P.087 決着の時(1)
依然として戦いの続く大聖堂ザーバス正門前。2隻の軍艦から放たれる砲撃は建物を破壊し、大小様々の瓦礫や破片を広範囲に降らせている。これには敵味方問わず、直撃を受けたり競り合いを分断されたりの障害となっていた。
「っもぉ~、戦いにくいなぁ…」
苛立った表情で敵兵士を殴り飛ばしたユーネ。落下してきた瓦礫により、舞い上がった砂ぼこりを払い咳き込む背後、ゆらりと迫る人影と刃。
「ゴホゴホ――…っ!」
気配に気づき、すぐさま拳を構え振り返る…瞬間、鼻の頭スレスレに突きつけられる剣の切っ先。構えにすら至っていない体勢のユーネはその身を強張らせた。
「っ…!!」
「…あ、あれ?」
「へ?」
止まる切っ先と、まの抜けたような反応に、ユーネの視線が剣の元に向く。
「ねっ、姉さんでしたか!?」
「リグル!?」
ユーネに迫った人影はリグルであったのだ。リグルは慌てて剣を引く。
「すいません姉さん!砂ぼこりでよく見えなくて!」
「もー遅いわよリグル!」
「すみません…でもありがとう、姉さん」
するとユーネは、リグルの目の前に指を3本立てた手を出した。
「え?…何ですか?」
「食堂のケーキ。ホール3種類の奢りでいいわよ」
「さっ、3種類!?…また太りますよ…」
「動いた後だからいいの!うるさいなぁ…」
合わせた視線で笑い合うリグルとユーネ。するとカーレンの背中が2人に近づく。
「無駄話はその辺にしておけ。リグル副隊長、詳しい報告は後で聞く」
「カーレン隊長…はい。我が私情への御助力、感謝致します」
「お主の私情だけではないがな…」
そして周囲もリグルの存在に気づきはじめ、ブレゴの視線もリグルに向く。
「ようやくか…」
すると呟くブレゴの横にリーシェが駆け寄った。
「大丈夫?お父さん。だいぶ怪我してるみたいだけど」
「お前に心配される程ではない。そう言うお前も怪我をしているな……だから『来るな』と言ったのだが…」
後半はリーシェから視線を外しながら呟くように言うと、リーシェが「何か言った?」っとブレゴの顔を覗き込む。
「何も言っておらん。いいからお前も戦え、動けぬ訳ではなかろう」
覗き込むリーシェの視線から逃げるように首を回し、手にした剣を一度振り、戦いの続く群衆目指し駆け出した。その姿を見つめつつ、首を傾げるリーシェ。だがすぐに「クス」っと笑い、ブレゴの背中を追いかけた。
ブレゴは既に戦闘を開始していたリグルに並ぶ。
「ブレゴ殿…無事で何よりです」
「主に心配されるとは、竜騎士も堕ちたものだな…」
そうは言いつつも、ブレゴの口元は僅かだが笑っているようにも見えた。
背を向けたブレゴに笑みを返し見渡す砂浜は、既に海までマーズ隊の兵によって埋め尽くされている。背後は建物と山脈。数にしても圧倒的に負けているこの状況は、完全に包囲されたようなもの。加えて自隊の兵に刃を向ける戦況は、リグルの太刀筋を鈍らせる。
ガキィィィンッ!!
鈍るリグルの剣は、軽々と兵士に受け止められる。苦情な表情を浮かべ兵士と競り合うリグル。その剣を弾き、相手を斬り捨てるなど容易いのだが、その手が止まる。
「やはり僕は迷っているのか…」
ッ…ドゴッ!!
突如競り合っていた兵士の顔面を蹴り飛ばすリーシェ。
「手が止まってるわよ、兵隊さん」
「リーシェさん…」
「半端な気持ちなら下がってた方がいいんじゃない?」
軽い笑みを残し、敵対する兵士の群れに向かっていくリーシェ。
「半端…か……部下達を…仲間を守りたいと思う事が、半端だと言うのか…!」
剣を握り直し、リーシェを追って駆け出すリグル。向かってくる2人の兵士の斬撃を、剣と炎の盾で受け止めた。
「目を覚ますんだ!!君達は騙されている!!」
「黙れ!反逆者が!!」
「貴方…いや、お前はもう我らの副隊長では無い!!あれ程信頼していたマーズ隊長を裏切ったのだからなァ!!」
「くっ…なぜ味方に刃を向けねばならない!!」
悔しげに表情を歪めた瞬間、2人の競り合う兵士の首が宙に舞う。驚き見るリグルの視界に映るのは、武器を振り切った状態のブレゴとリーシェ。
「状況を見なさいよ。殺らなきゃ殺られるの」
「戦いの中で己を持てぬとは…やはり貧弱な種族よのぉ、ヒューマ族は」
「っ…!!」
「主の出陣目的は何だったのだ」
「…ア…アルシェン姫様の…救出…」
「ならば貫け。その為の退路確保だ。指揮官が目的を見失うな」
「ブレゴ…さん…」
「打てェェェェッ!!」
ズドォォォォォンッ!!!!
その最中、軍艦から再び放たれる砲撃。砲撃は轟音と地響きを発てザーバスの建物に直撃。
「ま、またぁ!?…ちょっとアンタ達!砲弾だって安くないんだから、無意味な争いに多用しないでよォ!!軍費は四隊で決められてんだから、私達の給料減っちゃうでしょーっ!」
「そんな事はどうでもいいバイスン小隊長!リグル副隊長、中にいる人員は揃っているのか!?」
「アルシェン姫とララグド宮殿王、味方2名がまだです!」
「姫までも…!!バイスン小隊長!!」
「は、はい!!」
「ここは我らに任せて、小隊長は姫の――…」
ズドォォォォンッ!!!!
「ぐおっ!!」
「ひゃあァ!!」
戦闘の繰り広げられる傍の城壁に砲撃が直撃。強烈な爆音と爆風がリグル達に襲いかかる。
ズドォォォォンッ!!!!
再びの砲撃。そしてその砲撃にも似た轟音と衝撃に、建物の一部が崩れ、1体の10メートルは優に越えた巨大な黒飛竜が浮上した。
「ちょっ、リグル何よアレぇ!?」
「しっ、知りませんよ!ブレゴさん、あの竜は…!?」
「あの竜は…我らの同士では無い」
「待ってお父さん!背中に人が…!」
リーシェの指差す先を目を凝らし見つめると…確かに背中に人影が見える。乗っているのはリュカとナック、ネイサー、シレイスにセリエフだ。
笑顔で下の戦場を見下ろすリュカ。そしてブレゴを見た瞬間、突如表情が変わる。
「ア、アイツは…【シド】!!ヤナの仇…アイツだ!!」
【シド】と呼ばれた黒飛竜は、ゆっくりと巨大な口を開いていく。するとシドの開いた口元に、黒い気体のような塊が形成され始めた。するとリュカは地上のブレゴを指差し、
「撃て…」
そう呟くと、シドは奇声にも似た鳴き声を上げ、形成された5~6メートル程の黒い塊を地上めがけて撃ち放つ。
「ちょっとリグル!何よアレ!?」
「だから知りませんって!」
「お父さん!!」
「マズいな…」
「に、逃げるぞ!!」
「ほら、喰らいなよ…"闇の聖霊"シドの闇をさ…」




