P.92 笑顔の帰還(3)
砂浜で休むシャクル達の輪に、未だ入れぬアヤメ。そのアヤメにシャクル達の視線が集まる。数メートル離れた位置で俯いたまま立つのアヤメ。
「…何やってんだ?アヤメ。せっかく助かったのに辛気臭い顔しやがって…」
砂浜に寝そべったシャクルは、あくびをしながらアヤメを見上げている。するとその隣に座るミネアが、笑顔でアヤメに向かい手招いてみせた。
「そうですよアヤメ。早くこちらに来ないと、シャクルが寂しがってしまいますよー」
「おいコラ。誰が寂しがるかよ」
「んもォ~シャクル君ったらテレちゃって、きゃわうぃうぃ~♪」
「アラーケ、俺疲れてんだ…スルーでいいか…?」
「それ1番イヤな返しやん!『?』つけちゃダメよ!『いいよ』も『かまってよ』もどっちも悲しいわ!」
「ならオレがやってやろうか?」
なぜか拳を鳴らすキリ。表情もなぜか晴れやかな笑顔。
「まだ生きていたいです、ボクちゃん」
「じゃあワタシが殺る?」
そしてなぜか槍を手にするリーシェ。表情もなぜか楽しそうな笑顔。
「そいつぁー『やる』違いよ!何よこのノリノリな新顔ちゃん!文章の力は怖いわねーっ!」
「久しぶりの登場ですから気合い十分ね?アラーケ」
「そーそー、たださえ忘れられてきてたから――…ってオーイ!ちゃんと活躍したでしょーがミネアちゃーん!」
そう言いながら笑い合うシャクル達。皆傷つき、血に染まったボロボロの姿。アヤメは1歩前に踏み出すも、また立ち止まり俯く。
「皆…こんなにまでなって……私の事助けてくれて…」
言葉と共に溢れ出てくる涙。必死に堪え前を向こうとするが、込み上げてくる涙と感情に、頭を上げられぬアヤメ。
するとシャクルは、「いてて」と言いながらゆっくりと立ち上がり、アヤメに歩み寄っていく。そして俯き涙を流すアヤメの顔に手を伸ばし――…
「鼻ちょうちん」
パンっ!
「ふわぁ!?」
突如目の前で何かが破裂し、驚き顔を上げるアヤメ。すると目の前には人差し指をこちらに向け、ボーっとさせた表情を向けるシャクルがいた。
「シャクル…?」
「泣くならもっとしおらしく泣け。鼻ちょうちんプカプカさせやがって…ガキくせぇ……あ、ガキだったな、お前」
「っ…んなっ!?な、何を~!」
っとシャクルに詰め寄る瞬間、再びアヤメの鼻からプク~っと鼻ちょうちんが生まれ――…
パンっ!
「ふぎゅ!」
今度は鼻ちょうちんを割って貫通してきたシャクルの指が、アヤメの鼻を小突く。
「汚ねぇよ…」
「………」
するとシャクルの口元が、クスっと笑う。
「…バ~カ」
なぜか優しく聞こえるシャクルの「バ~カ」が、アヤメの涙のスイッチを再び入れた。
「ふ…ふぇ~ん!しゃ~ぐりぅ~(シャクル)!」
一気に溢れ出る涙をそのままに、シャクルに力いっぱい抱きつくアヤメ。だがその回した腕は、見事な程にシャクルの傷を押し潰す。
「ッ、いっ…!!はっ、離れろバカ!」
「いやだ~!離れな~い!」
痛みに思わず声を上げるシャクルだが、アヤメは更に強くその体を抱き締めた。
「だったら腕!腕だけ外せ!傷口に当たってんだバカ!!」
「ほえ?傷口?……っ!ごっ、ごめんシャクル!」
ようやく状況を理解したアヤメは、慌ててシャクルから身を離す。するとアヤメの顔や衣服には、シャクルの血がべっとりと…シャクルの衣服には、アヤメの鼻から伸びたキラキラ輝く鼻水がべったりと。
「きゃーっ!!血ぃーっ!!」
「だぁーっ!!きったねぇなバカ!!」
「きっ、『汚い』って女の子に向かって言うなぁーっ!!そっちこそこの血!どうしてくれるのよ!」
「いやお前が抱きつくからだろ!つうかこの傷!9割お前がやった傷だっつうの!!」
「だったらごめん!!」
「キレながら謝んな!!」
「何よ!!バカシャクル!」
「何だ!!ボンクラアヤメ!」
