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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.08 奪還
77/122

P.077 コンティニュー(2)

 力無くヤナの体が地に落ちる頃、血の絨毯が広がる割れた床から、ブレゴがゆっくりと出て来る。



「…思った以上の者であったな…」



頭や体の至る所から血を流すブレゴ。ポタポタと床に流れ落ちる血を拭う事なく、依然として戦闘の続くホールを見渡す。



「この状態では…後は追えぬか……すまんな、リグルよ…」




 ドサッ―――……




◆◆◆――…




「…案外早く終わりましたね」



 不敵に笑うネイサーの足元には、己の血の上に倒れるキリとリーシェ。ネイサーは握る剣の切っ先を、キリの首筋触れるようにつけた。



「ゲームは我々の勝ち…景品の首でも頂くとしますか」



剣を首から離し、少しだけ振り上げた瞬間、



「ならばそのゲーム…コンティニューは可能でしょうか?」



突如ネイサーに襲う白銀の刃。




 ガギィィィィィンッ!!




甲高い金属音を響かせ、襲う刃を剣で受けるネイサー。堪える足元が僅かにスライドする。



「おや…君は…」

「まだゲームは終わっちゃいませんよ、隊長…」



競り合う刃の向こうになびく黒い髪と赤のマント。そこに立つのは斬り込んで来たリグル。そのリグルの通って来たであろう道には、いつの間にや斬り倒された信者達の姿があった。その光景を見るネイサーは、軽くひと息吐く。



「…さすがは帝国の剣士ですね」

「えぇ…貴方に教わったこの剣で…貴方を斬るッ!!」




 キィィィンッ!!




剣を弾き、体の回転と共に強烈な突きを放つ。しかしネイサーもその突きをターンをするように躱し、そのターンの勢いのまま横なぶりに振り切る刃。リグルは軽く後ろに跳び刃を避けると、リグルの鼻先を剣が掠めた。


一瞬とも思える攻防を終え、両者の間合いが開き互いに動きを止める。囲む信者達も武器を構えたまま、その場で動けずにただ息を呑むばかり。



「このわたしが教えた剣?…何の事でしょうか?」

「ここまできて、トボけるおつもりでしょうか…?」

「さぁ…何の事ですかね」



首を傾げると共に間合いに踏み込むネイサー。突き出される剣の連撃を、左腕に発動させた炎の盾で全てを弾く。


ネイサーの剣は水。リグルの盾は火。ブツかり合う度にジュッ!っと音を発て、僅かな水蒸気を発する。その水蒸気を貫くようにリグルの突きもネイサーに向かう。



「ぬるいですよ、全く…」



ため息混じりに呟くネイサーはあえてリグルの剣をスレスレで躱し、剣の腹を指で弾いてみせる。そしてネイサーから繰り出される連続の斬撃。僅かだが弾かれる剣に体勢は傾くも、炎の盾が斬撃全てを弾きリグルの体には届かない。


一連の攻撃を止め、再び開かせる間合いで向き合う両者。



「確かに貴方は強い。だが見えますよ…全ての刃が僕には見えます」

「全て?…これはこれは、驕りがすぎますねぇ、リグル君」



そう言ってクスクスと笑いながら、ネイサーはフードを外し、その金の髪を掻き上げた。仮面は外してはいないが、その髪はリグルのよく見るマーズ=クレイサーのもの。しかしリグルは何も言わず、ただ目の前のネイサーを見据えるのみ。



「ならば本当に見えるか…試してみますか?」



両手を広げ不敵に笑うネイサーに、無言を貫くリグル。対するネイサーも黙ったまま、リグルに向かい剣を構えた。ネイサーの剣が停止すると共に、リグルは地を蹴り突撃する。



「だぁぁぁッ!!」




 ッ、ガギィィィィィンッ!!




