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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
87/122

P.087 決着の時(1)

 依然として戦いの続く大聖堂ザーバス正門前。2隻の軍艦から放たれる砲撃は建物を破壊し、大小様々の瓦礫や破片を広範囲に降らせている。これには敵味方問わず、直撃を受けたり競り合いを分断されたりの障害となっていた。



「っもぉ~、戦いにくいなぁ…」



苛立った表情で敵兵士を殴り飛ばしたユーネ。落下してきた瓦礫により、舞い上がった砂ぼこりを払い咳き込む背後、ゆらりと迫る人影と刃。



「ゴホゴホ――…っ!」



気配に気づき、すぐさま拳を構え振り返る…瞬間、鼻の頭スレスレに突きつけられる剣の切っ先。構えにすら至っていない体勢のユーネはその身を強張らせた。



「っ…!!」

「…あ、あれ?」

「へ?」



止まる切っ先と、まの抜けたような反応に、ユーネの視線が剣の元に向く。



「ねっ、姉さんでしたか!?」

「リグル!?」



ユーネに迫った人影はリグルであったのだ。リグルは慌てて剣を引く。



「すいません姉さん!砂ぼこりでよく見えなくて!」

「もー遅いわよリグル!」

「すみません…でもありがとう、姉さん」



するとユーネは、リグルの目の前に指を3本立てた手を出した。



「え?…何ですか?」

「食堂のケーキ。ホール3種類の奢りでいいわよ」

「さっ、3種類!?…また太りますよ…」

「動いた後だからいいの!うるさいなぁ…」



合わせた視線で笑い合うリグルとユーネ。するとカーレンの背中が2人に近づく。



「無駄話はその辺にしておけ。リグル副隊長、詳しい報告は後で聞く」

「カーレン隊長…はい。我が私情への御助力、感謝致します」

「お主の私情だけではないがな…」



そして周囲もリグルの存在に気づきはじめ、ブレゴの視線もリグルに向く。



「ようやくか…」



すると呟くブレゴの横にリーシェが駆け寄った。



「大丈夫?お父さん。だいぶ怪我してるみたいだけど」

「お前に心配される程ではない。そう言うお前も怪我をしているな……だから『来るな』と言ったのだが…」



後半はリーシェから視線を外しながら呟くように言うと、リーシェが「何か言った?」っとブレゴの顔を覗き込む。



「何も言っておらん。いいからお前も戦え、動けぬ訳ではなかろう」



覗き込むリーシェの視線から逃げるように首を回し、手にした剣を一度振り、戦いの続く群衆目指し駆け出した。その姿を見つめつつ、首を傾げるリーシェ。だがすぐに「クス」っと笑い、ブレゴの背中を追いかけた。


ブレゴは既に戦闘を開始していたリグルに並ぶ。



「ブレゴ殿…無事で何よりです」

(ぬし)に心配されるとは、竜騎士も堕ちたものだな…」



そうは言いつつも、ブレゴの口元は僅かだが笑っているようにも見えた。


背を向けたブレゴに笑みを返し見渡す砂浜は、既に海までマーズ隊の兵によって埋め尽くされている。背後は建物と山脈。数にしても圧倒的に負けているこの状況は、完全に包囲されたようなもの。加えて自隊の兵に刃を向ける戦況は、リグルの太刀筋を鈍らせる。




 ガキィィィンッ!!




鈍るリグルの剣は、軽々と兵士に受け止められる。苦情な表情を浮かべ兵士と競り合うリグル。その剣を弾き、相手を斬り捨てるなど容易いのだが、その手が止まる。



「やはり僕は迷っているのか…」




 ッ…ドゴッ!!




突如競り合っていた兵士の顔面を蹴り飛ばすリーシェ。



「手が止まってるわよ、兵隊さん」

「リーシェさん…」

「半端な気持ちなら下がってた方がいいんじゃない?」



軽い笑みを残し、敵対する兵士の群れに向かっていくリーシェ。



「半端…か……部下達を…仲間を守りたいと思う事が、半端だと言うのか…!」



剣を握り直し、リーシェを追って駆け出すリグル。向かってくる2人の兵士の斬撃を、剣と炎の盾で受け止めた。



「目を覚ますんだ!!君達は騙されている!!」

「黙れ!反逆者が!!」

「貴方…いや、お前はもう我らの副隊長では無い!!あれ程信頼していたマーズ隊長を裏切ったのだからなァ!!」

「くっ…なぜ味方に刃を向けねばならない!!」



悔しげに表情を歪めた瞬間、2人の競り合う兵士の首が宙に舞う。驚き見るリグルの視界に映るのは、武器を振り切った状態のブレゴとリーシェ。



「状況を見なさいよ。殺らなきゃ殺られるの」

「戦いの中で己を持てぬとは…やはり貧弱な種族よのぉ、ヒューマ族は」

「っ…!!」

(ぬし)の出陣目的は何だったのだ」

「…ア…アルシェン姫様の…救出…」

「ならば貫け。その為の退路確保だ。指揮官が目的を見失うな」

「ブレゴ…さん…」


「打てェェェェッ!!」




 ズドォォォォォンッ!!!!




その最中、軍艦から再び放たれる砲撃。砲撃は轟音と地響きを発てザーバスの建物に直撃。



「ま、またぁ!?…ちょっとアンタ達!砲弾だって安くないんだから、無意味な争いに多用しないでよォ!!軍費は四隊で決められてんだから、私達の給料減っちゃうでしょーっ!」

「そんな事はどうでもいいバイスン小隊長!リグル副隊長、中にいる人員は揃っているのか!?」

「アルシェン姫とララグド宮殿王、味方2名がまだです!」

「姫までも…!!バイスン小隊長!!」

「は、はい!!」

「ここは我らに任せて、小隊長は姫の――…」




 ズドォォォォンッ!!!!




「ぐおっ!!」

「ひゃあァ!!」



戦闘の繰り広げられる傍の城壁に砲撃が直撃。強烈な爆音と爆風がリグル達に襲いかかる。




 ズドォォォォンッ!!!!




再びの砲撃。そしてその砲撃にも似た轟音と衝撃に、建物の一部が崩れ、1体の10メートルは優に越えた巨大な黒飛竜が浮上した。



「ちょっ、リグル何よアレぇ!?」

「しっ、知りませんよ!ブレゴさん、あの竜は…!?」

「あの竜は…我らの同士では無い」

「待ってお父さん!背中に人が…!」



リーシェの指差す先を目を凝らし見つめると…確かに背中に人影が見える。乗っているのはリュカとナック、ネイサー、シレイスにセリエフだ。


笑顔で下の戦場を見下ろすリュカ。そしてブレゴを見た瞬間、突如表情が変わる。



「ア、アイツは…【シド】!!ヤナの仇…アイツだ!!」



【シド】と呼ばれた黒飛竜は、ゆっくりと巨大な口を開いていく。するとシドの開いた口元に、黒い気体のような塊が形成され始めた。するとリュカは地上のブレゴを指差し、



「撃て…」



そう呟くと、シドは奇声にも似た鳴き声を上げ、形成された5~6メートル程の黒い塊を地上めがけて撃ち放つ。



「ちょっとリグル!何よアレ!?」

「だから知りませんって!」

「お父さん!!」

「マズいな…」

「に、逃げるぞ!!」


「ほら、喰らいなよ…"闇の聖霊"シドの闇をさ…」

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