P.096 距離(2)
何だかんだでリグルも合流し、千年前の出来事から全てを話した。
「――…っつう事で、俺とアヤメはここにいるって訳だ。まぁ信じられねぇだろうが、これが真実ってやつだ」
話しが終わり、静まる室内。
「俺らはあんたらにとっては別世界の人間だ。『そんな奴とはごめんだ』ってんなら、降りてもらってもいいんだぜ」
「おいおい、ここまで聞いておいて協力しないなんて言うような人でなしじゃないぜ、おれは!だってイケメンたから」
気味が悪い程の笑みを向けてくるアラーケに、リーシェが顔を近づけ……
「視力悪いの?」
「良好だよ!」
「…ま、まぁイケメン以外はアラーケに同感だ。オレはお前らが何であろうとも気持ちは変わらねぇよ。オレはザーバスさえ潰せればいい」
「ワタシは何でもいいわ、楽しければ」
「リーシェちゃん不謹慎だよ、不謹慎」
軽く息を吐き、シャクルはリグルを見た。リグルは目を閉じ、静かに腕を組んだまま壁際に立っている。
「サカンドラでは悪かったな、全部話してなくて」
「…いや、大丈夫だ」
「帝国副隊長さんとしてはどう出る?リグル」
「………」
しばらく黙り込み、深いため息と共に組んだ腕を解くリグル。
「嘘であろうが真実だろうが、僕は全てを鵜呑みにするつもりは無い。この目で見た案件以外には、我々は全面協力をするつもりも無い」
そう言うとリグルは出口の扉に向かい歩いていく。するとキリは苛立ったように立ち上がり、
「おいリグル、お前――…」
「よせキリ。いいんだ」
詰め寄ろうとするキリを制止するシャクル。当のリグルは出口の扉に手をかけて、
「帝国の全面協力は出来ないが、僕個人への救援なら出来る限り応えよう」
っと言って振り返るが……室内の全員がポカーンっとした表情。
「あ、あれ…?」
「あんなカッコつける必要あんのか?」
「ねぇねぇシャクル、あの人ナルシストなの?」
「ダメですよアヤメ。ああいう人には大人な対応をしてあげないと」
「おれが言うのもなんだが、イタいってアレだろ?」
「おいリグルー、普通に言え普通に」
「イジメちゃ可哀想よ、おじ様」
これにはリグルも真っ赤に引きつった表情で慌てて扉を開く。
「で、では到着したらまた声をかける!シャクル!話してくれて感謝する!」
バタンッ!っと勢いよく閉まる扉と共にリグルは部屋を出て行った。その姿にケラケラと笑うキリ。
「最初っから『協力する』って普通に言えばいいのにな」
「ま、1人でも味方してくれんならありがたいってもんだ」
「にしてもだ…2つの世界。冥王はお前さんの子供とは……何からどう言えばいいか…」
「別にフォローしてもらいたい訳じゃねぇからいいよ。それよか…リーシェ?」
「ん?なぁに?」
「…近い」
言葉の通り、リーシェは椅子に座るシャクルの真横に屈んで、頬に鼻がくっつきそうな程の距離でシャクルの顔をジっと見つめている。
その光景にハラハラした様子のアヤメも、リーシェとは反対側からシャクルを挟み、2人の距離間を見つめていた。
するとリーシェは小さくため息をつき身を起こした。
「…わからないわ」
「は?」
「1度解離した肉体だから、再構築って意味で、って思ったけど…違うみたい。不思議な体ね、あなた」
「…あ、そ…」
そしてその場でグ~っと伸びをするリーシェ。
「ちょっと外の風に当たってくるわ。お話しばかりで疲れちゃったし」
「あ、なら私も行くー」
「あら。お姫様の"王子様"に近づいたから、何かされちゃうのかしら?ワタシ」
「んなっ…!違うってば!…ミネアも行かない?」
「すみません、わたしはまだ体調が優れないので、部屋に戻って休みます」
「あ~そっか…ごめんね。じゃあ行こっかリーシェ」
追って立ち上がるのはキリ。
「兄貴、ちょっといいか?」
「ん?どうかしたのか?」
「いや…ちょっと話しがしたいんだが…今いいか?」
「あ、あぁ、構わないが…ここじゃない方がいいか?」
「…そうだな。外に出よう」
