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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
86/122

P.086 勝利へ(3)

そこに見えたものは……ヒビ割れた赤の(もや)が、本当のガラスのように剥がれ落ちた先に見えるザーバスの廊下。



「このまま落下したらヤバい!一か八か跳ぶぞ!!」

「はい!!」

「アヤメ!俺に掴まれ!!」

「うん!!」



伸ばした手を掴むアヤメを引き寄せミネアを見る。互いに頷くと、再び視線を空間の裂け目に向けるシャクル。落下とのタイミングを図るように数回小さく頷き――…



「行くぞ……今だ跳べッ!!」



ミネアと共にアヤメの体を抱えたシャクルが、空間の隙間に映るザーバスの廊下に向かって飛び込んだ。


すると一瞬、ゼリー状のモノにブツかったような弾力をその身に受けたと思ったら、まるで体全体を打ち出されたような衝撃に襲われる。




 ……―――ドゴッ!!




「ぐあっ!!」

「どわぁ!!」

「ひゃあ!!」

「きゃあ!!」



空間から投げ出された3人――…だが悲鳴は4つ…?



「痛ぁ~い…」

「無事…なのか…?俺ら…」

「…そのようですね…あ痛たた…」



ゆっくりと起き上がる3人。見渡す周囲……ザーバスのどの位置かはわからぬが、確かに裂け目に映ったザーバスの廊下であった。


そして3人の下には、床とは違う何かが……っと視線を下ろすと…



「え?」

「あ…」

「へ?」



ミネアが頭。アヤメが背中でシャクルがお尻。その3点を潰され倒された、どこか見覚えのある、灰色の毛並みのモルハス族の俯せの姿があった。



「あれ…これってまさか…」

「ラ、ララグド宮殿…王…?」

「…お~ま~え~らァ~…」



ミネアのお尻の下の頭…キリの頭から聞こえる威圧色の感じられる声に、3人は恐る恐る立ち上がり、ゆっくりと摺り足でその場を去ろうとする……と、



「どんな登場してんだコラァ!!」



怒鳴り声と共に起き上がるキリ。そして1番近くにいたシャクルの頭を掴み、グルグルと力強くねじ回す。



「いてててて!!わっ、悪かったって!いててててッ!!」

「きゅ、宮殿王!申し訳ありません!でも御無事でなによりです~!」

「おうお前らもなァ!!」



そう言って駆け寄るミネアの頭も掴んでねじ回す。



「何でわたしまで~!」

「お前のケツが1番痛かったんだぞコラァ!」



っと、シャクルとミネアの頭を掴みつつ、キリの視線がアヤメに向けられた。視線が合うと、回された2人の頭は解放され、キリはアヤメに歩み寄る。そしてポカーンっとキリを見上げるアヤメの頭を軽く叩いた。



「ようお姫さん、無事なようでなによりだ」

「…はい、ありがとうございます…ってうわぁ~っ!」



笑みを返すアヤメの頭をくしゃくしゃに撫で、視線をシャクルとミネアに向けた。全身傷だらけの2人の姿に思わず吹き出すキリ。



「しっかしそのザマ…てこずったようだな。誰にやられたんだか…」



するとシャクルは無言のままにアヤメを指差す。それにはキリも「ん?」っと視線をシャクルとアヤメに行き来させる。アヤメはキリに「あはっ」っと笑ってみせ、無言のままにシャクルの指を己の手で退ける……と、シャクルの逆の指で再び差され、再びアヤメの手が退ける。


その動きを幾度と繰り返すアヤメとシャクルを他所に、ミネアがキリに歩み寄り、未だに血が流れ出ているキリの腕に両手をかざす。そして治癒の力を発動させた。



「それはお互い様ですよ、ララグド宮殿王」

「おっと悪いな。だが…」

「え?…あ痛っ」



突然頭をペシっと叩かれるミネア。



「王って呼ぶなって言ったろ。キリでいい」

「でしたら叩かなくてもいいじゃないですか~…わたしも怪我人なのに…」




 ズウゥゥゥゥンッ!!!!




すると再び強い振動が通路を揺らす。



「うおっ!何なんだよこの揺れは…」

「おっとそうだった、和んでる場合じゃねぇ。急いで下に降りるぞ」

「下にですか?」

「この振動に関係があんのかよ」

「あぁ。下の状況は最悪らしい…帝国側の裏切り者達が、相手サイドに加戦してやがんだ」

「はぁ?じゃあ…」

「今リグルとカナフィーリンのお嬢さんが先に向かった。…ったく、姫さん救い出しても戦いに負けたんじゃザマねぇってもんよ。オレ達も行くぞ!」

「痛っ!」



意気込むようにミネアの背中をバシン!っと叩くキリは、アヤメとシャクルの背は軽く叩き先導するように走り出した。シャクルとアヤメもすぐさまキリを追いかける。


一方ミネアだけは、叩かれた背中を擦りながら「何でわたしだけ…」っと、頬を膨らませながら駆け出した。







 1度は通った道のりを駆け戻るリグルとリーシェ。戻る通路には大聖堂ザーバスの信者達が倒れており、ほとんどの信者は撃破した様子で容易に1階大広間まで到達できた。既にその広間も鎮圧状態。


たくさんの屍を越えた先に映る大聖堂正門。外からの光りと共にリグルとリーシェの視界に飛び込んできたのは――…



「姉さん…」



肩までの黒髪と緑の軍服姿の姉、ユーネの背中が。そしてその隣に映るのは、同色の軍服に赤いロングマント。白髪で長身のカーレンの姿。姉だけではなく、隊長であるカーレンまで来てくれている事実に驚きつつも、その背に笑みをこぼした。


その2人の周りを取り巻くのは、数10人の帝国兵とラーグ族。そしてブレゴの姿も見えた。



「お父さんも無事だったのね…」



安堵の表情のリーシェに、リグルも笑みを向けた。



「僕もよかったです。ブレゴ殿が無事で」

「えぇ、ありがと」

「では行きましょう。完全なる勝利の為に」

「えぇ、もちろん」



互いに頷き合い、正門目指し速度を上げた。

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