魔王号泣
ライアンの元に手紙が来て3日が経った。
迷惑メールだと思っている彼が魔王城に来るはずがなく、魔王は玉座に体操座りで座ってシクシク泣いていた。
「あ、あの……魔王様?」
使用人が遠慮がちに声をかけるも、魔王は返事をしない。
「ライアンが…らいあ゛んがごない゛……」
まずい、魔王がつらたんになっておられる。
サンタが来ないと泣く子供のような魔王を、使用人はどうにかして元気づけようとしたが、
「り、隣国からお菓子が届いたのですが…」
「い゛らない」
「珍しい楽器が届きまして」
「聞ぎたぐない」
「今日はいいお天気ですよ」
「私の゛ごごろは大雨だ」
まるでなしのつぶてだった。
だめだこりゃ。
使用人が次の策を講ずる為、部屋を出て行こうとした。
「待で……」
鼻声で呼び止められ、使用人が振り向くと鼻水ダラダラ涙ボロボロの魔王の顔があった。
「何でしょうか?」
吹き出すのを必死にこらえ、神妙な声で返した。
「も、もじがじたら、てがみ゛が届いでないのがもじれない」
魔王はタブレットでライアンの住所を出し、使用人に見せた。
「だがら、ごの住所に行っで、みで、ぐでないが?」
ただの兵士などではなく魔王直属の従者が直々に民家まで行くなど、普通はあり得ないと一蹴するところだが、使用人はそれをしなかった。
正直なところ、使用人も何かおかしいと思っていた。
少々、いやかなり変わった人だがそれでも国の頂点に立つ人物。そんな人からの召喚状を断りの連絡も入れずに無視するだろうか。
「わかりました。馬車と馬を2頭借ります。魔王様はこの飴でも食べて待っていてください」
使用人は魔王にポケットに入っていた飴を渡し、部屋を退出した。