「わかった。じゃあ皆すまない、ちょっと外すよ」
そう言ってシャクルとミネア、アラーケを残し、全員が外に出て行った。
「――…で、話しとは何だ?キリ」
周囲に兵のいない、静かな甲板の後方に立つキリとカムラ。キリはすぐには答えず、縁に向かい寄りかかる。そして空に向き、間もなく1番高い所に昇ろうとしている太陽を眩しそうに見上げた。
「覚えてるか?兄貴…あの太陽を初めて見た時、兄貴が言った事」
「おいおい、何を言い出すかと思えばそれか?…『将来はあそこに住もう』だろ。全く…5歳の子供が言ったバカげた夢だ」
「…コイツと一緒に、3人でな…」
そう呟き、キリが懐から取り出した蝶の形をしたシルバーのブローチ。中心部に輝く緑の鉱石はヒビ割れており、シルバーの形状も若干の崩れもある。そしてよく見ると赤い血が数滴付着していた。
そのブローチを見たカムラは一瞬ハっとし、ゆっくりと視線を落とす。
「…ハマナと、か…」
するとキリはカムラに歩み寄り、そのブローチを差し出した。
「ハマナの形見だ。兄貴が持っててくれ…」
「何を言っているんだお前は…嫁の形見を、旦那のお前が持たないでどうする」
「…オレに持たれてても、あいつは喜ばねぇ…兄貴に持たれてた方が、あいつだって嬉しいだろうよ」
しかしカムラは無言で首を横に振り、差し出したキリの手をブローチを握らせるようにし、ゆっくりと押し返す。
「わたしが持つ物ではない」
「ハマナは本当は――…」
「それ以上は言うな、キリ」
「…やっぱ気づいてたんだろ…?ハマナの想いに…」
「よせキリ。昔の話しだ」
「…そうかよ…」
キリは手にしたブローチをカムラに向かい放った。カムラは驚きつつも咄嗟に両手でキャッチする。
「お、おい何を――…」
「モルハス王家は20歳を迎えたその日に結婚する。その1年前に、王家本人自らが、相手に婚儀申込みの織物を渡しに行く仕来たり…それくらいは知ってんだろ?兄貴…」
一拍おき、無言で頷くカムラ。
「じゃあ何でその日に出て行った!何でその日に…ハマナの話し聞いてやんなかったんだよ!!」
……………………………………
………………………………
『カムラー!キリー!』
『お、ハマナ。兄貴、ハマナだぞ』
『ん?あ、あぁ…』
『何だよハマナ、今日は"アノ日"なんじゃねぇのか?』
『う…うん。だからね…だから、その…カ、カムラに――…』
『ハマナ、キリ。オレは今日、タスマニカン帝国の研究所に行く事になった』
『は?』
『えっ…?』
『今まで黙っていてすまない。先日論文を送ったら、いい声をかけてくれてな…精霊研究はオレの夢なんだ。その夢を叶えに行ってくる』
『な、何言ってんだよ兄貴。ハマナは兄貴に――…』
『さて、船の時間もある事だ。そろそろ発とうとするか』
『兄貴!』
『元気でやれよキリ。たまには帰るよ』
『カム…ラ…』
『誕生日おめでとう、ハマ――…王妃』
『っ…!』
『兄貴!おい待てって兄貴!!』
……………………………………
……………………………
「兄貴は知ってたんだろ…ハマナが…ハマナが兄貴に織物を――…」
「待てキリ!それは違う!」
「何が違うだ!ハマナの気持ち考えた事あんのか!?その後、泣きながら織物を渡されたオレの惨めな気持ち…兄貴にわかんのかよ!!」
「キリ、お前は勘違いをしている」
「今更言いくるめる気かよ…」
「そうじゃない、話しを聞くんだ」
「ハマナの話しは聞かねぇで、自分の話しは聞けってか?…あの日から、兄貴は変わっちまったな…」
するとキリはカムラに背を向け歩き出す。
「おいキリ!ブローチ!」
「…オレが持ってても惨めなだけだ…」
「キリ…」
振り返る事なく去って行くキリの背に、深いため息をはくカムラ。握るブローチに視線を落とし…
「確かに話しを聞かなかったかもしれない…だがそれはキリ。お前もそうだったんじゃないのか…」
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