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Prologue-under
薔薇の香りが立ち込める美しい庭園の中を風にさらわれたシルクハットが舞う。そのシルクハットに手が伸び、掴む。
「まだ見つからないのか」
シルクハットの持ち主は後ろにいる派手な格好をした男に問いかける。
「いないねぇ······器はいるけどねぇ······今まで以上の」
「そいつを連れてこい」
「無理だね。彼は狂ってない」
男は不敵に笑う。
「でも······方法はある。彼を連れてくる」
「······なんだ?」
「狂わせればいい。簡単だろ? 帽子屋」
シルクハットの持ち主である帽子屋は腹を抱えて笑いだした。
「······ダメか?」
男が不安そうに聞く。
「いや、ここの住人らしい考え方でいいな、と。では······善は急げ、だ。狂わせてやろうじゃないか」
帽子屋と男は美しい庭園の先にそびえる城に向かって歩きだした。




