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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
78/122

P.078 決別の友

つづら折りの大階段を上り終えたシャクルとミネア。息を切らし見渡す周囲は、最上階とも思える広い円形のホール。天井は全てガラス張りで、まるで屋外にいるかのような明るさだ。左右には1枚の木目の扉があり、正面には3~4メートル程の鉄の両開きの扉がある。



「ミネア、どれだと思う?」

「いかにもという扉は正面ですね」

「だよな」

「行きますか?」

「あぁ、迷ってらんねぇよな」



そう言って互いに頷き合い、歩き出そうとした瞬間――…



「待って!」



突然背後から聞こえた声に振り返るシャクルとミネア。するとそこにいたのはナックだった。


ミネアに話しを聞いてはいたが、未だ気持ちの整理のついていないシャクルは、戸惑いの表情でナックをみつめる。並ぶミネアも同様の表情。



「やぁ2人共、久しぶり」



そう言ってあきらかに無理した笑顔をみせるナックは、2人を見ているようで見ていない微妙な目線をしている。



「ナック、お前…」

「…ミネアに聞いたかい?」



ようやくシャクルに向いた視線。しかし今度はシャクルが視線を外してしまう。



「あぁ……嘘なんだろ?お前が敵だなんてよ」

「うん。本当さ」

「今までの事…全部嘘だって事かよ…」

「そうなるね」

「お前…本当に――…」

「敵に決まってるだろ。シャクル=ファイント」



もう開き直ったという表情のナック。口調も冷たく突き離すようなものに変わっていた。



「…ナック、お前忘れちまったのかよ?エルセナとの日々を……あの時誓っただろうが…『冥王を必ず倒す』ってよ。そんなお前が、冥王の精霊になるなんて…冗談がすぎんだろ」



やはりまだ信じられないっといった表情のシャクルに対し、ナックはため息をつきながら両手をあげ、首を左右に振った。



「エルセナか…いたね。そんな人間」

「そんな人間だと…!?」

「そんな人間はそんな人間だよ。それにさ、今まで会った霊召士の中で、エルセナ=ミリアードは1番弱い霊召士だったなぁ、っても思い出したよ」

「何だと…」

「全く笑っちゃうよね。はじめっからボクを使って戦ってれば、こんな事にはなっていなかった。たった1人の命で終わる事が、多くの命を奪う出来事に発展している」

「『たった1人の命で終わる』ですって!?ナック貴方、命はそんなに軽く言えるようなものではないでしょ!」



このナックの発言には、思わずミネアも割って入る。



「命の重さくらいわかってるさ。でもあの時は多くの犠牲を生まない為の命の決意だった。その揺らぎが生み出した結果がコレだ…今の現状じゃないか」

「だからって――…」

「何を言われても、今のボクには無意味だよ」



再び首を左右に振るナック。



「『無意味』ってナック、貴方シャクルの気持ちをわかってそんな事言っているの!?」

「もちろんわかっているさ」

「わかっているならどうして…」

「継承を受ける精霊に、術者を選ぶ権利も拒む権利も無い」



俯き、次第に肩を震わせるナック。



「忘れるもんか……忘れられるはずないだろ…エルセナ…シグ婆ちゃんにアグナー…シャクルといたあの時間を…」



ゆっくりと上がったナックの頬を、一筋の涙が伝う。



「1番弱かった霊召士は、今まで会った霊召士の中で1番優しかったよ。そして1番…1番楽しい時間をくれた……だからこそ、忘れたくても忘れられないんだよ!!」

「ナック…」



これにはミネアも言葉を返せず、そのまま黙り込んでしまう。しかし隣のシャクルから聞こえてきたのはため息。



「だったら戻って来いよ、ごちゃごちゃ言ってねぇでよ」

「えっ…」

「だから戻って来いって言ってんだよ、バカナック…」



そう言って、まっすぐにナックの目を見つめるシャクル。



「じゃねぇとお前、またエルセナに怒られんぞ?『今日はご飯抜きにするわよ』ってな」

「エル…セナ…」



口元に笑みをつくるシャクルに対し、ナックはゆっくりと目をつむる。そしてしばらく続く沈黙の時間……



「――…ごめん…」



その沈黙を破ったのはナック。



「ボクはもう…マスターであるリュカの精霊なんだ。術者に逆らう事は…出来ない」

「ナック…でもっ――…」



ミネアが一歩前に出たその肩を、シャクルがナックを見たまま掴み止めた。



「そうか…わかった」

「ちょっ、ちょっとシャクル!」

「行けよ…ナック」

「?」

「早く行けって言ってんだよ…俺に斬られる前にな…」



呟くように言い放つシャクルの鋭い眼光がナックに刺さる。



「今は気持ちの整理がつかねぇが、次会う時は容赦しねぇ。敵として斬るぜ。ナック…」

「…うん…」



再びくる沈黙の中、見合うシャクルとナック。その両者を交互に見るミネアは、何も言えぬ空気にただ唇を噛みしめ視線を落とす。


するとナックは、ゆっくりとシャクルとミネアに背を向けた。



「…さよなら…シャクル…」

「あぁ…じゃあな、ナック…」



答えるシャクルも背を向け、互いに背中を向けあった。


そしてまたしばらく続く沈黙の時間。するとシャクルがミネアの背中を軽く叩く。



「行くぞ、ミネア」

「えっ…」

「アヤメが待ってる。先を急ごう」



そう言うと、ミネアの返事を待たずして歩き出すシャクル。ナックに振り返る様子もなく進んでいくシャクルに、ミネアは小さく息を吐いて頷いた。





「――…さよならシャクル…皆。今まで、ありがとう…」




◆◆◆――…




 足を止めたシャクルとミネアの前には、見上げる程に大きく重々しい鉄の扉があった。


ミネアは扉を見てから後方に振り返る。しかしそこにはもうナックの姿は無かった。



「もういいミネア、振り返るな」

「でもシャクル…本当に――…」

「いいんだ。もう決めたんだ」

「シャクル…」



心配そうなミネアの視線を流すように、シャクルは目の前の鉄の扉に触れた。そして逆にミネアを見、「これ開けんのか?」っと首を傾げた。ミネアもアヤメ救出優先を呑み、ナックについては続けずに「どうでしょう」っと、シャクル同様に首を傾げる。



