Chapter-4
蒼真は不気味な森の中を歩いていた。光がほとんど入ってきていない。木の枝に垂れ下がっているツルが蒼真の視界を阻む。
それでも蒼真は歩き続けた。
あってないような道をただただ歩き続けていた。
が、その歩みも阻まれた。
蒼真の視線の先には巨大な「何か」が道を塞いでいた。
「何か」、は動物らしく灰色の毛で覆われている。
ヤバい、本能がそう告げる。
(ヤバいヤバい、逃げろ逃げろ逃げろ)
(あぁ、強そう。戦いたい戦いたい。)
どちらにせよ、蒼真は出来る限り気配を殺して一歩後さずる。
パキッ
枝を踏んだ。
「何か」、が動いた。
目が合った。
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrooooooo!!」
「何か」の首が伸びて蒼真を噛もうとする。
間一髪で避け、その巨体に驚く。
「何か」は蒼真がいた後ろの木を噛み千切った。
「何か」は木をくわえたまま攻撃を始めた。
態勢を立て直すためにもその場を少し離れようとする。
しかしそんな暇もなくなった。
巨大な分動きが遅いかと思ったが素早い。
避けるだけで精一杯だ。
周りの木がどんどん薙ぎ倒されて行く。
「うわっ」
躓いて転んだ。
顔をあげると「何か」はくわえた木を吐き捨てていた。
真っ正面から目が合う。
「ここで死ぬ訳にはいかねぇんだよっ!」
蒼真は「何か」の懐に走り込み、跳んだ。
そしてその巨体に竹刀を降り下ろす。
「何か」の伸びた首で胴体への攻撃は阻止された。
しかし蒼真は攻撃を止めない。
地面に着地するのと同時に後ろに回り込む。
「何か」は胴体を動かさないまま首を物凄い速さで伸ばしてくる。
「Hold it!(止まれ!) Bandersnatch!(バンダースナッチ!)」
「Grrr······」
目の前で「何か」、バンダースナッチの顔が止まり、バンダースナッチは口を閉じる。
声の聞こえた方を見ると派手な格好の男がいた。明るい紫の髪に同じ色の猫の耳。首には髪と同じ色の紫と暗い紫のしましま模様の毛皮を巻いている。右手首には手枷があり、鎖は途切れている。
少し寒気を感じるこの森でノースリーブを着てニコニコ笑いながらバンダースナッチを撫でている。
「Back to your place.(持ち場に戻れ) Get it?(いいな?)」
男がそう言うとバンダースナッチは森の中に入っていった。
男が蒼真に向き直る。
蒼真は少しだけ警戒した。
「ハハッ! オレは何もしないよぉ。だいじょーぶ。警戒しないで?」
蒼真は構えかけた竹刀を下ろす。
が、いつでも竹刀抜けるように手を添えておいた。
「オレはチェシャ猫。帽子屋に頼まれてお迎えに来たんだぁ」
「どこに連れて行きたいんだ?」
「それよりー」
チェシャ猫が蒼真に近づきながら聞く。
「君はぁアリスなんだよねぇ?」
「はぁ?」
「まぁ知らないかぁ。じゃぁついて来てー? 服も変えよっか」
蒼真は自分の服を見てみる。
いろんなところが破れていた。
「ほら行くよぉあんまり遅いと帽子屋に怒られちゃう」
「ちょっと待て」
どこかに行こうとしていたチェシャ猫を呼び止める。
「んー? なぁに?」
「お前白いうさぎ耳生やしたガキ知ってっか?」
「んー?白うさぎのことなら知ってるよ。その子がどぉしたの?」
少し先に行っていたチェシャ猫が蒼真の近くに来ながら聞く。
「じゃあお前がねこさん、なのか?」
チェシャ猫はい一層笑みを浮かべながら言った。
「そうだねぇオレがねこさんだねぇそれでぇ? 何が言いたいのー?」
蒼真はチェシャ猫胸ぐらを掴んだ。
「雪姫はどこだっ?!」
「へ? ちょっとー痛いからはーなーしーてー。離さないと教えてあーげない」
蒼真はチェシャ猫を睨み付けながら乱暴に手を離す。
チェシャ猫は少しむせて、またヘラリと笑った。
「知りたいならついておいで? こーんなところで話すことないよぉ?」
そして蒼真は警戒心をより強めながらチェシャ猫についていった。