた
朝のニュースでアメリカのニューヨーク証券取引所をはじめとする世界各地の証券取引所にコンピューターウイルスが仕掛けられ、全ての株の情報が一瞬で消し飛んだ。
国家のコンピューターにもウイルスが入り、コンピューターで管理していた人口衛星が宇宙でぶつかり、その大きな破片がよく降ってくる。
アメリカの大統領も職を放棄し、誰も統率者が居ない状態になり国は世界一の国であったアメリカも簡単に崩れ落ちた。
それからはテレビを見ても暗いニュースばかり、さらに2週間位したら民法放送以外のチャンネルが全部無くなった。
そして、1ヶ月もしないうちにテレビと言うものがただの四角い板となった。
誰も「世界」というものがこんなにも簡単に崩れ落ちるなんて思ってい
なかっただろう。
ーー
もうそろそろ出発しようと思い、腰を上げた。
すると、目の前に傷だらけで埃を被ったスーツを着た30代ぐらいと思われる男が道端のつくしのようにひょろ細く立っていた。
どこかで見たことがあるような気がする。
「はじめましてじゃありませんよね……上田と申します。覚えていらっしゃいますか?太郎くん。」とつくしが言った。
「…………すいません。どちら様でしょうか?」
太郎はこの男が誰なのか覚えて無かった。
「覚えて頂いていませんでしたか……まぁ、会う機会なんて滅多にありませんでしたからね……」
「なんかすいません」
「いえいえ、そんなことより今日は伝えたいことがあってここに来たんです。」という上田の声は少し暗かったように感じた。
「太郎くんの両親である賢治さんと千恵子さんが一週間前に亡くなりました。」
光を燦々と注いでいた太陽が雲のなかに逃げていった。
ーー
山田の両親は研究者であった。
平日も休日も仕事をしていて、家に居ないことが多かった。
しかし、親子の時間が全く無いわけでは無かった。
父の賢治とはバスケットボールの練習を一緒にしたり、母に内緒で新しいゲームソフトを買ってもらったりした。
それがバレて、親子二人で一緒に怒られたこともあった。
母の千恵子は頭が良かったのでいつもテスト前には一緒に勉強をしていた。そのおかげか、テストではいつもかなり上位のほうにいた。
また、誕生日のときは毎年、手作りのケーキを作ってくれていた。
それはもう店で買って来たように美味かった。
数えない3人で旅行にいったこともあった。
まぁ、両親の仕事の関係で高知に用事があり、そのついでに観光したというものであったのだが、現地の魚市場に行ったとき、3人で山盛りの海鮮丼を食べた。
これまた今まで食べたことが無いぐらい美味かった。
ほかにも、いろいろ……いろいろなことをしたと思うのだが、何かが込み上げてきてうまく思い出せなかった。
目の前がぼやけてなにも見えなくなった。珈琲のドリップのようにゆっくりと涙が地面に滴っている。
「本当に……本当に……すいませんでした……」上田が深く頭を下げているのが視界がぼやけていても分かった。
それからしばらく沈黙の間があった。
どうしようもないぐらい居心地が悪くなってきた。
「……今から、配給される食料を取りに行きます。ついてきてくれますか?」太郎は知りたかった。両親の死と上田という男のことを。
そして川沿いに配給所を目指して再び歩み始めた。
いつの間にか、雲隠れしていた太陽がまた、川の水面を煌めかせていた。
「分かりました。私も渡したい物があるので家についていっていいですか?」という上田の声はまだ暗いままだった。
「いいですよ……」
このあと特に会話もしないまま配給所に着いた。
そこには、朝に家の前にいた猫が水を飲んでいた。
山田はいつも通り配給を受けたが、上田は住民では無かったため、何も貰えなかった。
帰り道も沈黙のまま家に到着した。
ーー
上田は山田夫妻の研究チームの部下のひとりであった。
小規模な研究所だが、毎日6人で研究を行っていた。
成績はあまり良くなく、大きな成果を上げたこともなかった。
しかし、やる気と我慢強さは人1倍あり、それは他のメンバーからも認められていた。
山田賢治はこの研究チームのリーダーであった。
頭脳明晰でリーダーシップのある絵にかいたようなリーダーであった。
上田もいろいろとお世話になっていた。
そして、「あの日」以来この研究所では仕事が出来なくなった。
上田たちは研究をするために東京へと旅立つことを決めた。
その時一緒に太郎を連れていこうか迷ったらしいが東京は荒廃しテロ等が多発していると、聞いて連れていくのをやめたらしい。
だが、この研究が終わったら太郎に会いに地元に帰ると言っていた。
東京に行ってから1年位したときに山田千恵子が難病を発症した。
病院に行って治療を受ければ完治出来る可能性の高い病気だった。
それから1年と半年位たった頃にこの研究チームの研究が完成した。
しかしその時には山田千恵子の容態はかなり悪化していた。
そして今から2ヶ月前の今日に山田千恵子は息を引き取った。
42歳という若さでの死だった。
それから山田賢治は地元に帰る計画を立てた。
しかし帰るための資金もなく、食料をちょっとずつ貯めておいて、歩いて帰ることにした。
