Prologue
一軒の家の前に、艶やかな黒髪を持つ、雪のような肌の少女がいる。制服に身を包み、赤色の可愛らしいリュックを背負っている。少女はインターホンに指を伸ばしかけ、インターホンを触る直前で止めた。
「まだかな······」
指を戻し、壁に寄りかかった。
「あっれー? 可愛い子がこんなとこでなぁにしてんの?」
少女が顔を上げ、瞳を動かした先にはいかにもナンパばかりしてそうなチャラい男が二人いた。少女は返事をしないで視線を戻す。
「彼氏待ち? でも今暇でしょ? 俺らと遊ぼーぜ」
男がニタニタ笑いながら少女に近づいてくる。
「ほら行こーぜ」
男の手が少女に触れそうになった瞬間、少女が消えた。
「へ?」
正確に言うと少女が消えたように見えた。少女は突然開いた家の中に引き込まれ、何かで姿が隠れてしまっている。少女がいた場所には金髪の背の高い少年がいた。
男の首に竹刀を降り下ろし、ギリギリで留めた。
「······こいつに何の用だ?」
不機嫌な重々しい声がはっきり聞こえる。
男たちは一歩下がり――
「すっすみませんでしたぁ!」
逃げた。
少年は竹刀を下ろし少女を見た。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
少女ははにかみながら、微笑んだ。
少年も先ほどの声からは考えられないほど優しく微笑み、少女の頭を撫でる。
「着替えてくる。中で待ってろ」
「うん」
そして少年は二階へ、少女は一階のリビングに行った。
少年が二階で制服に着替え、少女と色違いの暗い青色のリュックを背負って一階に行った。リビングからは少年の母親の声が聞こえてくる。
「あらあらあらまた可愛くなって」
幼なじみと言えど母親は最近少女に会っていなかったからか嬉しそうだ。
「いっいえそんなことは······」
「うちの子もせめてもう少し愛想がよければねー」
少年は母親が余計なことを言いかねないと思い、少女に声をかけた。
「······行くぞ」
「あっうん。おばさんいってきます」
「はいはいいってらっしゃい。気を付けてね」
二人は家を出て学校へと歩き出した。
いつも通りの毎日。
変わることはないと思っていた日常。
学校に行って、授業を受けて、部活をして、帰る。
とあることによって、少女の歯車が狂ってしまった。
それにつられ少年の歯車もズレてしまう。
少年の名前は有栖川蒼真。
少女の名前は白星雪姫。
これは歪んでしまった童話。
狂ってしまった童話。