勇者検索
今から遠い未来の話。
科学が廃れ、魔術が中心となった世界。
強い魔力を持つ者が全てを支配するのがこの世界の掟。
その支配者は、『魔王』と呼ばれていた。
「魔王様、例の物を持ってきました」
「うむ、入れ」
絢爛豪華な部屋に数人の使用人が入っていく。
「この国も平和になりましたね」
「ああ、ここまでの道のりは長かったぞ」
長い間魔術戦争が続いていたこの世界も、魔王の統治によってようやく終息した。
広大な土地、深い歴史。
全て、この魔王が創り上げたものだ。
「魔王様、例の件ですが」
「ああ、まだだ」
魔王は今、一つの『問題』を抱えている。
「我の跡を誰に継がせるべきか…」
魔王には子供がいない。
というよりまず妻がいない。
彼が兵士として魔術戦争に参戦したのは若干16歳(この時彼女ナシ)
大佐の地位を得て、魔王になるための道を志したのが25歳(1年前に好きな女の子に告白するも玉砕)
やがて国の悪王を倒し国王の地位についたのは30歳(忙しすぎて彼女を作る暇なんてなかった)
そして、泰平の世を築き一般市民を軍役から解放してこの世界の頂点である魔王となったのは86歳。世界中から戦争をなくし全てを魔王の支配下になった現在では90歳とすっかり老人となってしまった。
魔王の魔術によって見た目は25歳の若者の姿であるが心は立派なおじいちゃん。女のことなんて考えずに縁側でお茶を啜っていたいのが今の望みだ。
使用人が持ってきた『例の物』というのは最近腰痛がひどくなった魔王のために取り寄せた、万能の塗り薬のことだ。
「早く後継者を見つけねばならぬが…うおっ腰が…っ!」
「魔王様!その姿勢は腰に良くないと医者に言われたでしょう!薬を塗りますから横になってください!」
「いつも苦労をかけるのぉ…」
おじいちゃん言葉を話す25歳に腰痛の薬を塗る30代前半に見える使用人の光景はなかなかシュールだった。
「うーむ…後継はどのような者に任せるべきか……」
「やはり、若くて健康な男ではないでしょうか?」
「そうだな。ちょっと検索してみるとしよう」
そう言って魔王は魔術で動くタブレットを取り出した。
『若くて健康な男』で住民検索をする。
「ふむ、やはりたくさんいるな。これに『暇そうな男』という条件を追加しよう」
「暇人にこの国を任せるおつもりですか!?」
「いやだって、忙しいから無理とか言われたら悲しいじゃんつらたんじゃん」
「つ、つらたん……?」
「辛いという意味だ。ナウなヤングがよく使う言葉らしい」
時々この魔王の言っている言葉がわからないのがこの使用人の最近の悩みである。
「それで、検索結果はどうでしたか?」
「ああ、それがな…一人出た」
タブレットに映し出されている人物を召使いに見えるように傾けた。
「えーと、ライアン=カミン19歳。職業、自宅警備員、毎日自宅に引きこもっている。ここ3年間病気していない。童貞……。」
使用人の声がだんだんと冷え切っていくのに魔王は気付いた。
「どうした?若くて健康で暇そうな男だろう?」
「ただの引きこもりニートでしょうが!!そりゃずっと家にいりゃ風邪なんて引かないでしょうよ!」
タブレットを床に叩きつけて使用人は怒鳴りつけた。
「反対ですね!絶対反対!あり得ません!!」
「しかし…もう城に来るように手紙を出してしまったよ……」
しょんぼりと呟いた魔王の言葉に、使用人は泡を吹いて失神した。
ああ、この国はこれからどうなるのでしょうか……。