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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
83/122

P.083 2人の居場所(2)


鈍い音と共に走るシャクルの腹部に違和感。ゆっくりと視線を、違和感のある腹部に向けると……



「嘘…だろ…」



その違和感は、アヤメの手にした剣がシャクルの脇腹を突き刺し、貫通させていたものであった。



「……死…ね…」

「シャクルッ!?」



涙をそのままに、再び戻った無の表情のアヤメ。貫いたシャクルの体を突き離すように押し、剣を一気に引き抜いた。



「ぐはッ…!」



脇腹を押さえ、膝から崩れるシャクルにすぐさま駆け寄るミネアだが、アヤメは無となる目を向け走り出した。




 ガギィィィッ!!




両者共、走る速度そのままに撃ち合う剣とトンファー。



「アヤメ…!ちょっと痛いかもしれませんが、ごめんなさい!!」



そう言ってアヤメの太股に蹴りを放つミネア。表情こそ変わらぬが、足への攻撃にグラついたアヤメの体へ、すかさず2撃目の蹴り。これは剣を握る手を横なぶりに払い、剣を勢いよく手から弾き飛ばした。


そしてアヤメの体勢が戻る前に、その身をがっちりと抱きしめる。



「アヤメ!!…お願い…お願い戻って来て!!」



力強く抱きしめる中、アヤメの手も小刻みに震えながらゆっくりした動きでミネアの背中に回る。



「貴女の居場所は…わたし達の元に在るんですよ、アヤメ…」

「う…あぁ……ッ!!」



再びアヤメの目に光りが戻ったかにも思えたが、突如身を強張らせるアヤメ。



「アヤ――…ッ!!いっ…いやぁぁぁぁッ!!」



アヤメの変化に、顔を覗き込もうとした瞬間上がるミネアの悲鳴。それは背中に回ったアヤメの手が、剣や黒の刃によって斬り裂かれた傷口に指を入れ、力強く握り締めていたからだった。


肉を握り潰したような「グチャ」っという音と共に噴き出す血飛沫。悲鳴を上げたままアヤメを抱く手が離れ、その場に崩れる落ちるミネア。


そのミネアの返り血が数滴、アヤメの顔に飛ぶと、



「っ!?…う…うわぁ……うあぁぁぁぁぁ!!」



突然アヤメが頭を掻きむしるように叫び出した。



「ア…アヤメ…!!」



貫かれた傷口を押さえ、フラつきながらも立ち上がるシャクル。錯乱したように頭を掻きむしるアヤメに向かい歩き出す。



「だ…ダメぇ…」



1度大きく頭を揺らし、両手で頭を抱えた状態で小刻みに震えるアヤメが呟いた。



「も…もう…来ないで……2人を……誰も…誰も傷つけたくないのォォォッ!!」



空に向かい叫ぶアヤメに合わせ、再び巻き起こる衝撃波と黒の刃。



「いやぁぁッ!!」

「ぐッ!!」



近くに倒れていたミネアは大きく弾かれるも、シャクルは両腕を顔の前でクロスさせ、グっとその場に踏み止まった。


体には再び刻まれる無数の斬り傷。滴る血は数滴まとめて絶え間なく落ちる程……



「…シャ…クル……ダメ…」



徐々に正気の戻りつつあるアヤメの顔に再び流れる涙。



「くっ…今行く…うぐっ…待ってろ…アヤメ…」



揺らぐ視界にフラつく足元。しかし歩みを止めないシャクル。すると突然シャクルの体を緑色の温かい光が包みはじめた。


驚き足を止め、辺りを見ると…床に伏したままのミネアが、同様の光を放つ両手をシャクルに向けていた。少しずつではあるが、傷の痛みが引いていく……つまりミネアの治癒の力。



「助かるぜ…ミネア…」



無言ではあるが、少し口元を緩めて頷くミネア。



「アヤメ…ミネアも待ってんだ…帰るぞ、俺達の居場所(ところ)に…」



しかしアヤメの首は横に振られる。



「ダ…ダメ……戻りたいって…大切に想うだけ…『殺せ』って…頭の中で…」

「んなモンに負けんじゃねぇよ」

「抵抗でき…ない……苦しいよ…」

「負けんじゃねぇ!!」



すると突然アヤメは苦しそうに胸を押さえ、苦痛に歪む表情をシャクルに向ける。



「こ…れ以上……ふ…2人を傷つけてしまう前に…お願いシャクル………早く…早く……私を…殺して…」

「ッ!?」

「お…願い…」



必死に作るぎこちない笑顔から溢れ出る涙が流れる。動こうとする体を止めているのか、小刻みに震えるアヤメ体。


これにはミネアも驚きで治癒の力を止め、呆然とアヤメの姿を見つめる。



「アヤメ…何を言うの…」

「も…もう嫌だよ……2人を斬った…この感覚…消えない……私の中で繰り返されてる…」

「………」

「もうすぐ…私が私じゃ…なくなるよォ……嫌だよ…呑み込まれていくよ…」



胸を抱えるように自分の腕を自分で掴み、肩を震わせ身を屈めるアヤメ。



「だから…お願い……早く殺して……私を私のままで……助けて…シャクル…」



アヤメの言葉に、ゆっくりと目を閉じるシャクル。唇を噛み締め、開く視界でアヤメの姿を見据えるシャクルの足が再び動いた。



「――…わかった…」



そっとシャクルの手が剣を握り締めた。これにはミネアも慌てて立ち上がろうとするも、傷の痛みと揺れる視界に四つん這いが精一杯。



「待ってシャクル!!貴方何をするつもりなの!!」

「今……楽にしてやる…」



ミネアに向く事なく、振り上がる剣。



「ダメ…ダメよシャクル…ダメェェェェッ!!」











 …―――カラン……




閉じた視界……ミネアの耳に金属物の転がる音が響く。



「――…?」



静まった周囲に、ゆっくりと目を開くミネア。その視界には、転がるシャクルの剣と、アヤメの体を優しく抱きしめるシャクルの姿があった。



「悪い…やっぱ俺には無理だわ…」

「…シャク…ル…」

「アヤメ…俺はお前に斬られようが、殺されうがか構わねぇ。どんな事があっても…何が起きても、2度と離さない…」



少し身を離し、見つめ合う2人。するとアヤメの体から、黒い靄のような煙りが出てきた。それはアヤメの身から何かを抜くように、消え去っていく。そうすると、徐々にアヤメの体から力も抜けていく。



「だから戻って来い…そしてまた、俺の傍にいてくれ…」

「シャクルの…傍に…?」



涙に濡れる表情でシャクルを見上げるアヤメ。その涙を指で拭い、笑いかけるシャクル。



「…バカ、泣くな……笑えって…お前の笑顔、けっこう好きなんだからよ…」

「…うん…」



返すアヤメの表情も、ようやく見られた笑顔。


すると、ミネアの角度からはよく見えなかったが、ほんの少しアヤメが背伸びするようにシャクルに近づき、しばらく止まる2人。そしてゆっくりと離れ、同時にミネアに振り返る。


あえて何も言わず、見つめるアヤメに微笑みかけるミネア。痛む体だが、表情を変えずにゆっくりと立ち上がり……



「おかえりなさい。アヤメ」

「…ただいま……ありがとう…ミネア…」

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