「とりあえずやってみるか…」



そう言うと、重々しい扉に挑むべく本腰を入れて押そうとした瞬間…あまり力を入れていないはずなのに扉は動き、押した片側だけでなく、両側の扉が開いていく。これにはシャクルも咄嗟に扉から手を離し、ミネアと共に数歩後退る。そして警戒するように身構えた。扉と床の擦れる音すら聞こえてこない。無音のままに手を離した扉は独りでに動き、ゆっくりと両開きの扉は完全に開ききった。


開ききった扉の先…それは黒いもや。このもやは漏れ出てくる訳でもなく、行く手を阻む壁のようにかかっている。



「な…何だよ、これ…」



引きつる表情を互いに合わせ、再び黒い壁を見る。シャクルは剣を抜くと、もやに近づきゆっくりと刺し込んだ。


手応えは無い……



「先がありそうだな…ミネア、手を貸してくれ」



そう言ってシャクルはミネアに手を差し出した。一瞬キョトンとするも、とりあえずその手を取るミネア。すると続けて差し出されるシャクルの剣。これには思わず「え?」っと首を傾げる。



「まず俺が入ってみる。で、行けそうだったら2回握り返す。ヤバそうなら手を離す。お前も引け」

「ではこの剣は…?」

「俺が反応出来ないくらい急激に引き込まれたり、巻き込まれそうなら俺の腕を斬れ」

「っ…!!」



ミネアの反論を待たずに半ば強引に剣を渡すシャクルは、もやの壁を前に大きく息を吐く。そしてミネアに振り返り、



「ヤベぇ、ちょっとビビってきた」



っと苦笑い。ミネアも苦笑いを返し、シャクルの手を握り返す。



「うしっ、行くか」

「はい…」



踏み出すシャクルに合わせ、ミネアは剣を振り上げる。


黒いもやの壁にシャクルの半身が埋まる中、グっと目を閉じ身を強張らせるミネア。手から伝わる感じでは急激に引き込まれるような感覚や、シャクルの身に何かが起きているような雰囲気もない。ゆっくりと目を開け、肘から手までのシャクルの腕を見た。



「……?シャ…シャクル…?」



呼びかけるも応答、反応は無かった。だが一拍おいて、繋ぐ手が2回握り返される。そしてシャクルの顔がもやの中から覗く。



「入っても大丈夫だ。危険は無い」



シャクルの無事に安堵の表情のミネアは、振り上げた剣を下げて頷いた。


しかし「大丈夫」とは言われても、壁のようにかかる黒いもやに入るにはそれなりの度胸はいる。大きく深呼吸をし、その身を緊張させ、ミネアは黒のもやへと一気に入った……が、その一気が行き過ぎたようで、突然体がグラっと大きく傾いた。



「っ!……っと、とっとっとっ!」

「お、おいミネア!」



傾くミネアの腕をシャクルが引き戻し、確かな足場にしりもちをつくミネア。



「大丈夫か?ミネア」

「はい…ありがとうございます……しかし、ここは…」



未だしりもち状態のミネアが辺りを見渡すと、その空間はシャクルとリーシェがウラルに乗って突入した、薄い赤に染まる空間だった。


少しくすんだ金の石のような足場は、綺麗に整えられた円形。何かに支えられている訳ではなく、赤の空間に浮いている。見下ろせば赤に染まる底無き景色が広がっていた。



「落ちたらヤバかったな…」

「はい…でもここから先へはどうやって…」

「それなら後ろだ」



立ち上がるミネアに手を貸しながら、その後方を指差すシャクル。指し示された方向にミネアが振り返ると、足場同様にくすんだ金の道が現れており、幾折りもの螺旋を描いた上り坂となっていた。



「いつの間にこの道が…」

「ミネアがこっちに来たらあの入口が消えて、(こいつ)が出てきやがったんだ」

「まさか罠でしょうか?それとも誘い込まれただけでしょうか?」



不安げな視線を向けるミネアに、シャクルは螺旋の先を見据えながら首を横に振る。



「いや…この先にアヤメはいる」

「この先に、ですか?」

「ザーバスに来てから最上階でアヤメに会った場所にも似てるし…アヤメが呼んでるんだ…」

「呼んでる…?」

「よくわかんねぇけど、そう感じるんだ…」



呟くように言い、ゆっくりと歩き出すシャクル。するとミネアはシャクルの背中に向かい頷き、後を追う。



「シャクルがそう言うならきっとそうですね」

「ハっ、そう言って外したら赤っ恥だけどな」

「そしたら、助け出したアヤメと一緒に笑って上げますよ」

「おいおいキツいなそりゃ…」

「大丈夫ですよ、わたしもアヤメを感じるような気はします。急ぎましょう。アヤメが待ってます」

「だな」



そう言うと2人は螺旋の上り坂を駆け上がっていった。






「――…シャ…クル…」

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