P.098 2つの誤解(1)
カラを出て2日目の朝。軍艦はエクシラのあるキリキシア大陸の港へと着いた。一般の船に混ざり、重々しい軍艦が入港しても港の人々は平然としている。さすがは帝国部隊駐留の大陸。
カーレンを先頭に、順に港に降り立つアヤメ達。最後を歩くシャクルは、軍艦からの渡し橋の袂に立つリグルに向いた。
「助かったよリグル。いろんな意味でな」
「いや、いいよ。僕の方こそ助かった面も多い。礼を言うのはこちらの方だよ」
「私からもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げるアヤメ。するとリグルは笑顔で首を横に振る。
「いえ、帝国兵として当たり前の事をしたまでです。ぼ――…自分にお礼は必要ありません。それにアヤメさん?」
「あ、はい」
「これ以上の混乱を避ける為、アルシェン姫本人を確認出来るまで、貴女には『姫』として振る舞って頂きたい」
「え、でもそれって嘘つく事に…」
「大丈夫ですよ。貴女が姫の名を語り、悪事を働くような人には思えません…もちろん全員です」
そう言ってシャクルを見るリグル。そしてミネアに向き、
「アルシェン姫については、個人としても追ってみます。もっとも、アースランドに在る場合…成す術は現状ありませんが」
「はい、ありがとうございます。アルシェン様とアヤメの命は繋がり合う存在…これが嘘であろうとも、アヤメはこの身に代えても守るに等しい存在です」
「…そのようですね」
アヤメに視線を向け、再び口元に笑みを作るリグル。
「ランティ城がザーバスの占拠を受け、国王不在の今…アルシェン姫が偽者となれば、更なる混乱が起きます。そして貴女方も動きにくくなる…ならば本人と接触出来るまで、姫としての振る舞いをお願いします。その方が我々も協力しやすいですから」
「え、でもでも、本人みつかったら詐欺罪で私の事逮捕しませんか?」
「そんな事はしませんから、ご心配なく。逮捕と言えば…シャクル?」
「ん?俺か?」
「あぁ。手配書の件だが、こちらで上手く処理しておこう」
「大丈夫なのか?」
「これに関してはカーレン隊長に話しは通してあるから大丈夫だ」
「そっか悪いな、リグル」
「いいさ」
そう言うと、リグルはゆっくりと手をシャクルに差し出した。シャクルはリグルの顔と差し出された手を交互に見、小さく頷きその手を握った。
「僕は僕のやり方で奴らを追う」
「俺は初めっからの道を進むまでだ」
「死ぬなよ」
「お互いな」
互いに確認し合うように頷き合い、握る手を離す。すると一行の元に、1台の馬車が近づいてきた。2頭の馬が、トラックの荷台のような白の布で覆われた縦長の車を引いた形の馬車だ。運転手の位置にはカーレンがおり、車の後ろの布がめくれ、中からユーネが顔を覗かせる。
「皆さーん、馬車の準備出来ましたよー」
まるで児童に呼びかける先生のような口調で馬車から降り、「どうぞ!」っというように車内を差すユーネ。
「アルシェン姫とララグド宮殿王には申し訳ありませんが、今こちらで準備出来るのは、この軍事用馬車しかなく…」
「これで軍事用かよ?オレからすりゃ十分豪華だがな」
「わざわざすみません、ユーネ様。お気遣い頂きまして」
「あ、いえいえ、そんなそんな」
お互いにペコっと頭を下げる姿は――…
「何か行商のおばちゃんみてぇだな、あの2人」
「ちょっ、シャクル…!」
言っちゃった…
「なっ、何ですってぇーっ!?」
「シャクル!失礼ですよ!わたしはまだ――…」
「私もまだ――…」
(ミ)「23歳です!」 (ユ)「25歳だぁ!」
「「えっ…!?」」
シャクルに向かい互いに叫び、互いに向き合うミネアとユーネ。
「と…歳上だったんですか…?」
「歳下…だったの…?」
お互いに「あれ?あれ?」っと見合う中、キリがその2人を見て笑う。
「確かにミネアはどっかババくせぇし、兵隊のお嬢ちゃんはガキくせぇもんな。お互い10歳上とか下でも納得出来――…」
ドガァァッ!!
…その後、キリの姿を見た者はいない――…っと言うのは冗談で、ミネアの蹴りとユーネの拳に吹き飛ばされたキリが大地に伏す。
宮殿王でも容赦なしの一撃に、これ以上この案件には触れぬよう、倒れるキリすらスルーで馬車に乗り込むアヤメ達。
「さ、行きましょうカーレン隊長」
「…バイスン小隊長。国家問題になっても知らんぞ…」
「黙らせるなら今って事ですね♪」
「姉さん」
馬車の元まで来ていたリグルが異議を申し立てる視線をユーネに送る。
「冗談だってばぁ…そんな睨まないでよぉ…」
「その冗談が現実になりそうだったがな…」
そのリグルの横から姿を見せ、馬車に乗り込むキリ。首を左右に鳴らしながら、両サイド対面式に並ぶ木の椅子に座る。するとそのキリを横目にため息をつくユーネ。
「宮殿王が失礼な事言うからですよーだ」
「色気ねぇんだから仕方ねぇだろ、その乳無しじゃ」
「ぶっ…!」
「コラァーっ!てか今笑ったろ!?この白髪頭の賞金首ぃーっ!」
「おうアヤメ。貧乳仲間が『キーキー』騒いでんぞ」
「私はまだ成長期だっちゅうの!」
「アルシェン姫!、今コイツを訴えて下さい!侮辱罪で逮捕しますから!」
「訴えーる!!」
「よっしゃ逮捕だコラ――…」
ゴンッ!! ゴンッ!!
突如馬車内に響いた鈍い2発の音。そして頭を抱え蹲るアヤメとユーネの後ろで、握り拳を見せ立つのはカーレンだった。
「うるさい。さっきから話が進まぬ上、出発が出来ん」
「わ…私巻き込まれただけなのにぃ~…」
「隊長…私が被害者なのに――…」
ゴンッ!!
「うるさい。行くぞ」
「ご…ごめんなさいぃ…」
そんなこんなで馬車はエクシラ目指し、ゆっくりと走り出した。その馬車を見送るリグルは手を振り、苦笑いを浮かべて呟いた。
「カーレン隊長…貴方が国家問題…」




