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泣かないで、ヒーロー。

作者: 鳥籠 迦藍

書いてる内にファンタジーものになってしまった・・・。


泣かないで、ヒーロー。


あなたは、誰よりも強いから。


その剣で世界を救った英雄だから。


仲間を失っても前だけを向いていた。


そんなあなたが勇ましく見えた。


強くて優しくて誰よりも他人の痛みに敏感な人。




この世界は君にとっては残酷でしかなかったね。


魔王に支配された世界を救う為に集められたパーティ。


君は勇者で、私は君を強くする為の剣だった。


どんな敵も一振りで倒してきた。


君の強さに仲間はついてきた。


誰も後ろを振り向かない、芯の強いパーティ。


そんな仲間を、私も君も大好きだった。



色んな国を巡って、沢山の人達に出逢って、深みのある旅になった。



仲間も強くなっていった。



君が指揮を振り、仲間が奏でる。



それが、このパーティの戦い。


弱い者は一人もいない。


信頼以上の関係が出来上がっていた。


組織的に結成されたパーティだけど、まるで家族のようで温かかった。



だから、魔王も倒せると思ったんだ。






まさか、世界を支配する 邪悪な魔王が、君の親友だったなんて。



――君は、勇者だ。



魔王を倒す為に選ばれたんだ。


だから、戦おう。


魔王に苦しめられてきた人達に報いる為に。



君は、私を手に取らなかった。


初めての拒絶。


私の力で魔王は倒したくないと、君は泣いたんだ。



勇者が跪いちゃいけない。


勇者が涙を見せちゃいけない。


強いからこそ、背中を見せてはいけない。


仲間も、私も、君と戦うことを望んだ。



『魔王を倒す』



当初の目的を果たす為に今まで旅をしてきたんだ。



目を逸らしては戦えない。


だから、私をその手で握って。


たとえ、血塗れになったとしても、私は君を否定したりはしない。




君は、勇者だから。




目の前にいるのは、親友などではない。



悪に染まった魔王だ。



昔の過去と今の仲間と、天秤に掛けてしまう程、躊躇いを感じるの?



魔王は君のことなど気にも止めない。



――仲間が、君を信じてる。



私も、君を信じてる。


絶対、この剣を手に取って先陣切って戦う姿を、私は嘘と思いたくない。



勇者――・・・。



強くて、優しくて、君が微笑む度、皆が前を向けた。



ボロボロで錆び付いてて冷たくなっていた私を、君は見つけてくれた。


あの時から、私は君を主として、勇者として、ずっと信じてる。



――だから、もう一度・・・。



ぎゅっと強く握りしめてくれた事、忘れない。



君の、揺らがない想いを私は知ってる。



今はもう、過去(むかし)じゃない。



仲間が、君の背中を押してくれるよ。




「独りじゃない」



その想いが君を強くする。



勇者、私と共に戦おう。



この世界を、共に救おう――。






戦いは苦戦した。


魔王は、一人でも十分強かった。


羨ましい程に。


仲間も満身創痍。


どんな攻撃も技も魔王の前では戯れに過ぎない。



何度、傷を負ったって、

何度、地に倒れたって、

何度、諦めかけたって、



それでも君は、立ち向かった。



魔王の剣は固くて冷たくて重くて狂喜に満ちていて、私はもがいた。



勇者の為に強く在ろうとした。


君の為に、何人もの人々を殺めてきた。



私の罪は君が背負ってしまう。



魔王を倒した暁に勇者に与えられるのは、英雄の称号と数多の罪。



けれど、君は構わないと笑った。



「魔王を倒したら、盛大にパーティーしよう」



「そうだね」――と、私は頷いた。



2本の剣がぶつかり合って、最後の一振りで、相手の剣が空を舞った。



トドメを刺せば、魔王は死ぬ。


勇者に躊躇いなど、もうありはしなかった。



これでやっと終わると安堵した瞬間、その剣が切り裂いたのは――








嘆く勇者。



そんな彼を見て高笑いする魔王。



魔王の代わりに最後の一撃を受けたのは、今まで共に旅をしてきた仲間。



強くて優しい勇者の剣は、いとも簡単に仲間の命を奪ってしまった。



勇者は、私を放り投げ、仲間を抱いて目を閉じた。



他の仲間は泣いていた。



哀しげな声だけが響いていた。



勇者は、ただ動かなくなった仲間をずっと側で感じていた。



優しいから、泣くのだと思っていた。



けれど、勇者は前を向いて、立ち上がった。



再び私を手に取り、表情一つ変えずに、魔王を討ち取った。



本来なら、歓喜の声が聴こえるはず。



でも今は、涙の滴る音に耳が傾く。



勇者は、もう仲間の死を振り返りはしなかった――。











勇者――。



私は、貴方の名前を知らない。


あんなに一緒にいたのに、不思議だね。


あれから君は、更に強くなっていった。


どんな敵も、躊躇わず、殺した。



私は、何も言わなかった。


君を拒絶しなかった。



あなたが、大好きだったから・・・。



世界を救った英雄として、君は守る為なら、手段は選ばなくなった。



色んな強さを得た代わりに、剣の色は腐っていった。



君と初めて逢った時みたいだ。



もう、相手を切る感覚がなくなってきている。



もうすぐお別れだね――・・・。












雪が降ってきたね。


ねぇ、勇者――?


私は、君の役に立てたかな?


君の強さを支えられたかな?


勇者は、どんな旅だった?



楽しかった?辛かった?



沢山の人達に逢ったね。


仲間との想い出もいっぱい作れたね。



魔王も倒したし、世界も平和になったし、そろそろ引退かな?



雪も降ってきたし、世界はまた白紙に戻るんだね。



雪が溶けたら、この世界はどんな色になっているかな?



君の瞳にはどんな世界が映るのかな?



私も見られるのかな?



ねぇ、勇者・・・。



もう一度、私を握って。


君の温かい手で、ぎゅって。


そして、大きく剣を振って、また微笑んで。



君の笑顔が好きだから。



君の側は何よりも幸せだから。



だから、ねぇ・・・勇者――



最後に、私を抱いて・・・。



君の温かい胸に押し当てて。











勇者――・・・。



私は、君に出逢えて、嬉しかった。


色んな事、教えてくれた。



君が救った世界を見る事が出来た。



今でも、君の温かい手を忘れない。



たとえもう、戦えなかったとしても。



君にもう2度と振るって貰えなくても。



大好きだったよ――。



まるで、本物のヒーローみたいだった。



君の涙を拭う事は出来ない。



そんなに泣かないで・・・。



力を亡くした私なんかの為に泣いたらいけないよ。



君は、勇者だ。



私にとっての、たった一人の家族。


ずっと憧れ続けた、誰よりも格好いい一人だけのヒーロー。




だから、泣かないで・・・。



君は、誰よりも強いから。


優しくて温かくて、1本の剣の為に泣ける人。



もし、生まれ変われたら、そしたら今度は、君の隣で共に戦えるパートナーでありたい。




今度は私があなたを見つける番。











来世の風が吹いて、桜の花弁が舞う並木道。



その手に掴んだ桜を、微笑みながら差し出す少年。



桜の花言葉みたいだね。



彼から受けとるしとやかな少女。



「久し振りだね」



やっと、見つけた。



今度はもう離れない。



ずっと、君と一緒にこの世界を生きていく。




今度は、この手と君の手を握って――。



書いてて、このストーリーを書きたくなってしまった・・・。

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