甲高い金属音を響かせ交錯する2人の刃。競り合う刃を軋ませ、刃越しに睨み合う両者。



「ふっ…けっきょくはぬるい剣だ…大口を叩くにはまだ早いのでは?」

「まだ誰も全力でとは言っていませんよ」

「ほう……ッ!?」



突如ネイサーの視界からリグルが消え、力を込めていたネイサー剣が何も無い空を斬る、っと…



「貴方の剣…それは"音速の剣"…」



ネイサーの背後から聞こえるリグルの声。咄嗟に振り返る目の前に、リグルの振り切る剣の刃が迫る。



「ッ!?」



瞬間的に身を屈めるネイサーの上スレスレを斬り裂くリグルの剣。身を起こすと共に握る剣をリグルめがけて振り払う。再び火に水をかけたような「ジュッ」っという音を発て、ネイサーの斬撃とリグルの盾がブツかり合う。



「見事な空蝉ですね…」

「これも貴方に教わった事……だから『見える』と言ったはずです」

「ハッタリではないようですね……嬉しいですよ、リグル君」



剣と盾を互いに弾き、再び開く間合い。すると……



「――…ぐっ…」



突然キリの体がピクっと動いた。その姿はリグルの視界にも映っており、盾を構えつつキリに向いた。



「宮殿王!無事ですか!?」



するとキリの頭がゆっくり回り、その表情をリグルに向ける。



「リグル…お前…」


「――…うぅ…」



すると隣に倒れたリーシェの体も動く。これにはネイサーも構えた剣を下ろし、小さなため息をもらす。



「おやおや…まだ生きてましたか」



だが取り囲む信者達は武器を一斉にキリとリーシェに向け、とどめを刺そうと意気込むも……



「ストップ」



そのネイサーの言葉に、既に1、2歩踏み出していた信者達も「何だ何だ」と言わんばかりの戸惑いを見せながら動きを止め、静かに武器を下ろす。



「せっかく2人が起きたんですから…どうです?新しいゲームといきませんか?」

「新しい…ゲームですか…?」



表情を引きつらせるリグルの脇で、自らの武器を枷にふらつく体を立ち上がらせるキリとリーシェ。立ち上がるも、未だ体を伝う血が床にポタ…ポタ…っと滴り落ちており、傷により視界が揺れているのだろう…足元は小刻みに震え、立っているのもやっとに見える。


