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 託された赤ん坊には名前があった。

 リリスだった。


 2代目アダムがつけたのだろうと、少女は思った。



 2代目リリスもあっという間に少女へと成長した。


 そして、

「私、まだまだこの家にいたいの。いいでしょ?」

 と、出て行かない宣言をしてきた。


「うん、まあいんじゃない?」

 少女は反対しなかった。

 初代リリスだって宣言はしなかったが、結局死ぬまで出て行かなかったのだ。


「え、出てけばいいのに」

 同居人は残念そうにしながらも、どことなく嬉しそうにそう言った。


 同居人は人間嫌いはそのままに、さみしいという感情を覚えつつあるようだった。



 2代目リリスは引きこもりになるつもりも、ニートになるつもりもなかった。

 雑な少女と外には出られない同居人の代わりに、何かできることがあるはずだと考えていた。

 恩返しのつもりだった。


 だがしかし、世の中そんなに甘くはなかった。


 少女は雑だが、完璧だった。

 彼女が淹れたお茶は最高にうまいし、彼女が焼いたパンは最高にうまいし、彼女が洗った洗濯物は白く輝くのだ。

 2代目リリスがいくら真似をしようとしても、追いつけなかった。


 伊達に長く生きてはいないのだと、2代目リリスは思い知らされることとなった。


 傷心のまま、だが森の周辺に住むどの女よりも優れた家事スキルと戦闘スキルを持った状態で、2代目リリスは森を出て行った。



「んー、今日はちょっと曇ってんなあ」


 朝の気ままな散歩、もとい採集の途中で、

「ああ、少年が落ちている。珍しいなあ」

 少女はおそらく初めて少年を見つけた。


 十を超えた少年は、肉体労働以外の労働が碌にないこの時代、もう一人前の労働力である。

 棄てた人間の神経がちょっと信じられなかった。


 それとも自分の意思で森へ入ったのだろうか?


 少年が倒れたのは、毒キノコを食してしまったためと思われた。

 少年の食べ残しから、それと知れた。

 辛うじて息があるようだったが、間もなく死体へと変わるだろう。


 既に意識も無いようだった。


 バカだなあと少女は思った。

 それだけだった。


 少女は何事もなかったかのように、その場を通り過ぎて行った。


 次にそこを通りかかった時、雨に洗われた真新しい人骨が落ちていたのだが、少女がそれを気に留めることはなかった。



「んー、今日もいい天気だ」


 朝の気ままな散歩、もとい採集の途中で、

「ああ、また少年かあ」

 少女はまたしても少年を見つけた。


 最近は少年が単独で森に入る流行でも起きているのだろうか?

 いやな流行だなと少女は思った。


 少女は決して人間が好きではなかった。

 少女は決して人助けが趣味ではなかった。

 少女が哀れに思うのは、わずかでも施しをくれてやろうと思うのは、打ち捨てられた存在だけだった。


 少女は少年を避けて移動するつもりだった。


 だが、今回の少年は起きていた。

 立っていた。

 回り込んできた。


 そして一礼すると、こう言った。

「はじめまして、リリスの息子です。あなたに恩返しをするよう、これまで母に育てられてきました」


 少女は考えた。

 リリスって1代目? 2代目?


 ──ちなみに初代リリスは初代アダムとともに、100年以上も前から墓の下で眠っている。


 恩返しなど望んでいなかった少女は、むしろ面倒くさいと思った少女は、しばし考えた後にこう言った。

「その言葉だけで、私は充分です。今まで培った技術をフルに活用して、これからはリリスに、あなた自身の恩を返してください。では解散!」


 だが少年は諦めなかった。

 どこまでもついてきた。


 人間よりもはるかに長い時間を生きる少女だったが、ストーカーの被害に遭ったのは初めてだった。

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