それはとても途方がくれるものだった。
明くる日も明くる日も歩き続けた。
「あの事件」が起きたのは歩き始めて5日経ったときだった。
テロに巻き込まれたのだ。
頭の狂ったようなやつらが自分の体に爆弾を巻き付けて不気味に笑っていた。
そして、次の瞬間その男の1人がこっちに向かって走ってきた。
「ここにいては不味い、逃げるぞ」と賢治が言い放った瞬間、目の前が眩しく輝いた。体が後方に向かって吹き飛ばされた。大小様々な破片が無数に飛んできた。
それからしばらく記憶が無かった。次に目を覚ました時には周り一面焼け野原となっていた。
「山田先生ぃーみんなぁー誰かぁー」上田は叫んだ。
「…………う……上田くんッ…………」何処からか声がした。
山田賢治であった。賢治はリュックを腹に抱えたまま倒れていた。
「こ、これを太郎に渡してくれないか……」体のいたるところに破片が突き刺さっていて、気力だけで喋っているような感じだった。
「これは俺たちの希望だ……どうか頼む……」泣きながらリュックを上田に手渡した。
「これは僕の命に変えてでも必ず太郎くんのもとに届けて見せます。」上田はリュックを受け取った。
「ありがとう……」そう言い放ったあとに山田賢治は動かなくなった。
他の3人ももう手遅れだった。
しかしその時はあまり悲しみがわいてこなかった。
それよりも強い使命感が上田を動かした。
大空を見上げると太陽が輝いていた。
それから毎日1人でひたすら歩いた。山を越え、小さな村を越え、川を渡り、広い高原も越えた。
食料も水も自分で山で採って食べた。
山田賢治たちと別れてから13日後、ついに見覚えのある場所へとたどり着いた。
そして、それから2日後、太郎と出会えた。
ーー
上田は泣きながら太郎にこれまでの出来事を話した。
太郎も泣きながら聞いていた。
上田はがさごそとリュックの中から何かをとりだした。
「これがあなたの両親から預かったものです。そして我々の6年間の研究の集大成でもあります。……どうぞ。」上田は太郎に手渡した。
上田は使命を果たした。「この装置」を太郎に渡すことが出来た。
「これは……何ですかね……」装置を受け取った太郎はこれをどうやって使うのかが全く分からなかった。
見た感じはヘルメットに似ていたが、基盤やランプなどが数多についていてスイッチもあった。
「それはですね……頭につけて眠るだけでしあわせになれるという機械です」上田は慌てて説明をした。
「これを……被ったらいいんですよね……」装置をくるくる回して見ながら言った。
「はい……被ってみてください。」落ち着いた様子だった。
「分かりました……」そう言って、装置を頭につけた。
「次は横になって寝てください。」言われるがままに寝そべった。
「では……スイッチをいれてください……」カチッとスイッチを入れた。
その瞬間、ランプが光り出し、頭がぼーっとしてきた。
それを上田は息を飲んで見守っていた。
天井に蜘蛛の巣が張っていることに初めて気が付いた。
ーー
「おーい、朝だぞ」ぼんやりした意識の中、台所の方から声が聞こえてきた。
「ったく、分かってるよ。」と言いつつ、いつものように二度寝してしまった。
階段を降り、台所で朝食を4人でとり、いつものようにニュースを見ていた。
「太郎、お前大学受験は大丈夫なのか?」賢治は新聞を読みながら問いかけた。
「分かってるよ」太郎は適当に返事をした。
「パパ今日は出張で遅くなるらしいから早めに帰ってきて次郎の世話頼むわね。」千恵子がキッチンで目玉焼きを焼きながら言った。
「僕ももう中学生2年生だよ……馬鹿にしないでよ……」次郎がふてくされたように言った。
「おっと、そろそろ時間だ、」賢治が時計を見て、朝食の食器を片付け始めた。
それからしばらくして、賢治は今勤めている証券会社に、太郎は駅へ、次郎は通っている中学校へ出発した。
千恵子はそれを玄関で見送っていた。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
いつもと何も変わらない1日が今日も始まった。
ーー
本当にこれでいいのだろうか……上田は横で眠っている太郎を見てそう思った。
この装置、「超夢想現実化装置」は夢の中で、自分の求めている世界を造り出すことができる。
感覚もあり、味覚もある。何一つ現実と変わらない。
そして、過去の記憶を書き換え、あたかも自分がその世界で最初から暮らしているように感じさせる。
山田賢治たちの人生をかけた研究の成果であった。
上田はおもむろに立ち上がり、玄関の扉を開けた。
午後2時頃だろうか……太陽が真上から燦々と照りつけていた。
ーー
今生きているこの世が本当かどうかなんて誰にも分からない……
もしかしたら、今もあなたは夢の中を現実と勝手に思い込んでいるだけかもしれませんよ……
次は、長編を書きたいと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回作はまだ構想段階の為、時間が空くかもしれません。