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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
89/122

P.089 笑顔の帰還(1)

 砂浜から軍艦までもを制圧したランティ城の兵士の死者達。手にした剣や槍を掲げ、勝利の雄叫びを上げて互いに笑い合っている。


その光景を唖然とした表情のまま見つめるリグル達。その数メートル先に立つラッスルが振り返り、リグルと視線を合わせた。するとラッスルが正面に向き、腕を胸に当て敬礼を見せた。未だ唖然としたままのリグルは小さく頭を下げて応える。



「あれはランティ城の…兵…なのか…」






「へっへぇ~!イケメンな登場だぜぇ~おれってば――…っ、うおっ!?」



山脈の一角で笑うアラーケ。本人は何もしていないが、勝利のポーズを決めようとした瞬間…お約束な流れ。足を踏み外し、まるでボールのように山脈を転がり落ちていく。



「んなぁぁぁ~っ!!!!」




 …――ッ、ドゴォォォンッ!!




「はぎゃあ!!」



転がり落ちたアラーケは、これまたリグル達の数メートル先に転がっていた大きな瓦礫に直撃。砕く訳でもなく、綺麗に瓦礫へ上半身が突き刺さり止まるアラーケの体。



「きゃーっ!何よこの人!?」

「だっ、大丈夫ですか!?」



慌てて駆け寄るリグルとユーネがアラーケの体を瓦礫から引き抜く。



「ぶふぉあっ!!…あ、あんがと…」

「い、いえ…あ、貴方は――…」


「リグルーッ!!」



言葉の途中に突然名を呼ばれ、声のする建物側に振り返るリグル。するとその正門から数人の人影が…それはシャクルとミネア、キリにアヤメが駆け出して来ていたものだった。



「シャクル!?無事だったのか!」

「あぁ。そっちこそ無事でよかったぜ、リグル」

「アルシェン姫もご無事で…」



リグルはアヤメに向いて頭を下げる。すると並ぶユーネ、そしてカーレンも続けて頭を下げた。



「えっ、あっ…ど、どうも…」



自分が姫という立場に、一応は置かれている事を忘れていたようで、一瞬「何で!?」っという様子で慌てるも、すぐに理解しぎこちなくお辞儀を返すアヤメ。



「ア…アラーケ…」

「お前…」



一方ミネアとキリは、ブツけた頭を押さえ座り込むアラーケにゆっくりと歩み寄る。未だに呆然とする2人に対し、アラーケはニッコリと笑いVサイン。



「へへっ。生きてましたわ、おれ」

「アラーケ!!」



ミネアは瞳を潤ませ勢いよくアラーケに抱きついた。



「うわぁお♪ミネアちゃん大胆!」



フザけて見せるアラーケだが、ミネアは力強くアラーケの体を抱きしめ、その肩を震わせている。



「バカ…バカぁ…」

「………」



小さく息を吐き、そっとアラーケもミネアの背中に腕を回した。



「ごめん、心配かけたね」

「でもよかった…アラーケが生きていてくれて、本当によかったぁ…」

「助けてくれたんだよ、ウィビと…ラッスルがさ」

「えっ…」



ミネアの頭をポンポンと叩き、「ほら見なよ」っと後方に視線を促すアラーケ。ミネアの向けた視線…そこには、薄緑の光りに包まれたラッスルが立っていた。



「ラ…ラッスル…」



するとアラーケがミネアの体を離し、ポンっと肩を叩く。



「行ってやんなよ。ラッスルんトコ」

「………」



ラッスルを見たまま頷くと、ミネアはゆっくりと立ち上がり、1歩…また1歩と、ラッスルの元へ歩み寄っていった。



「ラ…ラッスル…」

「…ミネア…」



一定の間隔を空け立ち止まるミネア。互いに名を呼び、無言のまま向き合う2人。


その2人と離れて立つアラーケとキリ。



「ったく…タフ過ぎる男だな、お前さんは」

「へへっ。あの谷底に落ちた瞬間さ、急にポケットに入れてたウィビが光り出して、体がフワって浮いたんだ。そしてゆっくり地面に着いた」

「でも死者達が周りにいたろ?」

「うん。でも襲われそうになった時、あのラッスルが止めてくれた……そしてウィビから出た光りのせいかもしれないけど、死者のヤツらが元の姿に戻ってって、おまけに話せるようになったんだ」

「それで協力を頼んだ訳か?…すげぇ事やってくれんな、お前は」



すると2人にリーシェが歩み寄る。



「そのウィビって子…マザーの力の結晶体のようね…」

「マザー?…ウィビがか?」

「えぇ。それも強力な…」



浮かぶウィビの結晶体を見つめるリーシェ。



「まさか…ね…」








「ラッスル…」



再びミネアが1歩前に出た瞬間、ラッスルが目を閉じて首を横に振る。



「…?」

「これ以上は駄目だ、ミネア。もう僕は死んでいる」

「でも…!」

「僕はもうこの世にはいない…でも君はこの世に生きている…君と僕ではもう、()れる場所が違うんだ…」

「そんな事ない…ラッスルは…ラッスルはわたしの傍にいて――…」



するとミネアの言葉を切るように、再び首を横に振るラッスル。



「傍にはいない」

「えっ…」

「もう僕は、君の傍にはいない。いられないんだよ…ごめん…」

「………」

「僕なんかいなくても、素晴らしい男が傍にいるじゃないか……素晴らしい"弟"が…」



その言葉に振り返るミネアの先に映るアラーケ。



「大切な…たった1人の家族じゃないか…」

「家族…」

「僕の役目は終わった…」

「ラッスル…?…っ!」



ミネアが振り返ると、ラッスルをはじめとした死者達の体が、次第に薄くなりはじめていた。



「時間がきたようだ…」

「じ…時間って…?」

「もうすぐ僕らは消滅する」

「えっ!?」

「魂も消える…だからもう、本当にさよならだ。ミネア」

「いやっ、待って!!」



駆け寄ろうとするミネアに向かい、手を出し制止するラッスル。



「言ったはずだよ、ミネア…僕はもう…ここにはいない」

「そんな事ない!ラッスルは…今もここにいる!」

「…ミネア…」

「ラッスル…」

「その碧水晶…付けてる姿、見るの初めてだ…すごく似合っているよ」



言われ触れる胸元に光る、碧水晶のブローチ。



「プレゼントしてから『付けてみて』って言っても、『まだその時じゃない』って付けてくれなかったのにね」

「だって、汚したくなかったし…これを付ける時は、貴方と共に歩む日からにしたかった……貴方から付けてほしかったから…」

「ミネア…」

「これを付けて旅立つ日が、ちょうど貴方との婚約の日だった…貴方の心と一緒に、わたしは――…」

「なら、その心だけを置いていくよ」

「…?」

「僕の分まで生きてくれ…少しでも長く。そして幸せになってくれ……君が、僕の生きた証なんだ…」



そう言って目を閉じるラッスル。既に腰から下は消えており、徐々に頭部の方に向かい薄くなっていく。



「君の花嫁姿…見たかったよ。ブローチ、付けて上げられなくてごめん…」

「ま…待って…」

「さようなら…僕の一番大切な――…」

「ラッスル!!」



駆け出したミネア……しかし、その伸ばした手をすり抜けるようにラッスルの体は消えていった。


何も掴めずに終わる手を胸に、砂浜に崩れ落ちるミネア。ラッスルのいた所の砂を2、3度掻き、握り締めた手を額に当て肩を震わせた。



「ラッスル……ラッスル…」



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