勇者入城
馬車にガタガタ揺られること20分後、ライアンは魔王城の前に立っていた。
「でっけー……」
とにかくデカイ。門だけでも20メートルくらいある。
この世の技術をかき集めて作られただけあって、豪華さが伺える。
「ここに魔王が……」
「そんなところに突っ立ってないで早く入れ!」
「え、でも…」
入れと言われても目の前の門が開く気配はない。一体どうやって入れと言うのだろう。
「ほら、こっちの勝手口だ」
「勝手口あんのかよ!つか門開けろよ!」
「これは開けるのに10人分の力が必要なんだ。」
手動なんだ……。
勝手口から中に入ると絢爛豪華な調度品の並ぶ廊下が目の前に伸びていた。
「正面玄関から右に曲がったところに今私達はいる。これからお前を魔王様のいる玉座の間へ連れて行く」
ライアンを連れて歩く使用人は内心ビクビクしながら移動していた。
というのは、前にライアンを迎える準備をしている時に『玄関は華やかにしないとなぁ』と魔王が呟いていたのを聞いたからだ。
魔王の企みなんて嫌な予感しか浮かばない。そう思った使用人は本当は自動で開く門からではなく勝手口からライアンを城に入れた。
玄関でドン引きされて帰られる。十分あり得ることだ。
魔王様には後で謝っておこう。使用人は心でため息をつきながら長い廊下を歩いた。
「ここだ」
数ある部屋の中でも一際豪華な部屋の扉を使用人の部下が開けた。
ライアンはここでようやく、自分が置かれている状況を理解した。
これから会うのは国の頂点に君臨する魔王。少しでも粗相があれば死刑になってもおかしくない。
暴れる心臓を抑えてライアンはゆっくりと玉座の間へ入っていった。
そこには、玉座に静かに座る魔王と、
『ようこそ魔王城へ!初めましてライアン君』
のプラカードが天井からぶら下がっていた。