P.088 決着の時(2)
巨大な黒飛竜…そして放たれる前の黒い塊は、ザーバス内の通路を走るシャクル達にもハッキリと見えていた。
「おいおい何なんだよありゃ」
走りながら、窓越しの光景に唖然とするシャクル。
「まさかこの島ごと破壊する気なんでしょうか!?」
「うそォー!?」
「チっ…無事でいろよ、リグル…お嬢さんよぉ…」
巨大な黒い塊の迫る正門口。辺りにいたマーズ隊の兵士達も慌てて逃げ出す者もいる。
「味方ごと吹き飛ばすつもりだというのか…!?」
「カーレン隊長!私達も逃げましょう!!」
「逃げても無駄だと思うけど?」
「冷静に言ってる場合ですかリーシェさん!」
「直撃よりは良かろう」
「そうと決まれば走れェー!!」
散り散りに逃げる兵士達の後を追うように、海に向かい駆け出す5人。その中空を見上げるユーネ。
「うわぁ!何かアレ大きくなってる!!」
ユーネの声に走りながら全員が見上げた空。そこには撃ち放たれた時は5~6メートル程だった黒い塊が既に10…いや、20メートルにもなっていた。迫る速度こそゆっくりではあるが、5人が海に到達までには直撃必至。
すると次の瞬間…カッ!!っと突然眩い青白い光りが辺りに広がった。あまりの眩しさに、砂浜に立つ全員が咄嗟に目を覆いその場で動きを止めた。
「ぐっ…ぶ、無事か!?」
カーレンの声にリグルとユーネ、そしてリーシェが無事を知らせるように答えた。答えぬブレゴももちろん無事であるが、早くも目が慣れたのか、1人上空を見上げている。その見つめた先では、巨大な黒い塊が1~2メートル程の小さな青白い光りによって止められていた。
「この光りはまさか…」
すると砂浜のリグル達が点に見える程の高さ、ドグマ山脈の一角に立ち、砂浜を見下ろしている人影が1つ揺れた。
「――…さっすがイケメン。いい仕事するねぇ~おれ」
人影からそう言葉がもれた瞬間、再び光りは中心から爆発したような激しい光りを放ち、黒の巨大な塊を掻き消した。
「うわぁッ!!」
掻き消された瞬間、光りを中心に爆発にも思える波動が砂浜を襲い、そこに立つリグル達や兵士らを地に転がした。
「…いったぁ~い…」
「だ、大丈夫ですか、姉さん…」
地に伏せたユーネの身を起こすリグル。
「大丈夫…ありがと、リグル」
「しかしアレはいったい…」
未だ上空にある青白い光りを見上げるリグル達。すると――…
「なぁ~にが『おれ』よ…諸々やったのはアタシでしょ?」
突如響き渡る女の声……その声は建物内のアヤメ達の耳にも届いていた。どこか聞き覚えのある声に足を止め、近くの窓に走るミネア。
「おいどうしたミネア」
「今の声…まさか…!?」
視界に映るのは、地上よりは近い位置にあるドグマ山脈。その一角に立つ人影は、ミネアからは人差し指程の大きさに映っていた。
それはミネアには見慣れた影……もちろんアヤメとシャクル。キリすらも唖然とした表情で窓際まで歩み寄る。その姿に、膝から崩れ床に落ちるミネア。人影を見つめていた瞳からは、ポタリ…ポタリ…っと涙が零れ落ちていた。
「はいは~い、そうだったねぇ~!てかウィビちゃん。『イケメン良けれはば全て良し』じゃなぁ~い♪」
「『アラーケ』と書いて『バカ』と読む、って訳ね…バカってホント死ななきゃ治らないのね…」
なんと山脈に立つ人影はあのアラーケ。そして未だに青白い光りを放つ元に浮かぶ、手の平くらいの結晶体……それはウィビの船体から取れた物。砂浜を見下ろし笑顔で腕を組むアラーケが、砂浜とは反対側に視線を向けた。
「そしてそして、もう1人のイケメンが戦場を駆ける!ってかぁ~♪」
その視線の先はカナン湿原。そこからゆっくりと姿を現しはじめる、薄緑のボヤけた光りに包まれた人型の影……それは朧火の黄泉路にいた死者達。
「おれらの敵、倒しましょかラッスルさ――…いや!お義兄さん!!…なんつって♪」
「任せたまえアラーケ君……しかし『お義兄さん』はちょっと…な…」
照れたように笑い先頭を歩くラッスル。その姿は薄緑色にボヤけ光る以外は完全な人の姿。甲冑の腰から剣を抜き天に翳す。
「兵として生き、兵として死んだ皆よ…最期の戦、勝利で飾ろぞ!!」
するとラッスルの背後にずらりと並ぶ、軽く500は居るであろうランティ城の兵士達。雄叫びを上げ、まるで馬にでも乗っているかの速度で山脈を駆け上がっていく。
砂浜で唖然とした表情のまま、アラーケを見上げているリグル達の周りを、丸く包むように青白い光りが覆う。
「アンタ達はじっとしてなさい。今に終わるから」
…っとウィビの声が響く。
「主君、アルシェン姫に害成す者には鉄槌をォォッ!!」
ラッスルを筆頭とした城の兵士の死者達はあっという間に砂浜を覆い、驚くマーズ隊の兵士達を次々に倒していく。
当然マーズ隊の兵士も「何だコイツら!?」っと驚きつつも、武器を死者達に突き立てるが、相手は死人。幽霊であるが故、当然のようにすり抜ける武器。
「なっ…!?」
「何故こちらの攻撃は効かぬのだ!?」
「さぁ、一気に制圧せよ。最期の行進だ」
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「ぐあぁぁぁぁぁ―――……っ!!」
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「――…くっ……皆、引き上げよう…」
その光景を見下ろしていたリュカが、表情を引きつらせ呟いた。するとシドは再び奇声に似た鳴き声を上げ、大きく翼を羽ばたかせて遥か上空へと飛び上がっていった。
そしてこの瞬間、アヤメ奪還の戦いが完全決着したのであった。




