P.089 笑顔の帰還(1)
砂浜から軍艦までもを制圧したランティ城の兵士の死者達。手にした剣や槍を掲げ、勝利の雄叫びを上げて互いに笑い合っている。
その光景を唖然とした表情のまま見つめるリグル達。その数メートル先に立つラッスルが振り返り、リグルと視線を合わせた。するとラッスルが正面に向き、腕を胸に当て敬礼を見せた。未だ唖然としたままのリグルは小さく頭を下げて応える。
「あれはランティ城の…兵…なのか…」
「へっへぇ~!イケメンな登場だぜぇ~おれってば――…っ、うおっ!?」
山脈の一角で笑うアラーケ。本人は何もしていないが、勝利のポーズを決めようとした瞬間…お約束な流れ。足を踏み外し、まるでボールのように山脈を転がり落ちていく。
「んなぁぁぁ~っ!!!!」
…――ッ、ドゴォォォンッ!!
「はぎゃあ!!」
転がり落ちたアラーケは、これまたリグル達の数メートル先に転がっていた大きな瓦礫に直撃。砕く訳でもなく、綺麗に瓦礫へ上半身が突き刺さり止まるアラーケの体。
「きゃーっ!何よこの人!?」
「だっ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るリグルとユーネがアラーケの体を瓦礫から引き抜く。
「ぶふぉあっ!!…あ、あんがと…」
「い、いえ…あ、貴方は――…」
「リグルーッ!!」
言葉の途中に突然名を呼ばれ、声のする建物側に振り返るリグル。するとその正門から数人の人影が…それはシャクルとミネア、キリにアヤメが駆け出して来ていたものだった。
「シャクル!?無事だったのか!」
「あぁ。そっちこそ無事でよかったぜ、リグル」
「アルシェン姫もご無事で…」
リグルはアヤメに向いて頭を下げる。すると並ぶユーネ、そしてカーレンも続けて頭を下げた。
「えっ、あっ…ど、どうも…」
自分が姫という立場に、一応は置かれている事を忘れていたようで、一瞬「何で!?」っという様子で慌てるも、すぐに理解しぎこちなくお辞儀を返すアヤメ。
「ア…アラーケ…」
「お前…」
一方ミネアとキリは、ブツけた頭を押さえ座り込むアラーケにゆっくりと歩み寄る。未だに呆然とする2人に対し、アラーケはニッコリと笑いVサイン。
「へへっ。生きてましたわ、おれ」
「アラーケ!!」
ミネアは瞳を潤ませ勢いよくアラーケに抱きついた。
「うわぁお♪ミネアちゃん大胆!」
フザけて見せるアラーケだが、ミネアは力強くアラーケの体を抱きしめ、その肩を震わせている。
「バカ…バカぁ…」
「………」
小さく息を吐き、そっとアラーケもミネアの背中に腕を回した。
「ごめん、心配かけたね」
「でもよかった…アラーケが生きていてくれて、本当によかったぁ…」
「助けてくれたんだよ、ウィビと…ラッスルがさ」
「えっ…」
ミネアの頭をポンポンと叩き、「ほら見なよ」っと後方に視線を促すアラーケ。ミネアの向けた視線…そこには、薄緑の光りに包まれたラッスルが立っていた。
「ラ…ラッスル…」
するとアラーケがミネアの体を離し、ポンっと肩を叩く。
「行ってやんなよ。ラッスルんトコ」
「………」
ラッスルを見たまま頷くと、ミネアはゆっくりと立ち上がり、1歩…また1歩と、ラッスルの元へ歩み寄っていった。
「ラ…ラッスル…」
「…ミネア…」
一定の間隔を空け立ち止まるミネア。互いに名を呼び、無言のまま向き合う2人。
その2人と離れて立つアラーケとキリ。
「ったく…タフ過ぎる男だな、お前さんは」
「へへっ。あの谷底に落ちた瞬間さ、急にポケットに入れてたウィビが光り出して、体がフワって浮いたんだ。そしてゆっくり地面に着いた」
「でも死者達が周りにいたろ?」
「うん。でも襲われそうになった時、あのラッスルが止めてくれた……そしてウィビから出た光りのせいかもしれないけど、死者のヤツらが元の姿に戻ってって、おまけに話せるようになったんだ」
「それで協力を頼んだ訳か?…すげぇ事やってくれんな、お前は」
すると2人にリーシェが歩み寄る。
「そのウィビって子…マザーの力の結晶体のようね…」
「マザー?…ウィビがか?」
「えぇ。それも強力な…」
浮かぶウィビの結晶体を見つめるリーシェ。
「まさか…ね…」
「ラッスル…」
再びミネアが1歩前に出た瞬間、ラッスルが目を閉じて首を横に振る。
「…?」
「これ以上は駄目だ、ミネア。もう僕は死んでいる」
「でも…!」
「僕はもうこの世にはいない…でも君はこの世に生きている…君と僕ではもう、在れる場所が違うんだ…」
「そんな事ない…ラッスルは…ラッスルはわたしの傍にいて――…」
するとミネアの言葉を切るように、再び首を横に振るラッスル。
「傍にはいない」
「えっ…」
「もう僕は、君の傍にはいない。いられないんだよ…ごめん…」
「………」
「僕なんかいなくても、素晴らしい男が傍にいるじゃないか……素晴らしい"弟"が…」
その言葉に振り返るミネアの先に映るアラーケ。
「大切な…たった1人の家族じゃないか…」
「家族…」
「僕の役目は終わった…」
「ラッスル…?…っ!」
ミネアが振り返ると、ラッスルをはじめとした死者達の体が、次第に薄くなりはじめていた。
「時間がきたようだ…」
「じ…時間って…?」
「もうすぐ僕らは消滅する」
「えっ!?」
「魂も消える…だからもう、本当にさよならだ。ミネア」
「いやっ、待って!!」
駆け寄ろうとするミネアに向かい、手を出し制止するラッスル。
「言ったはずだよ、ミネア…僕はもう…ここにはいない」
「そんな事ない!ラッスルは…今もここにいる!」
「…ミネア…」
「ラッスル…」
「その碧水晶…付けてる姿、見るの初めてだ…すごく似合っているよ」
言われ触れる胸元に光る、碧水晶のブローチ。
「プレゼントしてから『付けてみて』って言っても、『まだその時じゃない』って付けてくれなかったのにね」
「だって、汚したくなかったし…これを付ける時は、貴方と共に歩む日からにしたかった……貴方から付けてほしかったから…」
「ミネア…」
「これを付けて旅立つ日が、ちょうど貴方との婚約の日だった…貴方の心と一緒に、わたしは――…」
「なら、その心だけを置いていくよ」
「…?」
「僕の分まで生きてくれ…少しでも長く。そして幸せになってくれ……君が、僕の生きた証なんだ…」
そう言って目を閉じるラッスル。既に腰から下は消えており、徐々に頭部の方に向かい薄くなっていく。
「君の花嫁姿…見たかったよ。ブローチ、付けて上げられなくてごめん…」
「ま…待って…」
「さようなら…僕の一番大切な――…」
「ラッスル!!」
駆け出したミネア……しかし、その伸ばした手をすり抜けるようにラッスルの体は消えていった。
何も掴めずに終わる手を胸に、砂浜に崩れ落ちるミネア。ラッスルのいた所の砂を2、3度掻き、握り締めた手を額に当て肩を震わせた。
「ラッスル……ラッスル…」
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