第1話 ぷろろーぐなんだぜ
見切り発進でございます。
目の前には黒い空間が広がっていた
黒い空間では床が見えないのに何故か足場がしっかりとしている。
「お主は面白そうなのでワシが拾ったのじゃ」
何も無いはずの空間からいきなり出てきた幼女から放たれた言葉は、意味が分からなかった。あまりにも唐突過ぎる。
確か俺はバイトから帰ろうとしていたはずだ。
俺が口を開く前に幼女は先に答えた。
「質問があるのじゃろう?言ってみよ。ワシが答えよう」
いつの時代のジジイだよと、思うが質問する方が先だ。残念ながら見た目は幼女。まるで日本人形のような黒髪と漆黒のドレスを纏っている。
「俺はどうしてここに居る?ここはどこだ?」
「先も言った通り、拾ってやったのじゃ。何故?それは、お主が面白いからに決まっておろう」
俺は自分が死んだのかどうかもわからない。ひょっとして拉致されたのか?そしてどうやら目の前の幼女は神様か何からしい。
「で、神様とやらは俺をどうするんだ?」
「くくく、やはりお主は面白いのう。ワシが神と分かっていて畏れもしない。まぁ、そちらの世界で言えばワシは『邪神』『タタリ』『廃神』といった部類かの。そちらの世界で言えば『ふぁんたじー』といったものかの。剣と魔法の世界じゃ。どうじゃすごいだろう?」
なるほど、ファンタジーね。たった一言ですごい説得力だ。うん。ふぁんたじー凄い。
そして、黒髪幼女はどうやら邪神様のようだ。おお恐い恐い。
「そこでお主にはちょっとワシの手伝いをしてもらいたい。ワシ以外にこの世界を管理している神は4柱いるが、大陸の生物が入れないような北の地に少しマズイことが起きた。そんな中で阿呆と馬鹿の人族と魔族の神がいつも通り小競り合いを起こそうとしている。竜族の神は諦観。亜人の神は2柱に干渉できるような力は無い。本格的に戦争が起きるのは10年といったとこじゃな。お主をまず南の地に送り、その間に力を付けてもらうことにする」
「はぁあああああ!?」
なんだそりゃふざけんな。オマケに凄く面倒だ。
「お主にはすまないと思うが、ワシには時間が無い。だが、とりあえずは10年後にお主には大陸にいるだけでもかまわない」
「どういうことだ?」
「なぁに、簡単な話じゃ。ワシの手先が居るだけで抑止力となるからの。そこで時間が稼げればなんとかなるかもしれないのじゃ」
俺は邪神様の手先となるらしい。俺は働かなくてもいいんじゃないか?
「俺が動かなくても邪神様とやらが最初から馬鹿と阿呆をどうにかすればいいんじゃないのか?それとも、できない理由があるのか?」
「その通り。頭は動くようで何よりじゃ。過去の盟約によりワシらは世界そのものに干渉はできんのじゃ神自体には干渉できるが、下手にすればマズイからの。という訳でお主にはワシの眷属として動いてもらう」
面倒だがどうやら俺に選択肢は無いらしいな。だが大陸では自由にしてて問題ないみたいなのが救いか。
「それでお主には軽くこの世界の仕組みを教えよう。この世界には『等級』『スキル』『称号』と呼ばれるモノがある。どうじゃ、ゲームの様で面白いじゃろう?」
「まんまゲームじゃねえか」
「残念ながら現実じゃよ。簡単に説明すると『等級』はそれぞれの能力を表している。一応人間の尺度では12等級まであり、一部例外なところもあるのが、基本人間の極地が8だと思って構わんよ。一般人の平均値は1じゃな。続いて『スキル』は、鍛錬で獲得する技術や神から付与される『ギフト』といったものじゃ。『スキル』には10段階あり錬度や技術の理解で上がる。『称号』はそのままじゃな。しかし、称号を持ってることによって筋力や魔力などが増える場合もあるのじゃ。忘れていたが『等級』の他に総合的な強さや危険度を表すランクがF-~SSS+となっておる」
説明は以上じゃと言わんばかりのドヤ顔をされた。
「で、試しにお主の今の等級を見るとしよう」
名前 断花 朱利 種族 人間 Age20 Male
Rank E-
等級
筋力 2
精神力 4
敏捷 2
魔力 0
スキル
『生存本能3』『体術2』
ギフト
なし
称号
『邪神と邂逅せし者』
「まぁ、そんなもんじゃろ。腕っ節が強いぐらいだとそうなるのかの魔力に関しては、回路が通ってないからなのかのぅ?」
「知るか。俺が聞きたい」
記憶にあるのは田舎で暮らしていて。中高でチンピラやらヤンキーやらに絡まれては勝ったり負けたりをしていたのを覚えている。
「まぁさておき、今のお主、いや、朱里では今から送る所では生き残れないじゃろうな。今から朱利の魔力を発現させると共に眷属としての力をやろう」
黒髪幼女{邪神}がそういうと、俺の身体に黒い霧が降りかかる。
一瞬警戒するが、力が注ぎこまれるのが感覚で分かった。邪神様はアフターケアまでしてくれるらしく案外優しいのかもしれない。だがその後くるのは猛烈な痛み。前言撤回。
「野郎……痛みは聞いてねぇぞ!」
「残念ながら野郎ではないのじゃ。200億年も穴しかない。お主の世界で言う自転車とやらに乗るのは便利そうであるが、如何せんハッタリが効かないのじゃ」
鬼畜な上に下ネタを言われげんなりとする。
「ふざけ――いででででででででで!」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
意識が戻るとお馴染みの黒い空間にいた。そして目の前にお馴染みの黒髪幼女がいた。
「おはよう。朱里よ、目覚めはどうじゃ?」
「最悪だな。今までのが夢じゃなかったのが最悪だ」
「ふむ。問題ないと見えるな。力は定着したようじゃ。ちと姿は無理やりやったからか、変わってしまったようじゃが、たいした問題は無いのじゃ」
自身の体を見たいが見れない。流石に角が生えていたり、腕が増えているワケじゃないことは理解できた。
分かることは髪の毛がかなり伸びたこと。
シャンプーに手間取りそうだ。いや過ぎる。あと邪魔。
今ここに鏡があるなら他にどこが変わったのか見てみたい。
「この世界の説明と力の使い方を少しばかり説明するかの―――」
こちらの不安はよそに邪神様は説明を始める。
鬼か。悪魔か。
邪神でした。
◆◆◆◆
「とりあえず運がよければ死なない程度の力は与えたのじゃ。ではワシの眷属よ、がんばれ」
その言葉を最後に俺の足元の空間に穴が開く。
ボッシュートと言わんばかりに、穴に落ちると同時に意識が途切れた。
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※12/1改変