従者訪問
「っかしいなー……」
ライアンはパソコンの前で首を傾げていた。
あの迷惑メールのアドレスを解析しあれこれやって相手の住所を割り出す作業を続けること約3日。
「どうやっても魔王城に行き着くんだが……」
まさかあれは本当に魔王からのメールだったのか?いやあんなふざけた文面を世界の頂点に立つ王が打つわけがない。
魔王からのメールを頑なに信じようとしないライアンは、もう一度メールを開いて何か情報がないか調べた。
「えーっと、アドレスと、端末情報はーー」
「ライアン!いつまで引きこもってんの?さっさと仕事探して独立しな!!」
部屋のドアの向こうから母親の声が聞こえてきて、ライアンは舌打ちした。
「まーた電気とかいうくだらないもの作ってんのかい!?それともゲーム?どっちなの!?」
「うっせぇよ!!こっちはメール解析すんのに忙しいんだよ!!」
怒鳴り返すと、母親はわざとらしく溜息をついた。
「ほんっっっとに情けない息子になっちまって……母さん仕事行ってくるから、皿洗いと掃除お願いね」
足音が遠のき、玄関のドアから出て行く音がした。
ライアンは解析作業を再開するも、集中できずその場に寝っ転がった。
「別に、仕事したくないわけじゃねぇよ」
科学が衰退した世界。その中でライアンが興味を持ったのは電気工学だった。
魔術の勉強をしながら、古本屋の奥底に眠っていた科学の本で電気について学んだ。
そして14で発電機を作ることに成功した。
が、魔術が主体の世界でそんなものはなんの価値もなくただの嘲笑の的となって終わった。
そんな科学好きの彼がこの世にやりたい仕事なんて存在するわけがなく、今こうして引きこもっているわけだが。
ゴロゴロしていると、家のドアを誰かがけたたましくノックしてきた。
「うぉうっ!?なんだよ誰だよ!」
飛び起きて近くに置いてあった分厚い雑誌を武器に持ち、玄関へ向かう。
「ライアン!ライアン=カミンは居るか!!我々は魔王城から遣わされた者だ!」
魔王城から遣わされた者という単語を聞いて、ライアンは固まった。
まさか、まさかまさかまさかまさかまさか。
「魔王城の住所にアクセスしすぎた……?」
メールのことなんてすっかり忘れて、ライアンは青ざめた。
やばい、これは裁判沙汰になるのでは?どうしよう殺される。
ワナワナと震えながらライアンは玄関のドアノブをつかんだ。
ここで開けないで籠城するよりはさっさと出て謝ったほうが罪は軽いだろう。ライアンはそう考え、一気にドアを開けた。
ーー
魔王の使用人はなかなか開かないドアの前で若干のイラつきを見せていた。
中に人がいる気配はするのにドアが開かない。これほどイラつくことが他にあるはずがない。
しばらく待ってもう一度ノックしようとした時だった。
突然ドアが開き、1人の男が姿を見せた、
「ああ、ライアンかーー」
「すみませんっっっっでしたぁぁぁあ!!!!」
と同時に土下座された。