額同士がブツかる程の距離で睨み合うアヤメとシャクル。すると離れた位置からたくさんの笑い声が聞こえてきた。その笑い声にアヤメとシャクルは、ハっと我に返ったように振り向いた。
振り向いた先…それは2人の姿を見て笑うミネア達。その奥ではリグル達も笑っている。
これにはさすがに恥ずかしくなった2人は、顔を赤らめて互いに背を向けた。
「ふふっ、あいかわらずですね?アヤメとシャクルは」
「そーそー、見せつけてくれんじゃ~ん♪」
「式にはオレも呼べよ」
「ちょっ、キリさん!」
「あら、ワタシもいいかしら?」
「リーシェ、お前まで乗っかんな…ったく…」
そう言いながらアヤメに視線を向けると、同じタイミングでアヤメも振り向いた。合わさる視線に驚き一瞬外すも、またも同時に振り向き合わさる視線。すると少々膨れっ面気味のアヤメが、視線を泳がせながら……
「ありがと…」
「は?」
「ありがと、って言ったの!…ふぎゅ!?」
言い放った直後、突然シャクルに鼻をつままれるアヤメ。
「だったら笑って言え。それに…俺だけに言うな」
そう言ってシャクルはアヤメの鼻をつまんだまま、無理矢理ミネア達の方を向かせ手を離す。
アヤメは引っ張られた鼻を押さえながらミネア達の姿を見回した。するとシャクルが後ろから「ほら」っと頭を小突いてくる。
「あ…あの…皆……怪我までして…私の事助けてくれて…本当にありがとうございました」
そう言ってアヤメは皆に向かい深く頭を下げた。そして顔を上げると、すぐにミネアがクスっと笑い口を開く。
「何を言っているんですかアヤメ」
「え?何って…助けてくれたお礼を――…」
「何だよ姫さん、礼ならオレはアレでいいぞ。バルハール大陸名物、ランティ城産のバラ酒。あ、ただし樽でな」
「名物ならワタシは食べ物がいいわ。例えばブタフグ鍋とか。父も好きなのよ」
「お、いいねぇ!バラ酒に合ういいチョイスだ、お嬢さん」
「でしたらわたしがお作り致しますよ。材料があればですが」
アヤメを他所に盛り上がるミネア達。戸惑う表情のアヤメはシャクルに向いた。するとシャクルもミネアのようにクスっと笑い、アヤメの頭に手を置いた。
「俺らは仲間として当たり前の事しただけだ。礼なんて要らねぇって」
「シャクル、でも…」
「俺らが聞きたいのは礼じゃねぇ。帰ってきた挨拶しろってちゃんと……笑って、な?」
「…うん…わかった…」
そう言うと、瞳と頬に残る涙を拭い、笑みを見せるアヤメ。
「おっ、イイね~!やっぱアヤメちゃんは笑顔が似合うよ」
「アラーケ…へへっ、ありがとう…」
「『ありがとう』じゃなくてよ、ほらアヤメ」
「うん…」
1度シャクルを見て頷き、再び皆に向く。そしてニッコリと満面の笑みでVサイン。
「皆、ただいま!」
「おっかえりーっ!アヤメちゃ~ん!」
「おかえりなさい、アヤメ」
笑顔で同じVサインを返すミネアとアラーケ。リーシェも微笑みながらVサイン。キリも親指を立てたGoodサインで笑みを返す。
するとミネアが何かを思い出したように手を叩く。
「あ、そうだシャクル」
「ん?俺?」
「シャクルからもアヤメに、『おかえりなさい』の"アレ"…またして上げたらいいんじゃないですか?」
「っ!?ちょっとミネア!」
「なっ、何言ってんだよ!?お前!!」
「あらぁ~?何を慌ててるんです?だってあの時ぃ~…」
何やらニヤついた表情を浮かべて空を見上げるミネア。
「あの時って、ちょっと待て!!アレはコイツが勝手に――…!」
「かっ、勝手じゃないわよ!!シャクルの方から来たんじゃないの!!」
「えっ?わたしからはアヤメが――…」
「あぁ~!!これ以上喋っちゃダメーっ!!」
「え?何なに?ミネアちゃん、何?」
「あの慌てぶり、気になるわね」
「コイツら何かしたのか?」
「実はですね――…」
「「言うなぁぁ~~っ!!!!」」




