P.080 届かぬ声(2)
そう言って翳すリュカの手の上に、不思議な魔法陣が現れ、浮かび上がるようにエルセナが姿を見せる。その姿は実体と言うより魔法陣より映し出されたものに見え、眠ったように目を閉じ、ぐったりとうなだれた姿。
「エル…セナ…」
「冥王の力と霊召士の力を融合させ、完全な力を手にする為に、僕と母さんは1つになるんだ。アルドナでね」
「ア、アルドナだと…!?」
「父さんもナックから聞いただろ?精霊を殺せる覇剣ダーヴィスと、その剣が眠る天空の都市、アルドナの事を」
そう問うリュカに、あえて無言のままに睨み続けるシャクル。
「そう睨まないでよ父さん。代わりにいい事教えてあげるからさ」
「……?」
「覇剣の力…いや、呪われし武器は、源珠の力で制御出来るらしいんだ」
「っ…何だと…!?」
「どうだい?冥王としての僕を倒す為のヒントにはなったでしょ?」
思わぬ言葉にシャクルは一瞬驚きの表情を浮かべるも、すぐさま鋭い眼光をリュカに向けた。
「ナックを通じてこっちの情報は筒抜けって訳か…」
「別に全部が筒抜けって訳じゃないよ。呪われし武器の存在は、精霊なら誰しも知る存在。僕の中の闇の精霊からね」
そう言うとリュカは指をパチンっと鳴らした。すると未だ目を覚まさぬエルセナの足元の魔法陣が回転し出し、エルセナの体が吸い込まれていくように消えていく。
「エルセナ!!」
「大丈夫だよ父さん。すぐにまた会えるから……もちろん一緒に来てくれるなら、いつでも母さんに会えるよ」
「………」
「そうすれば親子3人。ナックも一緒に暮らせるんだ。だから父さん、僕と一緒に…」
「………」
「さぁ、行こうよ」
そう告げるリュカに視線を向けるシャクルは、ゆっくりと首を横に振る。
「悪いな冥王。お前と行く気はさらさらねぇよ」
「何だって…」
「俺はお前を倒す為に戻ってきた。エルセナを蘇らせられるからって、そうしたいとも思わねぇ。エルセナの望みはソレじゃねぇ…アイツの想いは萱島アヤメに引き継がれたんだ。だから俺は…」
シャクルはゆっくりと手にした剣の切っ先をリュカに向ける。
「萱島アヤメの為に、今ここにいる」
「………」
「降りてこい、冥王…エルセナの魂はアヤメと在るべきものだ」
「………」
数秒睨み合う両者だったが、生唾を飲むリュカがシャクルに背を向けた。
「おい冥王!逃げんのかァ!?」
「…うん、ここは逃げる事にするよ」
「何…」
「初めてだよ…怖いと感じたのは…さすがだよ、父さんは…」
そう呟くリュカは、小刻みに震えて汗にも濡れた手の平を見た。そしてその手を握り締め、横目にシャクルに振り向く。
「僕は行くよ。集めるものを早く集めなきゃ」
「冥王…お前…」
「でも諦めてないからね、父さんの事……だけど、注意した方がいいかもね」
「何?」
「キャアァァ!!」
突如響く悲鳴に振り返るシャクル。するとそこに映るのは、肩口から血飛沫を上げたミネアの姿。
「っ…ミネア!!」
崩れるミネアの前には、刀身を血に染めた剣を構えたアヤメが立つ。その表情はやはり無のまま。倒れたミネアに歩み寄り、ゆっくりと剣を振りかぶる。
「ヤメろアヤメ!!」
すぐさま駆け出したシャクルの剣がアヤメの斬撃を止める。
「大丈夫かよミネア…っ」
「は…はい…」
「アヤメ…お前…っ!」
「………」
競り合う中でもアヤメの表情は変わらない。光の無い、感情も無い目でシャクルを見ている。
「注意しないとダメだよ、父さん。その人結構強いから」
「っだとォ…」
軋む音を発て競り合う剣と剣。
「何だよこの腕力…アヤメの力じゃねぇな……いったい何しやがった!?」
「だいぶ弱ってたみたいだから、ちょっとマザーを送って上げたけど…強すぎたのかな?許容範囲越えたみたいで、暴走しちゃったみたい」
「テ、テメぇ…!」
「ほらほら、よそ見してたら殺られちゃうよ…じゃあね、僕達はもう行かなきゃ」
そう言って完全に背を向けたリュカの肩に、どこからか突然現れたナックがフワリと降り立つ。ナックはチラっとシャクルを見ると、何か言いたげな表情をしていたが、ゆっくりと視線を反らして背を向けた。
「ナック…」
「死…ね…」
「くっ!」
呟かれる言葉と共に、シャクルの剣が弾かれた。グラつくシャクルめがけ、アヤメの容赦無き剣が降り下ろされる。
「シャクル!!」
「うおっ!」
刃がシャクルを襲う寸前、倒れたままだったミネアがシャクルの足を払い、地面に落とす。鼻先を剣が掠めていき、倒れ行く体を捻り起き上がる。そして連撃と襲いくる剣を剣で受けた。
「ヤメろアヤメ!!」
「………」
「アヤメ…」
再び競り合うシャクルとアヤメに向く事なく、リュカとナックが離れていく。
「おい待て!冥王!!め…リュ、リュカァ!!ナック!!」
シャクルが呼び叫ぶもリュカとナックは振り向く事なく、赤いもやに呑まれていくように消えていった。
「待ちやがれェェ!!」
「…っ!」
叫ぶシャクルに、アヤメは無言のままに剣を圧し返していく。その度シャクルの足元がズルズルと音を発て、剣同様に圧されていった。
「くそっ…何なんだよこの力はァ!!」
斬りつけられた肩を押さえ立ち上がるミネアもアヤメに歩み寄る。しかしどうする事も出来ない。"アヤメ"という存在に手を出す訳にはいかない。
「ヤメて…もうヤメてアヤメ!」
もうミネアには呼びかけるしかなかった。しかしアヤメの反応は無く……
「死ね…」
「お願い戻ってきて!アヤメ!!」
「目ぇ覚ませアヤメェ!!」




