P.090 笑顔の帰還(2)
全てが終わり、静かな波の音がだけが響き渡る大聖堂ザーバス前の砂浜。アヤメ達一行とリグル、そしてカーレンにユーネ。ブレゴと生き残った味方の軍が立つ。
「ふぅ~…姫様も助け出した事だ…ひとまず一件落着ってかぁ…」
そう言いながら砂浜に大の字に寝そべるキリ。
「さすがに30越えたオッサンにはしんどいモンだぜ、こりゃ~…」
すると、落ち着き合流していたミネアも続くように座り込む。
「何だか急に気が抜けちゃいましたね…」
追うようにシャクル、リーシェも共に腰を降ろす。
「だな…俺もさすがにバテたぜ」
「ホントね。今すぐベッドに入りたい気分だわ」
その光景に、一定の距離をおいていたアヤメが俯きながら呟く。
「本当に…ありがとう……皆…」
そのアヤメ達より少し離れた位置に立つリグル、ユーネ、カーレンの3人。
「カーレン隊長、姉さん。本当に何とお礼を言っていいのか…本当にありがとうございました」
「礼はよい、リグル副隊長。マーズ隊長の事は、我々も個人的に追っていてな、これで確証となった」
「知っていたんですか?マーズ隊長の事…」
カーレンはリグルを見ながら1度頷き、その視線をユーネに向けた。
「今回の一件については、帝国本部へとの報告する。書類を任せられるか?バイスン小隊長」
「はい、任せて下さ――…」
「いえ、それは待って下さい」
言葉を切られ、意気揚々と敬礼をしようとしたままコケるユーネ。
「何言ってんのよ?マーズ隊長の謀反は本部に報告しないといけない事実でしょ!?」
「確かに……ですが、今現にマーズ=クレイサーとしての立場は…」
「団長閣下、っという訳か」
「はい。報告した所で、結果報告先は団長閣下です」
「意味無しか……じゃあ私達の立場も…?」
「そこは相手の出方を待ちましょう。しかし…」
2人に向かい深々と頭を下げるリグル。
「何よ?また…」
「立場上、我々の行為こそ謀反ととられるでしょう。それを知った上で御助力を頂けた事……感謝と共に、申し訳ない気持ちにあり――…」
「リグル副隊長」
「は、はい?」
「よい」
「しっ、しかし…」
「よいと言っておる。このカーレン、ただ要請に応え動いたまで…己の道だ」
そう言い背を向け歩き出すカーレン。
「カーレン隊長!!」
「待った!」
追おうとするリグルの腕を掴むユーネ。
「…いいのよ」
振り返る先、微笑みを浮かべたユーネがいた。
「『よい』って言ってんだから、よいのよ、リグル。それに私だってよい!ってもんよ」
「ですが姉さん…」
「何を言いたいかくらいわかってるわよ。でもさ、アンタは私の弟…それ以上の理由は要らないでしょ?」
「姉さん…」
「書状を見てから慌てて隊長に知らせたわ。そしたらヒドいんだよ!隊長ったらさ~…」
……………………………
………………………
『隊長!すぐにでも救援部隊の派遣をお願いします!!もちろん私もその隊に――…』
『焦るな、バイスン小隊長』
『しかし!この書状はおと――…あ、いや…リグル副隊長からの緊急を要する救援内容で、ランティ王家の姫君までもが――…』
『バイスン小隊長!!』
『ッ!?』
『お主は帝国兵を、己の私情で動かすつもりなのか?』
『私情って…私はただ!』
『弟だから、が第一の理由であろう?』
『…はい。リグル副隊長は決して嘘は言いません。ましてや信頼するマーズ隊長を疑うような書状…仮に偽装であっても、私を巻き込むような事は…』
『信頼は、時に大きな落とし穴を生み出す』
『…?』
『ランティ国の件は確認を取り動く。それでもその書状を信じ、行くと言うのなら。帝国兵の名を捨てる覚悟はあるのか?』
『………』
『覚悟があるなら行け……そして2度と姿を見せるでない』
『…わかりました。行きます』
『………』
『行かぬ道…これが帝国兵として答えなら、私は兵を捨てます。でも弟が助けを求めてる。それ以外に姉というものが行く事への理由はありませんから…これが私の答えです』
『そうか、わかった。ならば…』
『?』
『未熟な部下の指導は、上司の役目』
『隊…長…?』
『良いように言ったつもりだろうが、ただの理想バカの言葉だな…これでは戦場は生き抜けぬ』
『っ…!』
『さぁ行くぞ。汚名を背負うのは我らだけで十分だ……足りるか?』
『えっ…?』
『足りるのかと聞いておる』
『は、はい!ありがとうございます!!』
……………………………
………………………
「マーズ隊長の事知ってたのに、私にカマかけたんだからぁーっ!知ってるならビビらせる事言わないでよね、って感じよ」
そう言って頬を膨らませ腕を組み、遠ざかっていくカーレンの背中を見るユーネ。
「それはカーレン隊長が、姉さんをこの一件に関わらせない為だったのかもしれませんね…」
「ん~…そうなのかなぁ…」
「それなのに僕は…何も考えないで姉さんを巻き込んでしまった…」
「………」
「僕はやっぱりまだ子供なんですね…姉離れが出来てない…」
するとユーネはリグルの目の前に3本の指を立てて見せる。
「ならやっぱりケーキ…」
そう言いながら指を1本追加させ、4本にしてニッコリ笑う。
「4ホールで勘弁して上げるわよ~♪」
「えっ…?」
「私はリグルのお姉ちゃんなんだから、頼ってくれた方が嬉しいんだからね」
「な、なら何で追加に…?」
「『姉離れ』とか言い出すからよ」
「はい?」
「家族は私とあんたしかいないのよ?離れちゃダメ。なのに離れようとしたからよー」
「ハハっ…了解です、姉さん」