その姿にネイサーは軽く「クスっ」と笑い、話しを続けた。



「ルールはこうだ……わたしとリグル君が戦う間、彼らにはまた信者達と戦ってもらおうか」



そう言って両手を開き、信者らをなぞる。



「…どういう意味でしょうか…?」

「勝敗は簡単ですよ。わたしが勝つか、君が勝つか。そして彼らが勝つか、信者が勝つか…ですよ。つまり、どちらかが負けた時点でゲーム終了」

「相変わらずですね。戦いをゲームとしか思わない性格は…」



不服ともとれる表情でネイサーを睨むリグル。しかしネイサーはその目を見ようとはせず、「さぁ何の事でしょう?」っと両手を上げて首を横に振る。



「ところでリグル君。1つ聞きますが、援軍は到着したのですか?帝国の」

「援軍?…はい、もちろん到着してますよ。こちらにはラーグ族、モルハス族の軍もいます。もはや形勢は――…」

「逆転とでも言いたいのですか?」



そう言うとネイサーは自ら仮面を外し、その素顔をリグルに晒す。覗く顔はやはりあのマーズのもの。



「…どうしたんですか…自ら素顔を見せるとは…」



しかしリグルの問いには答えず、ネイサーは黙って髪を掻き上げる。



「リグル君。忘れちゃいないでしょう?私は帝国四部隊隊長の1人。マーズ=クレイサーでもあるんですよ?」

「…そのようですね…」

「それと知ってましたか?私はもう隊長ではなくなるんです…本部隊所属となります」

「そっ、そんな話し…聞いてませんが…」

「でしょうね。君がサカンドラに行った時にきた話しなんだ…帝国軍部の団長閣下【バーン=ロッソ】氏の訃報と共にね」

「なっ!?」

「察したかい?…そうです、私が後任なんですよ。帝国軍騎士団長にね…」

「ッ!?」

「君が本部に援軍要請をした事くらい知ってるさ……もちろん、処理はさせて頂いたがね」

「う…嘘だ…」




◆◆◆――…




「行くぞ!!反逆者、リグル=バイスンを捕らえるのだァ!!」



ゆっくりと上陸する帝国の軍艦2隻。



「同じ帝国兵とて容赦はするな!!反逆者達には罰を!」

「他の罪人達も共にいる!決して逃すな!!」




◆◆◆――…




「さぁやりましょうか。リグル副隊長」



リグルを見据え、剣を構えるネイサー。



「…貴方はもう、隊長…いや、僕の憧れたマーズ=クレイサーでは無いようだ…」



向かうリグルも剣を構え、切っ先をネイサーに向ける。



「覚悟しろ、ネイサー」

「それは君が、ね?」



 対峙する2人を横目に、キリが頭を左右に振る。



「くっ…視界が揺れやがる…」

「あら、始める前から言い訳かしら?」



頬に飛んだ、自分のともわからぬ血を拭うリーシェ。



「へっ…おっさんには連戦はキツいんだよ…」

「全然おっさんなんかには見えないから大丈夫よ」

「年齢を気にして言ったんじゃねぇから、そっちのフォローは要らねぇよ」

「そう…ならもうひと頑張りね?おじ様」

「若いモンは元気だこと…まぁいい、とっとと終わりにしちまおうぜ、お嬢ちゃん」

「えぇ、やりましょ」



そう言い合い、ゆっくりと武器を構えるキリとリーシェ。互いに視線を合わせ、同時に地を蹴り信者の軍勢に突撃していく。




◆◆◆――…




 戦闘の怒声の響き渡る大聖堂ザーバス内。大聖堂ザーバスの長【セリエフ】の座る玉座の間にも、その音と振動は伝わっている。


【セリエフ】…それは長く伸びた白髪を頭のてっぺんでまとめ、少し垂れ下がった尖り耳の覗くカナフィーリン族の老婆。緋色のコートに身を包み、120センチ程しかなさそうな小さな体である。目は開ける力もないのか、笑ったようなラインを描き閉じられている。


その近くにはシレイスが立ち、ナイフを片手に辺りを警戒するように見ていた。



「ご安心下さい。セリエフ様はおれが守りますから」

「すまんのぉ、シレイス…だが本当に危ない時はお前は逃げなさい。戦わずとも、わしを置いて生き延びよ」

「なぁ~に言ってんですかセリエフ様。いくらセリエフ様のお言葉でも、それだけは呑めないいっスわ――…っ!」



…っと言った瞬間。突然室内に感じられる人の気配に、シレイスは「誰だ!?」っと構えたナイフを手に、辺りを見渡す。


そうすると、柱の陰からリュカが両手を上げた状態で現れた。



「ごめんごめん。僕だよシレイス」

「何だ…リュカ様でしたか」



リュカの姿にひと安心するシレイスはナイフを下ろす。するとセリエフは表情を和らげリュカに向く。



「おぉリュカや」

「やぁ婆ちゃん。怪我してないかい?」

「わしはよい。それよりリュカや、我が民達は無事なのか?誰も死んではおらんじゃろうな?」

「大丈夫だよ。僕の力で皆守っているさ」



そう言うリュカは、「え?」っという表情のシレイスにウィンクをして見せる。


元々ザーバスの成り立ちは、身寄りの無い者や飢餓に苦しむ民を保護する教会であった。『己の状況に怨みを持つのではない。反旗を立てるものでもない。皆で支え合い、皆が皆を守り生きていく』これが本来のザーバスの教え。つまりセリエフは戦自体を望む者ではなかった。


リュカの思考を理解し、シレイスは口を挟まずにそっと1歩下がる。



「婆ちゃんあのね、皆を逃がす準備も出来たから、婆ちゃんも行こうよ」

「逃がすってリュカ様?この建物はどうすんスか?ほっといたら帝国の奴らに…」

「大丈夫だよ。新しいザーバスの地は他にあるから」

「新しい…っスか?」



訳がわからない…っと言ったように首を傾げ、セリエフに向くシレイス。だがセリエフは数回頷いてみせると自ら立ち上がり、リュカに歩み寄る。



「この地でなくとも、皆が安全に平和に暮らせるのならよかろう。のう?リュカよ」

「うん、そうだね」



リュカは笑顔で頷き返し、歩み寄ったセリエフの手を握る。



「じゃあ行こうよ婆ちゃん。ほら、シレイスも行こう」

「あ~はい…ところで、ナックのヤツはどうしたんです?」

「ナックかい?アイツなら後で来るよ」

「どっか行ってるんスか?」

「うん。元仲間にお別れを言いに行ってるんだよ、今」

「あ~…やっぱアイツらも来てるって訳ね~…」

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