P.092 力の行方(1)
わーわーと騒ぐアヤメ達を他所に、ブレゴは残る30程のラーグ族らを見渡した。
「さて。我々はそろそろ発つとするか」
その言葉に頷くラーグ族達。距離を保ちつつ、アヤメ達の横を通り過ぎていくブレゴ達。その姿にシャクルが気づく。
「あ、ブレゴ」
呼び声に立ち止まり、ブレゴが振り返る。すると後に続いていたラーグ族も足を止めシャクルに向く。
「その~…何だ…あ、ありがとよ。手ぇ貸してくれて」
「別に主らの為では無い。我らの源珠の為だ。勘違いをするな」
「へいへい…でも感謝はしてる。すっげぇ助かった」
「…まぁ我らも助かった点もある。互さまというものだな…」
そう言って再び歩き出すブレゴ達の背に、「堅いねぇ~…」っと苦笑いを向けるシャクル。するとその横をアヤメが走り抜け、ブレゴに駆け寄っていく。
「あ、あの!待って下さ――…あたっ!」
走るアヤメはブレゴの数歩手前、ヘッドスライディングの如く砂浜にコケてしまう。これにはブレゴとラーグ族も「何だ!?」っと足を止め、俯せに倒れたアヤメを見る。すると慌てたように起き上がり、真っ赤になる顔や服の砂を払いながら、「アハハハハ~」っとごまかし笑いを浮かべるアヤメ。
「…何か用か?ヒューマの姫よ」
「あ、あの…その、あの~…あ、ありがとうございました!」
「………」
「皆さんが、シャクル達と一緒に戦ってくれたお陰で…こうして皆の所に戻る事が出来ました」
「何度も言わせるな。我は源珠の為に動いたまで…主の為でも、シャクル=ファイントと"共に"という訳でも無い」
そう言って、アヤメに背を向けようとした所……
「それでも、嬉しかったです…」
アヤメの一言に、再びブレゴは振り返る。
「ブレゴさんや、ラーグ族の皆さんがいてくれて…私、すごく嬉しかったです」
「………」
しかし反応は無く、全くの無言のブレゴ。無反応なのにまっすぐに見つめるブレゴの視線は、妙な威圧感があり、思わずアヤメは「何か悪い事言ったかな?」っと焦りだす。
「あ…あの、その~…ありが――…」
再びお礼を――…っとした瞬間、ブレゴは背を向けて歩き始める。
「あっ、あれ…?」
離れていくブレゴの背中をポカーンっと見つめるアヤメ。後ろのラーグ族達もアヤメ同様、一瞬のポカーンになるも、慌てブレゴの後を追う。その中には数名、アヤメに小さく手を振ったりしてくれる者もいた。
だが当のアヤメは未だポカーン。そのアヤメに、ゆっくりと歩み寄っていくリーシェ。
「ごめんなさい、気を悪くしないでね。照れてるだけなのよ」
「え…?」
「全く…子供じゃないんだから…」
ため息混じりに腕を組むリーシェに、アヤメは「誰…?」っという視線を向ける。そのリーシェにシャクルが並ぶ。
「なぁリーシェ、お前は行かないのかよ?親父さんと一緒によ」
「え?親父さん、ってまさか――…」
「行かないわ。あなた達といた方が楽しめそうだしね」
「へ?何なに、ちょっと説明し――…」
「つぅー事は、俺らに力貸してくれんのか?」
「えぇ。このまま里に帰っても退屈だし」
そう言って笑うリーシェから、シャクルに視線を移すアヤメ。「どういう事?」っと言いたげな表情に、シャクルが答えようとした瞬間…突然後ろから現れたキリがシャクルの肩を掴む。
「やったじゃねぇか。デカい戦力加わってよ」
「あぁ、まぁな」
「そこでだ。オレもお前らと一緒に行きたいんだが…いいか?」
「は、はぁ!?そりゃ来てくれんのはありがたいが…お前、王なんだろ?逆にいいのかよ…?」
「やられっぱなしは気分が悪ぃんだわ。それに、王だから行きたいんだ。国の仇は、王であるオレに獲らせろ」
