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「んー、今日もいい天気だ」


 朝の気ままな散歩、もとい採集の途中で、

「ああ、また赤ん坊かあ」

 少女はまたしても赤ん坊を見つけた。


 そして少女は今回も落ちていた枝で一頻りつんつんと(つつ)いてみた。

「ふむ」

 反応は前とほとんど同じだった。


 少女は今回も皮袋と同じ扱いで、赤ん坊を連れて帰った。


 ──今回もまた、子を棄てた親が最後の情けで沢山巻いたボロ布が、最終的にはその赤ん坊の命を助けた。

 そして同時に、その赤ん坊の片腕を壊死させていた。



 少女は今回も雑だった。

 この家で育つ赤ん坊はこれで3人目のはずだったが、とてもじゃないが任せておけない。


「くそ、なんで人間ぎらいなのに人間を育てなきゃいけないんだ……」

 ため息を吐きながら、空を見上げて嘆きながら、今回も同居人が赤ん坊の世話を焼くことになった。


 ──同居人の子育てスキルが、どんどんと上がっていく。



 隻腕の赤ん坊もあっという間に少年へと成長した。

 今回も伴侶となるべき幼女が見つからなかったので、森の外へと出ることとなった。


 いよいよこれから森を出ていくという時に、隻腕の少年は少し前から疑問に思っていたことを訊ねてみることにした。

「この石は何ですか?」

 その石の前に花が置かれてあるのを見たことがあったのだ。


 ──雑で気ままな少女にだって、たまには過去を思い出して花くらい供えたりする日はあった。


「墓だよ。アダムとリリスの」

 少年はそれが、自分の亡くなった両親の名前だと勘違いした。


「ではこれからは、私もアダムと名乗りたいと思います」


 ほー、同じ名前を別の人間につけてもいいのか。

 人知れず、人ではない少女はいらない知識を身に着けた。


 ──これから少女に拾われる男児の名前はアダム、女児の名前はリリスに決定された瞬間だった。



「んー、今日もいい天気だ」


 朝の気ままな散歩、もとい採集の途中で、

「ああ、また赤ん坊かあ」

 少女はまたしても赤ん坊を見つけた。


「ご迷惑だとは思いますが、この子を引き取ってはもらえないでしょうか? おかあさま」


 今回の赤ん坊は女に抱かれていた。

 人知れず、赤ん坊は胸に抱いて運ぶものだと少女は学んだ。


「おかあさま?」


 少女にその女を産んだ記憶は無かった。

 いやそれ以前に、子供を産んだ記憶が無かった。


「はい。わたくしはおかあさまに育てられたアダムの、妻ですので」


 なるほど、2代目の伴侶かと少女は思った。

 だが、女は引き取れないと考えた。


「さすがに大人の人間は、同居人がいやがる」

 わかっておりますといった風に、女はうなづいた。

「わたくしはあの人を待つために、家に戻ります。……あの人の腕は片方しかありません。そう長く戦場にはいなくてすむはずです」


 森の外では知らない間に戦争が始まっていた。

 しかも隻腕の男まで取られるような激しい戦争だ。

 いつまで持ちこたえられるか──女の顔には隠しきれない苦悩が浮かんでいた。


 だが少女はそれに気づけるような性格ではなかった。


 ただ少女にしては珍しく、

「ここには人の味を覚えた獣が多くいる。次からは不用意に1人で近づかないことだ」

 女に忠告をしてやったあと、森の縁まで送ってやった。



 女も2代目も、その後森に姿を見せることはなかった。

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