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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
82/122

P.082 2人の居場所(1)

 赤の薄い(もや)の囲う、くすむ黄金の広間に響き渡る金属音。そこでは『無』のままのアヤメとシャクルの剣が幾度もブツかり合っていた。



「アヤメ!お前どうしちまったんだよ!!」



必死の呼びかけにも反応無く剣を振るい続けるアヤメ。全く活力の感じられない、表情も変わらない。反撃はもちろん、どう対処したらいいかわからずのシャクルは、ただアヤメの斬撃を受け止めるだけ。ミネアも斬られた肩口を押さえ、その光景をただ見つめる事しか出来ない。



「どうして……やっと辿り着いたのに…!」



唇を噛み締め、身を屈めるようにその場に崩れるミネア。すると伏せた視界に突如映り込む人影。




 ッ、ガギィィィィンッ!!




そして響き渡る音に黒革の靴が視界に入る。何が起きたかと目線を上げると、アヤメの斬撃を目の前で止めるシャクルの姿が。



「シャクル…」

「バカ!!ボサっとすんな!」

「でも…でも…」



ミネアの目には、合わさる剣同士がギリギリと軋む音を発し、徐々に圧し込まれていくシャクルが映る。



「やっと…やっとここまで来たのに…」

「諦めんじゃねぇよミネア…!」

「でもこのままじゃアヤメを…倒すしか…」

「バカ言ってんじゃねぇよ!!助けに来たのに、んな事出来る訳ねぇだろうが!!」

「だけどこのままいってもわたし達が殺されるだけです!アヤメにシャクルを斬らせる訳には…!!」

「だったら何か手を考えるか探せ!!アヤメは俺に任せろ!!」

「何かって…」



焦ったように辺りを見回すミネア。しかし視界に映るのは赤の(もや)とくすむ金の足場だけ。アヤメを戻す足掛かりとなりそうなモノは何も無い。


その間にも響き渡るシャクルとアヤメの撃ち合う音。耳に金属音が入る度に、ミネアは急かされているような気持ちで焦るばかり。



「シャクル!どうしましょう、何もありません!」

「嘘だろ…っ!ホントに何もねぇのかよ!?」

「無いんです!何も…何も無いんです!!」

「死…ね…」

「くっ…似合わねぇ台詞ばっか言ってんじゃねぇよ!!バカアヤメ!」

「っ…!」



シャクルがそう叫んだ瞬間、突然撃ち合う剣から力が抜け、アヤメの動きが一瞬止まる。



「アヤ…メ…?」

「…シャ……ク…ル…」



途切れ途切れではあったが、アヤメの口からシャクルの名が呟かれた。


これにはシャクルもミネアも驚きの表情を向けるが、当のアヤメの表情は無のまま変化はない。しかし以前として動きのないアヤメ。シャクルは驚きの表情のまま、ゆっくりとアヤメに歩み寄り、そっと肩に手を置いた。



「アヤメ…?」



呼びかけると、活力無き目ではあるが目線が上がりシャクルを見る。



「アヤメ…俺だ…わかるか?」

「………」

「アヤメ…」

「…死ね…」



呟かれるアヤメの声に合わせ、剣を握る手がシャクルの首元めがけ振り抜かれる。



「危ないシャクル!!」

「っ!!」



間一髪。振るわれた刃は身を反らせたシャクルの顎スレスレを掠めていく。すぐに体勢を戻すシャクルは、すかさず振り抜かれたアヤメの腕を掴み取り、その身を己に寄せる。



「ホントに危ねぇだろうがバカ」

「死…ね…」

「もうヤメてアヤメ!」



余すアヤメの左腕を駆け寄ったミネアが抱き止める。両腕を捕らえられ、身動きの取れずに一瞬止まるアヤメの体に、ミネアは腕を伝うようにして抱きついた。



「お願いアヤメ!戻ってきて!!」

「そうだアヤメ!!さっさと目ぇ覚まして戻ってきやがれ!!」

「アヤメ!!」

「アヤメ!!」



シャクルとミネアがそれぞれに呼びかけると、徐々にアヤメの表情が引きつり始めた。



「う…うぅっ…!」

「アヤメ!!」



2人の声が合わさり、名を叫んだ瞬間…アヤメの体がドクンっと脈打った。



「ッ!!……いっ…いや……いやァァァァッ!!」



すると突然アヤメ叫び声を上げる。驚きから一瞬身を離しそうになるが、シャクルとミネアはグっと堪えて手を離さない。


しかし次の瞬間…突如アヤメを中心に衝撃波が巻き起こり、凄まじい勢いで弾き飛ばされる2人。



「きゃあァァッ!!」

「うあぁぁぁぁッ!!」



7~8メートルは軽々と飛ばされた2人は床を転がり、倒れたその身を上半身だけ起こす。落下で強打した腰や腕などを擦り見るアヤメの姿は、片手で頭を覆い、空に向かって悲鳴を上げる姿。



「くっ…アヤメ…」



シャクルがゆっくりと立ち上がろうとした…次の瞬間。アヤメの体を黒いオーラのような光が包み、その光が手の平程の無数の刃となり、アヤメの体から四方八方へと撃ち放たれた。


無数の黒の刃は四方八方にまるで散弾銃のように撃ち放たれ、シャクルとミネアを襲う。その速度と数に2人は身を屈める以外に術はなく、次々に体を黒の刃が斬り裂いていく。



「ッ…ぐあぁぁッ!!」

「うあぁぁッ!!」



刃に襲われた2人は、斬り傷より噴き出す血を撒き散らして再び床を転がり、地に伏せる。


未だ体を黒の光が包むアヤメは、俯き立つまま荒い息遣い。肩が大きく上下し、汗なのか?透明な雫が数滴床に落ちた。



「はぁ…はぁ…あ…うぅ…」



荒い息遣いの中、時折グラつくアヤメの体。その中ゆっくりと身を起き上がらせるシャクル。腕や肩を斬られついた血が頬を汚し、痛みに歪む表情でアヤメを見る。



「くっ…アヤメ…」



立つ傷だらけの体を引きずるように1歩…1歩と、ゆっくりとアヤメに向かっていく。



「――…うっ…」



するとミネアの体もピクりと動き、体をゆっくりと起こしていく。ミネアの無事を確認し、再びアヤメに視線を戻すシャクル。



「アヤメ…」


挿絵(By みてみん)


ようやく辿り着いたアヤメの元。未だ肩で荒い息遣いのアヤメに頬に手を伸ばし、そっと触れた。するとシャクルの手には冷たく濡れた感触が…


触れた頬を持ち上げるように、アヤメの表情を自分に向ける。するとその手に触れていたのは、アヤメの『無』の瞳から流れ出ていた涙であった。



「何泣いてんだよ…バカ」

「………」

「いつものアホ面になって戻って来いよ…」

「う…うぅ……シャ…ク…ル…」

「アヤメ…」



そう言って頬に触れた手の親指で、アヤメの流す涙を拭った時…シャクルを見つめる目が、一瞬"アヤメの目"に戻ったかに見えた。


次の瞬間――…




 …――ズンッ…!



.

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