そう言うキリを見てから、シャクルはミネアをに視線を向けた。するとミネアは頷き微笑んだ。そしてキリに戻した顔を頷かせ、了承の笑みを向けた。キリも頷き返すと、少し離れた位置に立つリグルを見た。そして何かを訴えるように軽く手を上げる。
これにリグルは察したようで、頷きキリの元へと歩み寄る。
「進路はお決まりでしょうか?宮殿王。我々の船でよければお貸し致しますが」
「いや、気持ちはありがたいが…さすがに軍艦は目立ち過ぎる。とりあえずサカンドラまで送ってくれるか?」
「わかりました、お送り致します。シャクル、アルシェン姫もサカンドラでよろしいでしょうか?」
「あぁ、とりあえずはな。あんたはどうすんだよ」
「1度帝国に戻るつもりではある。一応本国の動きを確かめなくては…」
「そうか。じゃあ悪ぃけどサカンドラまで頼む」
そうしてアヤメ達は、新たにキリとリーシェを旅の仲間とし、帝国の軍艦へと乗り込んだ。
そうして軍艦に揺られる事数時間…軍艦内のベッドの並ぶ部屋で、一行は疲れ切った体を休めていた。ミネアは治癒の力で全員の治療をしようとしたが、ミネア自身もかなり疲労していた為、普通の手当てだけを受けて寝るだけにした。
並ぶベッドの上で、ぐっすりと眠るシャクルとミネアにキリ。するとゆっくりと起き上がる影が1つ……リーシェだった。ベッドから降り立ち、部屋の出口へと向かう。ドアノブに手をかけながら、人が寝ていた痕跡のある空いた2つのベッドを見た。
「…甲板かしら」
そう小さく呟き外に出た。
場面は軍艦の甲板に移り、そこには縁に腕をかけ、夜の暗い海面を見つめるアヤメがいた。その隣には壁に寄りかかるアラーケの姿があり、手にしたウィビの結晶体を見つめている。
「…本当にありがと、アラーケ」
「別にいいって言ったじゃん、お礼は。でも無事でホントよかったよ」
「うん、ありがと……ウィビ、まだ反応しないの?」
「あれから全然…」
アヤメ救出の決着のついた時に交わした言葉を最後に、ウィビからの声は消えていたのだ。
「私のせいだよね……私が巻き込んだから、ウィビも…」
「違うよ。アヤメちゃんは何も悪くないって」
「でも…」
「過ぎた事、今更悔やんだって仕方ないんじゃないのかしら?」
話し込む2人の元に、リーシェが歩み寄ってくる。
「あ…えっと~…」
「ちゃんとした挨拶が遅れてごめんなさい。ワタシはリシェリーア=オルセイユ。簡単にリーシェでいいわ」
「おれはアラーケ=イユウス。よろしく」
「あ、私は――…」
「アルシェン姫でしょ?大丈夫、わかってるわ」
「え、あ…アヤメでいいです。私の事はアヤメで」
一瞬「?」マークの浮かぶリーシェだったが、身分を隠す為の偽名ととり頷いた。そしてアラーケの前に立ち、手にしたウィビを見つめた。
「その結晶体……マザーが消えかかっているわね」
「マザー…が?」
「反応はかなり微弱ね…」
「わかるんですか?」
「えぇ」
「あれ、アヤメちゃん知らなかったっけ?カナフィーリン族の目は、マザーの量とか属性を見る事が出来るんだ」
「へ~そうなんだ」
感心するようにリーシェの目をまじまじと見るアヤメ。横のアラーケも、小さく息をはきリーシェを見る。
「つまり、だから声が聞こえないって訳かい?リーシェちゃん」
「おそらくね。でも不思議な結晶体ね……あの時、闇を掻き消した時の力は、精霊クラスの力だったから」
「精霊…」
そうアヤメが呟くと、リーシェの視線がアヤメに向いた。
「あなたも不思議ね」
「え?私?」
「…あなたの体のマザー…型が感じられないの。それに消えそうな程しかないのに、その濃度は常人以上…どういう事…」
そう聞かれても、「逆にどういう事?」っという表情のアヤメ。




