第3話 続南の地なんだぜ
段々と何ができるのかの説明会その2でございます(戦闘はありません)
俺は山の方へ入ると寝床には丁度よさげな場所を見つけた。
洞窟というよりは横穴。
これからしなければならないことは山ほどある。
まず第一に自身の安全の確保だ。さきほどは狼と戦闘したが、ギリギリて勝てた。そんなものが群れで来たら終了。それ以上に強いやつが来ても終了だ。
そのためには、俺の体のスペックがどれほどで何が出来て、何が出来ないのかを把握しなくてはならない。
これを把握していないと死に繋がるだろう。
次に、この大陸の外延部への探索だ。
ここは南の地と幼女神は言っていた。おそらく北に進み続ければ、大陸へと続く海へと出られるワケだ。
問題は海を渡る手段だ。一番現実的なのは船を作ること。次の案としては、今はできないと思う空間を操作する魔法で大陸へとぶ。もしくは、空を飛ぶような魔法で空路を使うことだ。
よし、今後の方針としては外延部を目指しつつ、空間操作と移動に関する魔法を中心に練習をする。といったところか。
まぁ、方針は決まったのでさっさと寝るとしよう。自分の体、あるいはこの異常な場所であるから、疲労は少ないし眠気もこない。だが、精神は磨耗するから休息は必要だな。
寝ると言ってもいつ魔物に襲われるかわからないので、目を閉じる程度にする。
幸い魔物は襲って来なく、翌朝を平和に迎えられた。
「さて・・・どうしたものか」
昨日魔物に襲われたときのことを思い出す。あの魔物がここでは強いのか弱いのか分からないが、俺から見たら関係ない。
どちらにしろ命の危機だ。
一番いいのはあの魔物がここ一帯で一番目に強い個体であることだ。それならば俺は横穴の外に出て早々と殺される確率は低くなるだろう。
我ながら希望的観測すぎるな。むしろ、アレが一番弱いと考えたほうがしっくりくる。
無策で未知の魔物がウヨウヨしているとこに行くわけにはいかないので、逃走と罠の算段を付けないと安心して出歩けないだろう。
一つ思いつく。今の俺は魔力に敏感に反応する体だ。その知覚領域を意図的に広げれば、魔物の感知を出来るのではないか?
人には『パーソナルスペース』というものがある。例えば、電車や飲食店などで席を一つ空けて座るだろう。他人が入ってくると不快だと感じる領域の事だ。
本来ならば俺のパーソナルスペースは人ごみの中なら大体人2人分。人が少なければ、50m程度前に人がいれば気になる程度と少し広いくらいだ。
それを水面に浮かぶ波紋のように自分を中心に徐々に広げる。
木が分かる 空が見える 大地に触れる
知覚領域を広げ限界点に達する。その範囲はおよそ500メートル。それから先はなんとなくでしか分からない。
今俺が感知できる範囲に異物はない。もしくは、俺が感知できないような擬態をしているかだ。
しばらくは安全であるとわかったので、今思いついたことを試してみる。
俺の感知ができる範囲は、地形および魔力などが事細かに認識できる。ならばその領域内なら俺の魔力は座標指定のような即席の罠などをそこにいなくても使えるのではないか?早速行使してみる。
目標は200メートル先の地面。周りには草木しかない。イメージは多角方向からの杭。
空間認識――発現先座標指定――魔力術式構成――術式展開――発現
幾つかの手順を踏まえようやく一つの魔法が発動する。
拙い術式を補強する強力なイメージにより、結果は現れる。指定した座標には空から。地面から。空間を全て覆うように64本の黒色の杭が交差し、中心部分から見ると歪な球のように見える。
なるほどウニだ。
とりあえず目論見は成功したようだ。
あとは、魔法の自由度といったものか。これは後々試すとして、先ほど適当に思いついた座標指定の魔法は拙い術式であるがなんとか発動自体は出来た。
そのほかにも幾つか試すことがある。
『身体強化』のことだ。
ふぁんたじーでは定番である身体強化。文字通り体を強化する術のようなものだ。
恐らく小説の中でないこの世界にしろ、身体強化の類はあるはずだ。
でないと、昨日襲われた魔物が人間では出せない速度で動くのに対して魔法だけで迎え撃つしか手段が無いと思うのは無理がある。一応あの魔物はSのランクにあった。つまり、強い人間ならば十分に打倒できる範囲内にあるランクだと言える。
それに予想ではあるが、魔力に適正が高いこの体なら魔力を纏うなり、体に通すなりするであろう強化ならば十分に効果は発揮できそうだと考える。
効果は、身体強化を施す前と後ではどれだけスペック差があるのだろうかと疑問だ。そもそも素の状態+身体強化ができるのか自体を把握していないのでなんとも言えないのが本音だが。
とりあえず、素の状態の体の強さを確認するために、俺は横穴を出てすこし歩いたところにある木をなんの強化も使わずに思いっきり殴りつけた。
木は折れずに罅が入る。3回ほど繰り返したところでようやく木が倒れた。
木を殴った手が痛む。そもそもこの地にある木は普通の木にしかみえなくとも木の耐久力なのかあやしいが、腕力だけで折れたことに寒い笑いがこみ上げてくる。
人間をいよいよ辞めようとしていることに、なんともいえない悲しさを感じた。
気をとりなおし次は身体強化にとりかかる。
身体強化といっても術式を組むことを必要としなく純粋に体に魔力を通すだけだ。
体に満遍なく魔力が染み渡ったことを確認し、同じような木を殴る。
踏み込みは先より当然のように速く、強くなる。結果。半径2メートルほどの円形に地面が割れる。そして繰り出された拳は木の中心を捕らえ、派手な破砕音をたてた。インパクトした部分は木っ端微塵となったようだ。
本来有ったはずの部分をなくした木は、そこから上部が慣性にしたがい、ダルマ落としのように落下した。
この身体強化は体内の魔力を体に循環させているだけなので、魔力の消費自体はしていない。それと、魔力感知もとい、空間把握もいわば第六感のようなものなので、こちらにも消費はない。
どうやら身体強化は予想通りにかなり強力なことがわかったので、魔力の感知と共に無意識かつ永続に発動できるように訓練をしなければならないようだ。
ぼちぼち引き上げるかと思ったが、自分の魔力感知内に異物が紛れ込んだことが感知できた。
「おおー。なんて言うのかね。うん。アレだ。タイミングが良い」
魔物の気配に少し動揺はした。本当は何事もなく横穴に戻りたかったが、無理やりポジティブに考えることで、現実逃避をこころみる。
「幸先がいいのか悪いのか。まぁ、体のいい実験台になってくれそうなら是非そうさせてもらうし、死ぬほど危ないならすぐさま逃げるとするか」
空気を読んでくれたような進入者を歓迎するために、俺は準備をすることにした。
毎回終わり方が強引すぎて泣けます。そして登場人物がいないため主人公が碌に喋りません。早く対話させてあげたいです。
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