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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.09 遊戯の町
95/122

P.095 距離(1)

 キリとリーシェの合流を待ち、一行はカムラと共に軍艦へと再び乗り込む。エクシラまでは2日程の航路となっていた。



「――…なるほどな…そうだったのか…」



再び部屋に戻った一行は、カムラに今までの経緯を話した。



「ナック君がいないとは思っていたが…まさかそんな事になっていたとは…」

「おれもビックリだよ…」



カムラ同様に、事情を知らぬアラーケも表情を曇らせる。事の発端から知らぬリーシェは、途中で飽きてしまったようで、部屋の周りや天井をキョロキョロと見渡していた。


一通りの話しが終わり、室内が無言の間になった時、シャクルが深いため息をつく。



「なぁカムラ。現状わかる範囲でいいんだが、アヤメの力を戻す手はないか?」

「それに関しては前例が無いからなぁ……過去に素養の無いヒューマ族に、マザーを組み込む研究もされていたらしいが、成功事例は無い」

「その実験は世界的に禁じられてもいますよね?」

「『失敗=死』の実験だからな…実行した者ももちろん刑に処される」

「そんな危険な実験なら…」



シャクルはチラっとアヤメを見た。するとアヤメは猛烈な勢いで首を横に振る。「だよな」っとシャクルが頷き返す。



「なら、【ロスブリア】に行くのはどうかしら?」



突然口を開くリーシェ。聞き慣れぬ地名に、アヤメとシャクルは目をパチクリ…そしてキョトーン。



「ロ…ロスブ…??」

「ロスブリアですよ、アヤメ」

「ロス…ブリア?それってどこなの?」

「【"大樹(たいじゅ)(みやこ)"ロスブリア】。これはマザーランドの中心にあるカナフィーリン族の里です。そして世界のマザーの源【世界樹(せかいじゅ)マザー】のある地です」

「世界樹…マザー……どこかで聞いたような…」

「…エルセナの魂が眠っていたトコだ。そして命の精霊レリスのいる場所だ」



そうシャクルが言うと、アヤメはシャクルを「ほへ~」っと見上げた。



「…何だよ?」

「人の名前とか地名とか覚えないくせに、エルセナ関係は覚えいいんだ…よっ、むっつり君」



無言で頭を叩かれるアヤメを他所に話しは進む。



「しかしよぉお嬢さん。ロスブリアは簡単に入れるような土地じゃねぇだろ」

「え?ロスブリアって危険な場所なんですか?」

「『ですか?』って姫さん、あんたは何も勉強してこなかったのか?ロスブリアの――…」



アヤメを見るキリの視線を遮るようにミネアが身を乗りだした。



「そ、その件に関しては後程わたしからお話し致します。ロスブリアは危険と言うよりは、『カナフィーリン族以外の種族が足を踏み入れられぬ地』っと言われているんですよ、アヤメ」

「引きこもりって事?」

「は、はい??」

「もういい、お前は黙ってろ。ミネア、そっちで進めてくれ。俺らはそれに従う」



そう言いながらアヤメの口を押さえるシャクル。ミネアは「そ、そうですか…」っと、ジタバタするアヤメに苦笑を向けていると、リーシェの声が耳に届く。



「正確に言うなら、一定量のマザーを持たない者が足を踏み入れられないのよ」

「一定量?どーゆー意味よ?リーシェちゃん。おれその辺よく知らないからさぁ」

「さぁ。ワタシもよく知らないわ」

「うぉいっ」



この返しにはアラーケをはじめとした全員がコケる。その中でミネアが咳払いを1つ。



「で、ではわたしの方から簡単に説明しますね…ロスブリアは、世界中にマザーを送る世界樹マザーがあります。その為か、大陸全土に渡り濃いマザーが充満しているんです」

「濃いマザー?マザーが濃いとダメなのか?」

「マザー適性がある者でも無い者でも、触れられるマザー濃度がそれぞれあるという事です。適応量を越えたマザー濃度は、体にとっては毒でしかないんです」

「毒?死んじゃうの…?」

「すぐにという訳ではありませんが、最終的にはそうなります。症状もそれぞれですが、主には徐々に体の自由が奪われていき、呼吸が出来なくなっていくとか…」



そこまで言うと、ミネアはアヤメとシャクルを見て「ここまで大丈夫でしょうか?」っと視線を送る。当の2人は何となくは理解しているようで、難しい表情で小刻みに頷いている。するとミネアの説明に加わるようにカムラも口を開く。



「カナフィーリン族は、マザーが枯渇さえしていなければ、どんなに濃いマザー濃度の地でも適応出来るんだ。次いで耐性の強いラーグ族も、一部は耐えられるだろう。千年程前にはラーグ族の小さな村も、ロスブリアの地にあったくらいだからな」

「『あった』って、今は無いんですか?」

「あぁ、今は無い。千年前から世界樹マザーが不安定になったそうで、ラーグ族でも耐えられない程の濃さになったそうだ」



『千年前』の単語にアヤメとシャクルが視線を合わせる。



「冥王の一件でのだろうな…」

「だね…」



2人を他所に話しは続き、



「今でもロスブリアに入れるラーグ族は、父を含めて数人だしね」

「オレらモルハス族も、マザー耐性はそう強くないからなぁ。ロスブリアなんてトコは無理だな」

「そうね。この中でロスブリアに入る事が出来るのは、カナフィーリン族のワタシとお姫様。そして…」



言葉を言いかけ、リーシェの視線がシャクルに向いた。



「…あなたくらいかしら」

「はぁ?俺?」

「え?シャクルもマザー使えたの?」

「い、いや、使った事もねぇって…俺は至って普通の人間だっつーの」

「白髪鬼の間違いでしょ…」




 ゴンっ!




「殴るぞ」

「もうゲンコツされましたぁーっ」



騒ぐアヤメを宥めつつ、ミネアがリーシェを見る。



「っという事は、シャクルもマザーの適合者という事でしょうか?」

「いえ、違うわ」

「え、違うって…?」

「彼の周りにはマザーが循環していないの。一切ね」

「それってどういう意味なの?リーシェ」



アヤメから疑問を投げかけられたのに、リーシェはミネアを見た。ミネアは「わたしが説明ですか?」っと己を指差すと、リーシェは微笑み返す。



「え、えっと…マザーを扱えないヒューマ族でも、通常は空気中に漂う微量のマザーを取り込まないと、生体機能を維持できないんです」

「それなのに、彼はマザーを取り込むどころか跳ね返しているのよ」



すると全員の視線が自然とシャクルに集まる。



「ん?…い、いや…別に怪しいもんじゃねぇぞ、俺は…」



集まる視線に戸惑うシャクルだったが、そのシャクルの袖を引くアヤメ。



「ねぇ、ちゃんと話した方がいいんじゃない。私達の事とか…まだキリさんとリーシェに話してないでしょ?…あとあの人、アラーケも」

「あの人って!?おれ後付けかよっ!」

「…そうだな……ならリグルも呼ぼう。あいつは信用できるし、今後も協力を頼めそうだからな…」

「うん。シャクルがそう言うならそうしよ」

「ではわたしがリグル様を呼んで参りますね」



そう言ってミネアが立ち上がると、リーシェはグっと背伸びをしてシャクルを見る。そして満面の笑みで――…



「お話し飽きちゃった」

「うぉいっ!」

「なんて屈託の無い笑顔…」

「おーいミネア、リグル呼ぶついでに飯頼む。あと酒も忘れんなよ」

「自由かお前らァ!」

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