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「魔女さん、魔女さん、ボクが大人になったら結婚してくれますか?」

「魔女さん、魔女さん、ボクは大人になりました。いつ結婚しましょうか?」

 とうるさく付きまとっていたその少年は、気が付けばいつしかその息子に代わっていた。


 だが、それが何だろう?

 息子に代わっても、うっとうしいことは変わらない。


 親のように崖の上に鳳を呼び出せば怯えて逃げ出すかと思ったのに、逆に目を輝かせて飛びついてきた。

「乗せてください。いいでしょう?」

 と少女ではなく鳳に聞いている。


 少女は呼び出しに答えてくれた礼を鳳に差し出すと、踵を返して森へと帰って行った。

 少年も慌ててそれについてくる。


 龍を呼び出した時も同じだった。

 さっきまで目を輝かして大きな体を撫でまわしていたはずなのに、少女がさっと踵を返すと、慌てて少女のあとをついてくるのだ。


 少年はその親とは違い、何十年が過ぎようとも気にせずまとわりついてきた。


 少女はふと、その少年の親であった少年の言葉を思い出した。

「この子は成長がとても遅いんです。もしかしたら、あなたの傍にずっといられるかもしれません」


 面倒なことになったと少女はため息を吐いた。



「そんなに鬱陶しいのなら、いっそ殺してしまえば?」

 と同居人は冷たく言った。


 確かに殺してしまえば付きまとわれることはない。

 もともと人間ではない少女にも同居人にも、人間を殺すことに忌避感などありはしない。


 だが、

「少年を殺す?」

 その人間が自分たちが育てたあのリリスの息子だと思うと、それもどうなんだろうと思ってしまうのだ。


 ──実際には孫なのだが。


「うーん、そうだね。あと100年経ってもやめなかったらそうするかな」



 その100年が過ぎる頃、同居人は動かなくなった。

 永遠にも近い時間を変わらずに生きられるはずだったが、メンテナンスが受けられなくなったことが原因だろう。

 少女の体も同じように、いずれ時を止めたように動かなくなるのだろう。


 それを人間はさみしいと感じてみたり、かなしいと泣いてみたり、こわいと叫んでみたりするらしい。


 だが少女は淡々とそれを受け入れるだけだ。



 2代目リリスの孫である少年はまだ生きていたが、ひどく老いていた。

「すみません、たった100年程度でこのざまで」


 少女は何を謝られているのか理解できなかった。

「人間はみんな老いて死ぬものだよ」

 むしろ人間と言われる体で、医療技術もほとんど潰えたこの時代に100歳を越えて生きたほうがすごいのだ。


 少女にもそれくらいの常識はあった。



 少女は少しだけ昔を思い出す。


 最初に拾ったアダムはさっさと死んで、アダムが拾ったリリスも割とすぐに死んで、2人の息子は帰ってこなかった。

 次に拾ったアダムも帰ってこなくて、娘のリリスとその息子は死んだと聞かされた。


 そう遠くない未来、そのまた息子が死んでいくだけだ。

 不自然なことなど何もない。



「そういえば少年の名前はなんだっけ?」

 と少女ははじめて人間に名前を訊いた。


「少年……ふっ、ボクの名前ですか」

 少年と呼ぶには老いすぎたその人がおかしそうに笑った。

「ボクの家では長男の名前はみんなアダムになるんです。ボクは4代目アダムですね」


「そういえばうちの家では、男はみんなアダムだった」

 最初のアダムの子だけは違うのだが、少女の記憶にその名前は残っていなかった。


 ──その名前をつけたのは少女自身だったのだが。



 4代目アダムの墓は、アダムとリリスの墓の隣に建てられた。


 そしてその反対側の隣には『緑の怪物』という言葉が刻まれた石碑も建てられた。

 同居人が薄汚れた白衣姿の人間たちにそう呼ばれていたことを、少女が思い出したのだ。

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