P.094 力の行方(3)
赤く腫れた両頬を摩り、涙目のアラーケがベッドの上で正座している中……
「お…おい、リーシェ…」
「や、やり過ぎではありません…?」
アヤメとシャクル、ミネアも表情を引きつらせ見つめる先……そこには見事に逆さにひっくり返ったベッド。
「おはよ♪オジ様」
「お…おはよう…ございます…」
ニコっと微笑むリーシェの前、ベッドの下から聞こえてくるキリの声。
一方リグルは、シャクルとミネア以上に引きつらせた表情。
「ま、まさかこれが毎日行われているのか…!?…恐るべし…」
アヤメ達が甲板に上がった頃、カラの姿が肉眼ではっきりと捉えられた。首を鳴らしながら肩を摩るキリが1歩出る。
「なんだか何年も留守にしてたみたいに懐かしく感じるモンだぜ」
「あれがサカンドラなの?おじ様」
キリの横を抜け、船から身を乗り出すリーシェ。
「あの島はただの入口だ。ま、裏口だがな」
「ふぅ~ん。島1つをただの裏口扱いだなんて、さすが成金宮殿王ね」
「成金って…お嬢さん?それはブレゴが言ってたのか…?」
「あら?あそこにワンちゃんがいるわ」
「無視かよ…」
苦笑のキリを他所に、リーシェは片手を日射し代わりに当てカラを見据える。
「ワンちゃんって何だよ……って、兄貴か…?」
目を細めたキリの視界に、小さく岸に立つカムラの姿が映った。
「カムラ?どこだよ、全然見えねぇけど…」
「ヒューマ族にはですよ、シャクル」
「は?」
「各種族で五感の能力が違うんですよ。だから人の目には見えないものが、モルハス族やカナフィーリン族には見える場合があるんです」
「ほぉ~」
「いやミネアちゃん、おれも見えてるけど?ハッキリと」
「え…?」
「嘘でしょ…アラーケ…」
「え、ちょっ、何でそんな引いた目してる訳!?」
「いや…別に…」
「何でも…ないです…」
「あん疎外感…」
するといつの間にかアラーケの前まで来ていたリーシェが、その顔をジっと覗き込む。
「新種?」
「違うわーい!」
そうして騒ぐ一行の中、1人黙り込んだままリーシェを見つめるアヤメ。なぜか表情は悲しげ……その表情に気づいたのはシャクル。
「アヤメ、お前どうした?」
「…15歳…」
「は?」
「15歳なんでしょ?リーシェ…」
「あぁ、そう言ってたな。お前の1つ下なんだってな」
「五感だけなのかな?種族の差って…」
「…それに関してはノーコメントでいかせてくれ…絶対泣くから」
「ハハハ…潮風が目にしみるなぁ…」
約30分後、一行の乗る軍艦はゆっくりとカラの岸に着けられた。すると岸ではキリの言った通りカムラが1人、笑顔で出迎えてくれた。地面に降り立つなり、カムラに駆け寄り抱きつくアヤメ。
「カムラさーん!」
「うわっと」
驚きつつもアヤメの体を抱きとめたカムラは、笑顔でその頭を優しく撫でた。
「…無事でよかったよ、アヤメさん」
「カムラさん…心配かけてごめんなさい」
「ハハ。本当に心配で眠れなかったよ」
「あ…兄貴…」
歩み寄るキリを見、頷き笑うカムラ。
「キリ…おかえり」
「あ、あぁ…ただい…ま…」
少し照れたように視線を泳がせ頬を掻くキリ。
「シャクル君もミネアさんも、アラーケ君も…だいぶ傷だらけみたいだけど、無事なようだね。よかったよ」
カムラの見回す笑顔に、各々笑みを返した。
「しっかしカムラ、よく俺達が来るのわかったな?」
「まさかあれからずっと待ってたってのか、カムラの旦那?」
「…まぁな」
「だよな~旦那。『まぁな』って――…まぁなァ!?」
「言っただろ…心配で眠れなかったんだよ。ただそれだけなんだ」
「カムラさん…ありがと…」
「わたしにお礼など必要ないよ…でも…」
再び笑ったカムラは、突然アヤメの頭をくしゃくしゃに撫でた。
「うひゃ~!カムラさんヤメてぇ~っ!」
「ハっハっハっ!それくらい元気な姿を見せてくれたら、本当に安心できたよ。無事でよかった、本当に」
「…今頭が若干無事じゃないかも…」
…っとボサボサ頭のアヤメが悲しく笑った。すると、
「シャクル!」
軍艦から呼ぶ声がする。振り返ると、軍艦の甲板にリグルの姿があった。
「我々は帝国に戻るが、君達はここでいいのか?もし行く場所があるなら送るが…どうするんだい?」
「あぁ、ありがとな、リグル。行き先を確認したいんだ。ちょっとだけ時間もらってもいいか?」
「それなら構わないよ。じゃあ決まったら教えてくれ」
互いに手で合図を交わしカムラに向くシャクル。
「カムラ、細かい事情は後で話す。今アヤメの霊召士の力が0に近いらしい。何とか戻す方法はないか?」
「0だと?…そうだなぁ…」
難しい表情で顎を擦り長考するカムラの姿に、キリがシャクルの肩を叩き並ぶ。
「地下のヤツらにも、無事に戻ったってちょっと顔出してくる。すぐ戻るから待っててくれ」
「おぉ、わかった」
了承を得、歩き出すキリ。その後ろ、「ワタシも行ってくる」とリーシェがついて行った。どうやらジっとしていられないタイプなのだろう。何かしら動きのある方について行く性分なようだ。
「それならシャクル君。1度エクシラに戻ろう」
「エクシラにか?」
「ここでは資料も無いから、的確な事をアドバイスが出来ない。それに今なら研究員達も戻っているだろうからね」
「そうですね。それに今後の移動を考えれば、手配の廻ったバルハール以外の大きな大陸に渡っていた方がよさそうですし。サカンドラからではバルハール大陸にしか行けませんから」
2人の意見…特にミネアの意見には「あ、そうなの?」っという感じで数回頷き返し、軍艦に振り返る。するとまだリグルがこちらを見て立っていた。
「待たせて悪い、リグル。エクシラまで頼めるか?」
「エクシラかい?エクシラなら、帝国への通り道だ。全然構わないから大丈夫だ」
するとリグルの後ろからユーネが顔を覗かせる。
「通り道って…私と隊長はエクシラ駐留よ。まさか忘れてたんじゃないでしょうねぇ~?」
「えっ、あ…わっ、忘れる訳ないじゃないですか~!」
わかりやすい程に慌てた様子で笑うリグルに、ユーネはため息を1つ。
「あの反応…忘れてたな…」




